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邪竜物語に首を突っ込む編

110-カルラと鈍色

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「麒麟招来!黒狐招来!」
「クロちゃん!キリちゃん!行けー!」
「「御意!」」

 アリッサはすぐに麒麟と黒狐を召喚すると攻撃命令をだしカルラ様へと突撃させる。

 黒狐は2本の尾から青色の狐火を飛ばし麒麟は鹿の様な角から雷撃を放つ。両者の攻撃は強力だがカルラ様は空を飛び回避したりの手にした炎の剣によって薙ぎ払われるばかりで一向に当たる気配はない。

「やっぱりサポートだけじゃむりか~!攻撃はあまり得意じゃないけど……」

 アリッサは杖を取り出し構えた。光の魔力に呼応して陽光の指輪と杖にある光の魔石が輝き魔力を増幅させる。

「光よ屈折し収束せよ!」

 空が暗くなり上空から来るはずの太陽の光が一点に集中しカルラ様に襲いかかる。空を見上げたカルラ様は光の速度を回避することができずギリギリで法輪ほうりんを滑り込ませた。

 光が乱反射し辺り一面は真っ白になる。

「当たった!?」

 光が収まるとそこには斬り伏せられた麒麟が力なく横たわっていた。

「太陽神の力とはいえ熱に変換してしまっては炎の化身である我には効かぬ!」
「キリちゃん!」

 アリッサの呼びかけも虚しく麒麟は光の粒子となり元の世界へ戻っていった。

「主!このままでカルラ様と対峙するのは厳しい!白狐を呼んでくだされ!」
「え?シロちゃんを?……うん、わかった何か考えがあるのね」

 アリッサは前に見たことのある白狐を呼ぶようだ。なにか特別なことがあっただろうかとゲームの記憶を探ってみるも白狐と黒狐を同時に出すとなにかありそうという噂だけで特に何も浮かばなかった。

「白狐招来!」

 黒狐は召喚された白狐にすぐに駆け寄った。

「白狐!カルラ様に対応するにはやるしかないぞ!」
「そうですね……主の魔力も十分……」
「なになに?シロちゃんとクロちゃんなにかするの?」
「主、魔力の大部分を使うことになるがよろしいか?」
「わかった!」

 白狐と黒狐はカルラ様の前に立つ。アリッサはインベントリから[魔力の泉金属札]を使い魔力消費に備えた。

「ほう……その者は、お前たちがそこまでするほどの器か……」

 そう言えばカルラ様って白狐に乗っている姿が描かれてたりしたから知り合いなのかしら?

「行くぞ白狐!」
「よろしいですよ黒狐!」

 白狐赤い炎を纏い、黒狐は青い炎を纏いながらアリッサの周りを円を描くように走り回る。

「「魂混献コンコンコン!」」

 紫炎がアリッサたちを包み込む。アリッサが不安そうな表情をしていないのできっと危険なものではないのだろう。

鈍色空狐にびいろくうこ降臨!」

 炎が引くと白狐と黒狐の姿はなく、巫女服に身を包んだ女性が現れた。透き通ったグレーの長い髪が熱気に煽られなびいている。頭には大きなグレーの毛皮の狐耳が生えている。しかし残念ながら空狐に可愛い尻尾はなかった。不安になり顔を覗き込むと、いろいろ変わっているけどたしかにアリッサの顔だった。ホッとすると同時に顔の横にも耳が見えて、ケモ耳と普通の耳が両方あるので合計で4つ耳があるのが気になったけど今はそんな事はどうでも良い。

 カルラ様は、炎を纏った法輪を盾のように構えた。

「魂を2つに裂かれ善狐として封じられてから数百年……悪狐の頂点が再臨したか……相手にとって不足なし!参るぞ!」

 カルラ様の剣から放たれる炎の斬撃波やアリッサの放つ赤と青の火球が激しくぶつかり合う!とばっちりで私に当たってちょっと熱い。法輪で火球をいなすのは良いけど方向を考えてほしいわね……太鼓の烏天狗さん達なんて逃げ惑ってて可愛そうだわ。

「オン・ガルダヤ・ソワカ……」

 埒が明かないと思ったのか、カルラ様は自身を炎の鳥ガルーダへと姿を変えた。金色の炎に包まれた巨大な鳥は空いっぱいに翼を広げる。

 ……これって山が消し飛んだりしないかしら?

「シロ!クロ!こっちも全力で行くよ!」

「「御意!」」

 カルラ様の輝きが増しまるで太陽のようにまばゆい光を放ち始めた。

 うわー!なんかものすごい溜めてますけど……本当に大丈夫なのかしら……不安しかありませんわ。

迦楼羅炎かるらえん!」

 カルラ様は口から放たれた眩しいほどの金色の業火がアリッサを襲う。

紫炎輪転しえんりんてん!」

 アリッサは右手に赤左手には青の特大火球を作り出し迦楼羅炎に向けて放つ。2つの火球は回転しやがて紫炎の竜巻へと姿を変えた。

 金と紫がぶつかり合い互いの炎を散らし凄まじい熱が周辺まで及ぶ。

「うわわ!人がいますよ!人が!ああああ!あつううういいいい!」

 私は急いでその場を離れ木の裏へと逃げ込んだ。暑いので顔を出すわけにも行かずなんとなく空を見上げたら太鼓の烏天狗さんたちは点に見えるほど遠くの空まで避難していた。

 静かになったので木の陰からちらっと顔を出して様子をうかがった。

 元の姿で仁王立ちするカルラ様と変身が解けて2匹と一人になったアリッサたちがいた。

 戦いは終わったようですね……石畳は黒いすすが付き周辺の樹木は焼け焦げて煙を上げている。

「見事な戦いぶりであった!我を呼び出す事を認めよう!」

 カルラ様がそう言うとアリッサの目の前に光りに包まれた[奥義書]が現れ浮かんでいた。

「ありがとうござます!」

 疲労困憊で奥義書を受け取ったアリッサは気が抜けたようで石畳にぺたんと座り込んだ。私は苦情を言ってやりたくてカルラ様へずんずんと近付く。

「もー!ものすごい暑かったんですけれど!周りの迷惑も考えて下さい!」

「……」

 カルラ様にギロッと睨みつけられると、私は先程までの勢いを失った。……神様に苦情とか言ってよかったのかしら?

「すまない、興が乗ったのでな、つい力が入った。許せ」
「わ、わかっていただければよろしいのよ!」

 勢いで言ってしまったので急に態度を変えるのもおかしいと思って口調を維持してしまった。

「ちょっとマルレ!カルラ様!不肖の姉が申し訳ありません!」
「良いのだ我が配慮にかけていた」

 そう言うとカルラ様は水瓶のようなものを取り出しキラキラした虹色の液体を振り撒いて焦げた樹木やすす汚れがついた石畳をきれいに修復した。

「さて、以上で奥義試験は終了である。これは試練突破の証の平和の花だ」

 アリッサの胸にブローチのように蓮華の花が現れた。

「我はこれから邪竜の放つ蛇を喰らいに行かねばならん。それではさらばだ。」

 カルラ様はそう言い残すと光の柱を登って天へと帰っていった。

「いやったー!」
「おめでとうアリッサ!」

 私達ひとしきり喜ぶと、葉っぱがキラキラ輝く森の中を通り抜け山を降りた。

 登山口で見張りをしていた山伏たちはアリッサの胸の蓮華を見た途端に私達の手を引き観光地とかした参拝客用の登山口に連れて行くと一言発した。

「迦楼羅天様に認められし御方がいらっしゃいました!皆のもの宴の準備を!」

 やった!お祭りよ!飲み放題食べ放題よ!

「わー!アリッサのおかげでお祭りだわ!」
「私がお祭りの主役!?」

 カルラ様の恵みを受けた森の木の葉はキラキラと光り、太鼓や笛が鳴り響き参拝客や住民たちは篝火を囲んで踊りだした。飲めや歌えの大騒ぎは朝日が差すまで続いた。
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