怪力悪役令嬢は冒険者になりたい!

タハノア

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邪竜物語に首を突っ込む編

115-英雄譚の終り

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 地面へと降り立った彼女は長い黒髪はポニーテールにくくられていて、キリッとした顔立ちは荘厳さを感じさせる。服装は白地に金の刺繍のローブだった。

 私はこの人を知っている。と言うか私の一部になった神の使いと名乗る謎の人物だ。

「おつかれ様でした無事に英雄が生まれました」

 英雄が生まれた?私はピンと来た邪竜伝オンラインで邪竜が討伐された後にエードに建てられた英雄の碑に名前が刻まれることを。

「その姿!まさかあなた様は天への案内人である。[誘い人]様ではありませんか?」

 レンさんがそう訪ねると神の使いさんはニコリと笑う。

「そうですねぇ……誘い人、戦いの女神、ワルキューレ、ヴァルキリー、死神、勧誘者、神の使い、私のよび名は無数にありますよ」
「となるとこの度は……」

 レンさんとサキさんは外道丸さんと私達をじっと見つめる。

「お察しの通り外道丸さんを勧誘しに来ました。」
「うーん……あっ!転移させた時に現れた神の使いとか名乗ってた人だ!って地球で俺死んでるの!?」

 対面したことにより記憶の封印が解けすべてを思い出したようですね。アリッサもあっただけで思い出したのになぜか私だけ綺麗な装飾のついた木槌で頭を思い切り殴られたのよね……

「さて、これより先は内密な話になりますので外道丸さん以外の時間を止めさせてもらいますね」

 彼女はそう言うと私を思い切り殴った例の木槌を取り出し空中をコツンと叩いた。するとあたりの景色から色が抜けていき白黒の世界へと変わっていく。レンさんもサキさんもアリッサも白黒になていくのだけれど外道丸さんと神の使いさんの色は失われずにいる。そしてなぜか私も……

「なんだ?みんな止まっちまったのか?ってマルレは動いてるな……」
「……そうでした。時止めの対象から私を除外したらあなたも除外されてしまうのでしたね」

 私は彼女の半分を引きちぎって自分に吸収したので時間が止まらなかったようです。

「えっと……なんかいろいろとごめんなさい」
「もう済んだことです。それにあなたにならこれから彼に話す事を聞かれても問題ないでしょう」
「マルレは神の使いさんになにかやったのか?」

 私のやらかした押しかけ転生事件はスルーしてくれるみたいで、神の使いさんは外道丸さんに向き直ると私達の前に現れた理由について話し始めた。

「トラブルを抱え停滞を余儀なくされていましたが、英雄譚の終りを迎え無事に英雄が誕生しました。そこでこの世界からお願いがあります。」

 英雄の誕生?世界からのお願い?アリッサや外道丸さんがこの世界に呼ばれた理由と関係があるようですね。

「この世界を守る[スペクトル]の一員としてあなたを迎えたいと思います。」
「さっぱりわからねぇ!いったいどういうことだ?」
「肉体を捨て魂と魔力だけで構成された[スペクトル]として生まれ変わりこの世界の守護者の一員となってほしいのです」

 魂と魔力だけの存在……

「……それって死ねってことか?」
「いえ、そうではありません。この話は肉体としての生を終えた後の話です。まあ、今すぐ連れて行くことも可能ですが……」

 そう言うと空中にできた謎の隙間に手を突っ込み大きな鎌を取り出して、柄を地面にドスンと打ち付けた。

 ああ……時間停止が終わったら首がはねられた死体だけが残ってるってわけね……それで死神とも呼ばれているのね……

「いや!間に合ってます!死んだ後でお願いします!」
「そうですか勧誘を受けてくれてありがとうござます。ではあなたに肉体の終りが訪れたら迎えに参りますね」

 英雄は死してこの世界の守護者になるか……なんだかすごい世界に来てしまったようね。

「さて、外道丸さんとのお話は終わりました。後はあなた達姉妹のお話に移りましょうか」

 何かしら私だけだと嫌な予感しかしないけどアリッサもだとひどい話でもなさそうですわね。神の使いさんは木槌を取り出しアリッサをポンと軽く叩き時間を動かした。

「うわ!え?何?白黒?これが時間を止めるってこと?」

 アリッサは時間が動き出し辺りを見回している。まるでたった今周囲の時間が止まったような振る舞いをしていることから本当にアリッサの時間が止まっていたのだとわかる。

「外道丸さんとの話は終わりましたので次はあなた方姉妹の話に移りますね」
「え?私とマルレ?」
「私達になにか話があるそうよ」

 スペクトルとやらへのスカウトかな?だったら3人一緒でいいわよね?一体何の話でしょうか?

「まずは停滞していた世界を再び動かし無事に英雄を誕生させていただきありがとうございました。」
「あ!そういうことでしたのね!いいのですよ成り行きでしたから」
「だね~住民の方々も困ってたみたいだし」
「そういや二人に会ってからすぐだな討伐が動き出したのは」

 成り行き上と言うかむしろ労働の対価に日本人村の許可をもらっているのだからギルドの仕事をするのと何ら変わりがない。

「そこで、お二人にはこの国のシステムから2つを国外でも使えるように計らいます」

 システムを国外でも使える?まさか!国外に出るとスキルが使えなかったりするってことなの?一体何のためにスキル上げしたのよ!

「この国のシステムってのはもしかしてスキルのことですか?」

 私より頭の回転が速いアリッサがすぐに質問をした。

「いえ、スキルはあなた達の中にあるものですからどこへ行こうと使用できます。アリッサさんの光魔法もマルレさんの流魔血も使えているでしょ?」

 たしかにそうね、ではシステムってなんでしょうか?さっぱりわからないわね。

「システムとは能力開示、荷物、電報、任務、などの事です」
「ちょっとまってくれ!俺は外国に行ったらインベントリが使えなくなるのか?」
「いいえ、この国で生まれた方はどこへ行こうと全てのクロービシステムにアクセスできます代わりに国外のシステムはその国でしか使用できませんが」

 外道丸さんは使えると聞いて一安心していたけど彼は外国に行く予定でもあるのでしょうか?

 そう言えば私達の出身国のレイグランドにはなにかシステムとかあるのかな?乙女ゲーにステータス画面とかってあったっけ?クリア後特典のスチル図鑑とかはありそうだけど。

「レイグランドにはなにかあるのですか?」

 私が神の使いさんにそう質問するとアリッサがなにかぶつぶつと言い出した。

「え~心密度は隠しパラメーターだし、能力をあげるタイプでもないからステータスもなかったし、あるとしたら会話ログ?あれ?会話ログって寝る前にしか見れなくて羊皮紙に手書き風の文字だったような?え?まさか主人公って一日の会話を全部紙に書いて保存してたの?キモッ!ってそれ今の私だ……」
 
 思考が口から漏れてるときは無視してあげるほうがいいわね。

「残念ながらレイグランドには何もありません」
「そうでしたか」
「それでどの機能にしますか?」

 アリッサと私は話し合いの結果、もう手放せなくなった[荷物]とこれから便利そうな[電報]を選ぶことにした。ステータス表示は気になったらクロービに戻ればいいわよね。

「わかりましたではお二人ともこちらへ」

 私とアリッサは神の使いさんの前に並んだ。彼女は木槌を取り出すとアリッサの頭をぽんと叩いた。

「これでクロービ国外でも使えるようになりました。おめでとうございます」
「ありがとうございます!」

 アリッサの儀式?は終わったので次は私ですね。

 神の使いさんは木槌を頭の後ろに行くほど振りかる。

 あれ?なんでそんなに振りかぶっているのかしら?足も適度に開いてますし……それに口元だけ笑っている?

 そんな疑問を持っている私に、殺す!と言わんばかりのスピードで木槌が振り下ろされた。

「へぶぅう!」

 あああああああ!いたい!痛い!なんてことするのよこの女!

 まさかそんな思いきり来るとは思っていなかったので避ける暇もなく頭に直撃したわ!

「痛い!いきなり何するのよ!アリッサは軽くだったじゃないの!」
「プッフフフ……またへぶぅうって」
「お、おい?マルレ?変な音でたぞ?大丈夫なのか?」

「魔力が高いので強くしないとダメでしたので……ごめんなさいねぇ」

 絶対軽くでも良かったはず!私の奥で誰かがそう言っているわ!

「嘘でしょ?それ嘘でしょ!」
「いえ、本当です」
「嘘おっしゃい!まだ根に持っているのでしょ!」
「いいえ、その様な事はありません。力を奪われて怒っているだとか私の半分が仕事を投げ出して楽しくやってるのが癪に障るといったことは一切ありません」

 うわぁ!完全に根に持っています!きっと殴る機会を虎視眈々と狙っていたに違いありません!わたしは頭を擦りながらこの人は要注意人物だと心に刻みこんだ。

「さて次は外道丸さんの報酬ですね」
「おお!俺にもなんかくれるの?」
「あなたのスキル限界値を30増やして差し上げますスペクトルになる前にさらに研鑽を積んで下さい」
「うおおおおおお!すげーマジか!ありがとうございます!」

 神の使いは木槌で外道丸さんの頭をぽんと叩いた。やはり私の時のようにあんなに強く殴る必要はなさそうですね……

「おお!増えてる!95になってる!すげー!」
「さて残りのお二人にも褒美をあげなくてはいけませんね」

 神の使いさんは空中を木槌でコツンと叩くとあたりの景色に色が戻っていった。

 うーんやっぱり時間停止するときも解除するときもかなり軽く叩いてるわね……

 時間停止が終わって世界は再び動き始めた。レンさんとサキさんは世界と同時に動き出したためきっと何も起こっていないように感じているはずだ。

「内密な話は終わりました」

 神の使いさんの言葉を聞いて二人は本当に時間が止まっていたのかわからないようで私達3人の顔を伺ってきたので肯定する意味で頷いておいた。

「さてクロービのお二人にも邪竜退治の褒美として超越者と同等の力を与えます。その力でこの国をより良い方へと導いてくださいね」

 二人は勢いよく頭を下げた。

「ありがたきお言葉!」
「ありがたきお言葉にございます!」

 神の使いさんはちょうどいいとばかりに下げた二人の頭を木槌でポンと軽く叩く……
 
 むむむ!

「では皆様さようなら、英雄へと到達し再び会えることを願っています」

 神の使いさんはそう言うと天から光を受けてふわりと浮き上がり空へと登っていった。皆がお辞儀をして見送る中「ちょっと!やっぱり強く殴る必要ないでしょ!」という私の叫び声が虚しく響いた。
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