怪力悪役令嬢は冒険者になりたい!

タハノア

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自分達の物語に決着をつける編

144-古霊の最終手段

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 レイグランド国の北東にあるトラディネントの屋敷で、300年存在している亡霊が側近の死を感じ取っていた。

「おのれ!やはり自分以外の者は当てにならぬ!」

 2代目の王アウゲル・セイントレイトの亡霊は、ゴテゴテと宝石がついた玉座から立ち上がると怒りに任せて武器棚をひっくり返した。不快な金属音と共に単槍が床にばらまかれた。

「もう遊びは終わりだ……」

 アウゲルはそう言うと懐からあるものを取り出した。

 金属製の先が尖った六角柱のような魔導具だ。これは強大な力を持った者が弱ってる隙に奪い取ったものである。

 彼はこの彫刻刀の魔導具を手にした途端流れ込んできた使用法とその効果に、驚くと同時に神がこの国を取り戻すために与えたものだろうと考えた。

 彼は手に入れた3つの魔導具のうち効果が重複するが下位の道具2つを部下に与えたが、その二人は見事に失敗し怒りに震えていた。

 細々とした裏工作も、勇者を倒すために大群を率いたこともすべて失敗に終わった……

「真王さま!大変です!第二王子が枢密院の者を引き連れて攻め込んできました!」

 慌てて部屋に入ってきたのは、この屋敷の主人で元魔術師団の団長ガパオロ・トラディネントだった。

「ぐぬぬ!こちらもか!遊びは終わりだ!今からお前にグールの軍勢と力を与える!」
「ははっ!ありがたき幸せにございます!」

 するとアウゲルは手に持っていた彫刻刀を振り上げると、頭を垂れているトラディネントの背に向けて思い切り振り下ろし突き刺した。

「ぐああああ!しっ真王様なにを……」
「さぁ!お前の力を見せてみろ!」

 戸惑いと恐怖の中でトラディネントは血溜まりに崩れ落ちた。

「さて……ターダよりマシな体になってほしいものだな……」

 トラディネントの変化が始まる!体から離れた魂はまばゆい光と共にスペクトルへと変化し始める。

 魂からは魔力が溢れ出て辺りにトラディネントの保持属性である炎と風が巻き起こった。

「オオォオオオオアオアアアオオオオオオオ!」

 地響きのような叫び声が止むと6割ほど変化した魂がトラディネントの体へと戻っていった。

「ターダよりは、マシのようだな……意識があるなら上々だろう……」

「オオ!チカラ ガ アフレル!」

 火と風でボロボロになったとうてい生きてるとは思えない、トラディネントの体が起き上がり拙い言葉で話し始めた。

「ふむ……なかなか、やるでは無いか」
「オホメニ アズカリ コウエイ デス」

 トラディネントは、頬がえぐれ歯が見えている顔にボロボロになったローブのフードをかけると、アウゲルの前に跪いた。

「今からお前をリッチロードと呼称する!」
「ロード ノ ナ ヲ サズケテ イタダキ コウエイ デス」

 アウゲルは満足げに腕を組むと玉座へと腰を掛けた。

「よし……行けリッチロードよ!グールの軍勢を率いアークを討ち滅ぼせ!」
「リョウカイ シマシタ イダイ ナル オウニ シン ノ チイ ヲ!」

 命令されたリッチロードは部屋から出るとグールの軍勢を引き連れて首都へ向けて進軍を開始した。

「さて……最後の仕上げと行くか……」

 アウゲルは彫刻刀を掲げるとこの道具にしかない機能を使用した。

「スペクトルよ!我の召喚に応じよ!」

 床に大型の魔法陣が広がり赤い光を放つ!

 目を開けていられないほどの赤光が終わると、そこには一人の人物が立っていた。

「ああ?何処のバカ野郎だ!命令厳守モードで呼び出した奴は!」

 そう言い放った人物は、赤い髪を振り乱した野性味のある顔立ちで、筋肉質な体のあちこちに入れ墨のように模様がついている男だった。

 服装は上半身は何も付けておらず、下半身は少し膨らみのあるゆったりしたパンツに、虎の模様の革製の腰巻きが黒帯で雑に結ばれている。

「フハハハ!成功だ!久しぶりだな……」

 アウゲルは見目の良い顔を台無しにするような、気持ち悪い笑みでその男の名前を呼んだ。

「トレイル!」

 そう……この男こそこの国を築いた3人の一人……流魔血の始祖……トレイルその人であった。

「テメェは、アウゲル!ん?その姿は亡霊か……ボンクラの残りカスが何故そいつを持っている」

 トレイルは激昂しアウゲルに殴りかかろうとするが、攻撃の意思を示した途端体の自由が効かなくなる。

「目の前に弱った女が降ってきたのでなぁ、ありがたく頂いたのだよ……」
「テメェ!ウメちゃんに何をしやがった!」

 アウゲルはニヤニヤしながら彫刻刀を片手でもてあそびながら答える。

「安心したまえ、仕留め損なったよ。だがこの道具は頂いたがな……」

 トレイルは再度攻撃仕掛けようとするが腕を振りかぶる前に体の動きを制限された。

「クソ!いつか必ずテメェをぶちのめしてやるからな!」
「フハハハ!この国の愚か者を全員殺した後でなら考えて、やらんこともないぞ?」

 トレイルはアウゲルをにらみつけながらも、少し余裕を見せる。

「残念だったな!スペクトルへの命令は、何かを止めろという静止命令は絶対だが、やりたくない命令は拒否できるんだよ!」

 しかし、アウゲルは余裕の笑みをこぼす。

「そんな事はこの魔導具を持ったときに理解しておる。全滅させろとの命令は聞けないがこうならどうだ?」

「強者と試合をし、相手が動けなくなるほど追い込め!」

 トレイルは虐殺など絶対にお断りだが、彼の性格上強者と試合しろという命令は、やりたくないことのうちには入らなかった。強者との試合はスペクトルになった目的でもありライフワークの一環であるため彼は逆らうことができない。

「クソ!きたねぇぞ!」
「ふん!お前が相手を倒したら私がとどめを刺してやるからありがたく思え!フハハハハハハハ!」

 トレイルが歯ぎしりをする目の前でアウゲルは高笑いをした。

「さて!王都へ凱旋と行こうか!」

 アウゲルはこの地をリッチロードに任せ、トレイルを引き連れて首都へと飛び去っていった。
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