怪力悪役令嬢は冒険者になりたい!

タハノア

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自分達の物語に決着をつける編

153-農都襲撃 ― 亡霊

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 ヴィクトルが取り出したのは、小脇に抱えられるぐらいの大きさの壺だった。

 その壺は、下の部分は普通の壺と同じ形だが蓋の部分は、胸像のような形になっている。その胸像は、いま目の前で空を飛んでいる亡霊の顔とそっくりだった。

「止めろ!それを開けるな!」

 焦るアウゲルの静止も聞かずヴィクトルは、壺をそっと地面に置き胸像の部分を掴むと壺の蓋を開け放った。

「ぐあああ止めろ! まだその時ではない! ぐううううう!」

 アウゲルが苦しみだすと、壺の中身がゆっくりと空中へ浮かんでゆく。

 それは、ドクンドクンと脈打つ心臓であった。

 生命封印カニマシール――アウゲルが、開発した死後に再びこの世に復活するための魔法だ。この魔法は、自分の心臓に体の魂ともいえる[カニマ]を閉じ込め活かしたままにすることで、生命力を貯め込むのだ。

 300年前アウゲルがトレイルに抹殺された時に、首をはねられたのだが、残された体は無傷だったためすぐに部下がこの封印を行ったのだ。

 通常の亡霊は、常にカニマによって死後の世界へ引かれるためるため本領を発揮できないが、カニマを封印したことによりアウゲルの力は強大であったが、今その封印が解かれた。

 亡霊のアウゲルと脈打つ心臓は、互いに引き合い重なり合う。心臓は、魂を受け入れると、溜めた生命力が激流となり周囲を漂う。

 心臓を中心に骨が、肉が、血が蘇り体を再生してゆく……

 融合反応が終わると、そこには、亡霊と同じ姿をした人間が一人横たわっていた。

 アウゲルが再び国を支配した後に子孫を残すために行った魔法が、あだとなり不滅の体を失ったのだ。

「よーし!カヴァの言ったとおり生身の人間に戻ったぜ!」
「そうだろ?やはり俺のカンはただしかったな!」
「さっさと片付けよう……」

 未だに息が上がっているアウゲルに対しラーバルの兄ルーバード、アークの兄カヴァナント、マルレの兄ヴィクトルの3人は、武器を構えた。

「おのれ!おのれ!おのれー!」

 アウゲルは、狼狽しながら立ち上がると、防御力が皆無の裸体に、すぐに光の鎧を生み出し身にまとった。

 頭の上には、黄色いが浮かび、背中には白く大きな翼をはためかせている。体は、金装飾のついた鮮やかな青の軽鎧に包まれていて、手には光そのものともいえる長剣を携えていた。

 これは、セイントレイト家の始祖レイトの先祖である[の一族]を模した鎧であった。

「増長せぬようにと先祖のレイト様が封印した環の一族を形どった鎧か、趣味が悪いな」

 レイトが封印したこととアウゲルが愛用していたことで、忌み嫌われている装備であった。

「うちの家にとっての槍みたいな存在か?」

 ルーバードが、自分の家の事情に当てはめた感想を漏らす。

「……」

 ヴィクトルは、無言で鎧姿のアウゲルを睨みつけている。

「まぁ似たようなものだが、何よりドレストレイル家の者があの鎧を見ると、何故かめちゃくちゃイラつくみたいなんだ」

 カヴァナントは、ルーバードの肩をたたいてヴィクトルを指さすと、ルーバードは、指されたヴィクトルの憎悪に満ちた顔を見てたじろいだ。

「……殺るぞ」
「おう!」
「あー、これは俺に決着つけさせてくれない感じかね?」

 ヴィクトルが影を広げたのを合図に戦闘が開始された。

 影から逃げる様にアウゲルが空へと飛び立つ、それを追ってルーバードが両手剣を構えながら跳躍する。

「遅い!」

 恵まれた体格からは予想できない速さでアウゲルを追い越すと、振りかぶった両手剣を背中に思い切り叩きつけた。

「ぐぉっ!」

 アウゲルは、その衝撃に耐えきれずものすごいスピードで落下を始める。

「ナイスだ!ルー!」[ゴーレムフィスト!]

 いち早く落下地点を予測したカヴァナントは、アウゲルを迎撃する巨大な岩石の拳を生み出した。圧縮された巨石はアウゲルを地上から上空へと殴り飛ばす。

「……シャドウバインド」

 ヴィクトルの影から大きな黒い腕が伸びると空中に放り出されたアウゲルをギュッと掴んだ。そしてそのまま凄まじい力で握りつぶす。

「うがああ!」

 たまらずアウゲルは絶叫する。アウゲルの鎧はミシミシと音を立ててヒビが入ってゆく。そして影の腕は、アウゲルを地面に叩きつけた。

「おいおい……やりすぎだろ一人で終わらせる気かよ!」

 ヴィクトルの強烈な攻撃にルーバードは追撃をためらうほどだった。落下地点のくぼみを覗き込むルーバードにカヴァナントが大声で呼びかけた。

「離れろルー!ヴィクトルがヤバイの出してる!巻き込まれて死ぬぞ!」

 ヴィクトルは、追撃の手を緩める気はなく両手で闇の魔力を凝縮している。渦巻く漆黒が生み出されてゆく……

「うわ!魔王の魂を取り込んで使えるようになったって言ってたアレかよ!」

 ルーバードは、焦って逃げ出した。彼は、一度その目でこの技を見ていた。アウゲルの壺を守護していた、レッドドラゴンをたやすく葬った技だった。

「開けアビスゲート……すべてを飲み込め!」

 ヴィクトルは作り出した渦巻く漆黒を空へと放った。

 放たれた漆黒の球体は空中で静止すると中で何かがうごめき始めた。

 それは、深淵のような黒い姿をした人間だった。ひとり、ふたりと、黒い球体から這い出るように、どんどん増えてゆくそれは、ついに球体から溢れ出す。ぐしゃっと地面に落ちた深淵の人型は、ゆっくりと起き上がるとアウゲルに向かって走りだす!

「ぐっ!闇の魔術が光属性である私に通用すると思うな!」

 アウゲルは、光の剣で深淵の人型を斬りつけるが、何の手応えもなく深淵の人型に触れた光の剣は消失した。

「なんだと!」

 闇属性に絶対的な優位性を誇る光の剣が、いとも簡単に消失したことに驚きを隠せないでいた。そのことに気をとられていたアウゲルは、触れてはいけない者に触れられてしまった。

「さぁ……亡者たちよ……お前たちを殺した奴を連れてゆけ……」

 アビスゲート――この技は、ヴィクトルが回収していた魔王の魂を自身に取り込んだことにより習得した技であった。黒い球体が、対象への憎悪を持つ魂を深淵の力で一時的に蘇らせ深淵へと引きずり込むのだ。

 深淵の人型は、またひとり、またひとりと、どんどんアウゲルにしがみついていく……

「止めろ!離せ!」

 体のあちこちにしがみつかれたアウゲルは、身動きが取れなくなり徐々に漆黒の球体へと近づいて行く……

「いやだ!いやだ!」

 アウゲルは、恐怖で情けない声を上げ始める。すると周囲の深淵の人型たちから声が聞こえ始める。

「私も嫌だった」「俺も……」「砂漠の民はお前のことを許さないぞ」「さぁこっちへ来るんだ」「お前は、魂の輪廻から外れるのだ」

 深淵の人型は、アウゲルによってグール化された北東の小国郡の市民たちであった。

「許して!許して下さい~!」

 ラーバルたちと戦ってたときとは大違いの態度を取りながらアウゲルは、漆黒の球体に引きずり込まれていった。

「……終わったか」

 アウゲルが引きずり込まれたのを確認するとヴィクトルは、アビスゲートを閉じた。

「おまえ……その技怖いから止めろよ……」
「ああ俺も同感だ……アレがいると心がすり減るような感じがするんだよ」

 ルーバードとカヴァナントは見ていただけでかなりの心労を負ったようで愚痴りながら地面に腰を下ろしていた。

「そうか……それはすまない」

 ヴィクトルが感情のこもってない謝罪をしたその時だった。

「おー!ボンクラの残りカスを始末したのかよ!やるじゃねぇか!」

 突然現れた男に3人の視線が集まる。

 赤い髪の野性味のある顔立ちのその男は、両手にボロボロになった、ふたりの人物を抱えていた。

「ほら!このふたりは、ダウンして動けなくなったぞ!」

 そう言ってヴィクトルの前に投げ出されたのは、満身創痍で唸り声を上げているザロットとファーダであった。

「あー?まだアウゲルの命令が有効みたいだな……悪いけど戦わなくちゃいけねーみたいだ!」

 ヴィクトルは、冷や汗をかきながら座り込んでいるふたりをちらりと見ると呟いた。

「相手は初代様だ……ふたり共、死ぬ気で足掻けよ……」

 これから本当の戦いが始まる……

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