轟町ヒルサイト ―― On Her Majesty 's Private Service ――

甘野正雪

文字の大きさ
2 / 46
第一章 深窓の麗人って窓が無きゃ、ただの引き籠りだよね

第一章―02

しおりを挟む
 教室の窓側。
 その、最後尾の席。
 それが大学に上がってこのかた彼女の指定席であり続けているのもまったく不思議なことなのだけれど、さらに不思議なことは、今や、教授も含めクラスの全員がそれを当り前のように思ってしまっていて、選択授業においても誰一人その席を希望する者もなく、その席はもはやこの大学において存在していないかのような、そんな存在と化してしまっていることだ。
 その「不存の存在」というゆがんだ立ち位置は、その席に座る彼女をも含めている。
 ――孤独。
 彼女のバリアが作りだしたその副産物は、裏を返せば、彼女が作りだしたものであり、彼女は人付き合いが苦手…苦手っ? いや、むしろビシッと断ち切っていると言って良い。
 ――そんな孤独。
 他者から与えられたものでなく、彼女みずからが勝ちとっているかのような、その『孤独』という言葉は、少なくとも悲惨に響くこともなく、むしろ彼女を表現するうえで有用なアイテムとしてあるかのようである。
 机に頬杖をついてアンニュイに窓外そうがいながめる姿は、まさに薄幸はっこう麗人れいじんえがくうえでもっとも秀逸しゅういつなモチーフとして絵画の教科書に掲載されてもおかしくないほどに、その孤独と高雅さとを表出している。
 しかしそれだけだ。
 それだけだった。
 彼女は、もはやどうでもいい存在としてクラスにある。それは良くも悪くも、いや、可もなく不可もなくただ存在しているというだけで、それこそ多次元の額縁にかざられた皇女の肖像画のように、ちょくせつ親交をむすばぬ者がそれを見たとして華麗とは思ってもそこに何の感慨かんがいも浮かばず、見慣れていくうちにやがて忘れ去られてしまうといった具合に。
 ――人畜無害のファントム(亡霊)。
 ――血を吸うことを忘れた吸血鬼。
 ――羽衣はごろもをなくした天女。
 ――みあがりの月。
 ――日蝕の太陽。
 と様々に囁かれた別称にみるように、彼女に対する憧憬しょうけいはうすれ、もはや架空の、2次元的存在として映っているのだ。
 もっともそれは、大学2年ともなれば学問・部活・遊興を問わず、おのが専心する道を見出みいだす時期でもあり、そうなると昼間に昇った月のことなど誰も興味を抱くはずもなく、それにて、彼女の存在もまた希薄きはくになってしまったということなのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

処理中です...