轟町ヒルサイト ―― On Her Majesty 's Private Service ――

甘野正雪

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第一章 深窓の麗人って窓が無きゃ、ただの引き籠りだよね

第一章―03

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 おのが専心する道はともかく、興味がないという点においては、彼も同様だった。
 いや、ずっと以前からそうだった。
 大学1年の5月ころ、オリエンテーション旅行で同じ班になったときも、といってもこれは、派閥を持ちようはずもない彼女の受けいれ先が一向いっこうに決まらぬことにごうを煮やした担当教授の乳の宮(←一ノ宮教授の徒名あだなだ)が、無気力な人間が吹きまってグループをしたような彼の班に彼女をムリヤリねじこんだもので、また、吹き溜まりグループといっても、それは皆、別にばんをはっているわけでもなく、何ごとにも無気力・無感動・無関心、講義に惰眠だみんを貪る怠惰たいださから乳の宮が十把一絡じゅっぱひとからげにくくった連中だったのだけれど、そんな連中でさえ彼女と同じ班になれたことに嬉々ききとしてみせた――そんなときでさえ、彼は別にこれといってどうでもいい…といった感じだった。もっともふたを開けてみれば、彼女が一緒にいるのは点呼のときだけ。あとはまったくの個人行動。部屋割りにいたっては、ほんらい7人が二つの部屋に割り振られるはずが、その一つを彼女の個室としてあてがわれたため、彼らは芋を洗うようにそのすね毛をりあわせて眠らなければならなかった。それでも彼女と一緒の班になれていい思い出ができた…と囁くヤツもいたけれど、彼はまったく共感できずめた心でそれを聞きながしたものだった。
 そう。彼は、ほんとに、まったく、皆無と断言できるほど、
 小春井巻あづき――に興味がなかった。
 そしてそれは、大学2年のゴールデンウィークが目の前にぶら下がっている今日ごろにあってはなおさらだった。
 彼=凸凹坂あいざか 陽炎かげろうに、ちょっとした事件が起こったのは、まさに、そんな今日ごろのことだった。

 小春井巻あづき――と目が合ったのだ。

 もし、それが彼女じゃなかったら「事件」という表現はありなかっただろう。
 そして、彼じゃなかったなら「ちょっとした」では済まなかったに違いない。
 それは一瞬のことだった。
 それは、講義後、教室を出てゆくため、リュックを手にして席を立ったカゲロウが、教室の扉の方を振り向くまでの刹那せつなだった。
 左から右へとパーンしてゆく視界。その流れるような景色のなかに、いつものように机に頬杖をついた小春井巻あづきの姿があった……が、完全に扉の方を向いて一歩ふみだしたところで彼は気がついたのだ。
 彼女が、彼を見つめていた……。
 いやっ、
 にらんでいたっ!
 ――と。
 このとき、もう少しこの事実を深く受止めていたら、あのよるの悲劇は起こらなかったのかも知れない。
 しかしこの時のカゲロウは、それどことではなかったのだ。
 なぜなら、彼にとって――
 今年のゴールデンウィークは特別なものになりべくものだったのだからっ!
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