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第二章 銫はセシウムの意味をもつ
第二章―01
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「凸凹坂くんっ」
実に爽やかでいてピュア!
いやっ、ジェニュインと言っていいっ!
まさにジェニュイン・メイデン(本物の乙女)と言っていい声が背中を撫でた。
それは、別に猫なで声を出しているわけではないのだけれど。
ごく普通にありきたりな女子の声がほんの少しだけ拗ねた抑揚を発しているだけの事なのだけれど。
やはり、人の身が纏っている純粋さや貞淑さといったものは内面より滲み出しているものなんだろう、声というものもまたその内側から溢れて来るものだから、必然、その声音にもそういった響きが滲んでくる……そう、それは、彼女が微笑んでいる時は当り前としても、悲しんでいる時も、さらには怒っている時でさえ、いつもそんな乙女の貞淑さをもってカゲロウを撫でつけてくる。
「なんだ、涼包か」
そう言って彼女の苗字をあらためて確認する必要すらないほどに、それは実に涼包銫の声だった。
「涼包か、じゃなくて、涼包さんか、でしょ?」
彼女がそう言ったのは、なにも自分自身に敬意が払われぬことを不快に思ってのことじゃない。それは、その顔が優しく微笑んでいるのを見れば瞭然だ。
「凸凹坂くん。もっと丁寧な言葉遣いを覚えなきゃだめだよ。大学生ともなれば、もう大人って見られるんだからね」
つまり、そういう訳だ。
「じゃあ、お前さんさあ…」
と、カゲロウが言うと、涼包がプっと吹きだした。
「そんなにウケることか?」
「だって『お前さん』だなんて落語にでてくる女房みたいなんだもん。もう、凸凹坂くんって、いったい何時代のひと」
「涼包が、さんをつけろって言ったんだろ」
ていうか、『時代劇』じゃなくて『落語』なのかよっ。
こいつの趣味はいったいどっち向いてんだっ。
「とにかくさ。涼包サンさあ、ふつうこういった場合は『なんだとはなによっ』とか言って、『なんだ』の方に問題提起するものなんじゃないのか?」
「え? 『なんだ』ってただの感動詞的用法じゃなかったの?」
と、彼女はあっさり彼の命題を解いておきながら、さらに、
「もしかして、もっと違う意味を含んでた?」
などと、申し訳なさそうに、ちょっと斜向いて、上目遣いに微笑んでみせる。
これが、涼包の困ったときの癖だ。
実に爽やかでいてピュア!
いやっ、ジェニュインと言っていいっ!
まさにジェニュイン・メイデン(本物の乙女)と言っていい声が背中を撫でた。
それは、別に猫なで声を出しているわけではないのだけれど。
ごく普通にありきたりな女子の声がほんの少しだけ拗ねた抑揚を発しているだけの事なのだけれど。
やはり、人の身が纏っている純粋さや貞淑さといったものは内面より滲み出しているものなんだろう、声というものもまたその内側から溢れて来るものだから、必然、その声音にもそういった響きが滲んでくる……そう、それは、彼女が微笑んでいる時は当り前としても、悲しんでいる時も、さらには怒っている時でさえ、いつもそんな乙女の貞淑さをもってカゲロウを撫でつけてくる。
「なんだ、涼包か」
そう言って彼女の苗字をあらためて確認する必要すらないほどに、それは実に涼包銫の声だった。
「涼包か、じゃなくて、涼包さんか、でしょ?」
彼女がそう言ったのは、なにも自分自身に敬意が払われぬことを不快に思ってのことじゃない。それは、その顔が優しく微笑んでいるのを見れば瞭然だ。
「凸凹坂くん。もっと丁寧な言葉遣いを覚えなきゃだめだよ。大学生ともなれば、もう大人って見られるんだからね」
つまり、そういう訳だ。
「じゃあ、お前さんさあ…」
と、カゲロウが言うと、涼包がプっと吹きだした。
「そんなにウケることか?」
「だって『お前さん』だなんて落語にでてくる女房みたいなんだもん。もう、凸凹坂くんって、いったい何時代のひと」
「涼包が、さんをつけろって言ったんだろ」
ていうか、『時代劇』じゃなくて『落語』なのかよっ。
こいつの趣味はいったいどっち向いてんだっ。
「とにかくさ。涼包サンさあ、ふつうこういった場合は『なんだとはなによっ』とか言って、『なんだ』の方に問題提起するものなんじゃないのか?」
「え? 『なんだ』ってただの感動詞的用法じゃなかったの?」
と、彼女はあっさり彼の命題を解いておきながら、さらに、
「もしかして、もっと違う意味を含んでた?」
などと、申し訳なさそうに、ちょっと斜向いて、上目遣いに微笑んでみせる。
これが、涼包の困ったときの癖だ。
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