轟町ヒルサイト ―― On Her Majesty 's Private Service ――

甘野正雪

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第三章 限りなく透明に近いブルーは本当にブルーなのか

第三章ー04

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 しかし、高3が終わっていよいよ春休みに入る直前、そのメールは届いたのだ。
 それは、管理人からで、「あなたを面接します……」といった内容のものだった(小説を投稿するさいメールアドレスを知らせていたことは言うまでもない)。
 どうやらカゲロウの小説は、恐ろしくディープでマニアでコアなファンを確立してしまったらしく、そんなコアなファンだからこそだろう、そいつらは、再三再四、カゲロウとチャットさせろッ! …と、もはや脅迫に近いメールを管理人に送り続け、それに辟易へきえきとした管理人がやむなくとった行動だったらしい。
 それでも、自分の素性すじょうがバレるのを恐れたカゲロウがそれを黙殺もくさつしていると、こんどは「お願いだから、助けると思って……」といったメールが届く始末。
 ――いったい、どんなメールが送られてんだっ!?
 そこで情にさおさしてしまうのが、まさにカゲロウの運命だった。
 いや、ここでクールを気取っておけば、あの『春の嵐』は吹き荒れなかったのかも知れない。
 なぜなら、その管理人こそが涼包すずしげ かんなの姉だったのだから。
 まあ、その『春の嵐』は別の機会に話すとして、とにかく、けっきょく、結果として、カゲロウはチャットを余儀よぎなくされたのだった。そのディープでマニアでコアなファンたちと……。
 ファンとはいっても、ふたを開けてみればそれは3人でしかなかった。しかし、この3人がほんとにディープでマニアで、「カウンティス・カーミラ」「胸だけプリン」「栗ピアス」とハンドルネームからして、なんだこりゃっ、てな感じだったけど、おそらく彼女たちなのだろう(ネカマでなけりゃ)、こいつらは毎日必ずといって、チャットルームで待っている。
 一見いっけん、「カウンティス・カーミラ」がまともそうに見えたが、チャットしてみてわかった、コイツが一番危険だっ! …と。はなから彼を下僕と扱い、あまつチャットしてるだけでも、身を切りきざまれてわれてしまいそうな勢いなのだ。
 その真逆まぎゃくで「栗ピアス」は勝手に自分を切り刻んでしまってるかんがあり、チャットによって彼女をメス豚にしつけるのが、どうやら彼の役目のようだった。
 この2人の狭間はざまにあって「胸だけプリン」の存在はオアシスそのものだった。実際のところ「胸だけプリン」もときおり、わけのわからない夢宙むちゅう空間をただよってるところもあったのだけれど、それでも、ジリジリと直射ちょくしゃの砂漠に立たされてればよどんだ水でも「美味うまい!」と飲みせるのが人だろ? …「胸だけプリン」とのチャット時間が増えていったのもまた、カゲロウが人であることを証明したに過ぎなかったのだ。
 そして2日前のこと。
 自分専用のチャットルームを開くと、「胸だけプリン」と「カウンティス・カーミラ」が待っていた(おそらくこれも彼女たちの圧力だろう。もはやカゲロウには専用のチャットルームが特設されているのだった)。
 カゲロウは「胸だけプリン」を選択すると胸が高鳴たかなった。
 そう――デートの打合せなのだ。
 日時にちじ、待ち合せの場所などを伝えて「楽しみだね…云々うんぬん」なんて、その会話ははずむはずだった。しかし、そのかんずっと……といって良い、
 ――「カウンティス・カーミラ」さんが参加を希望しています。
 といったメッセージが立ち上がり、それはもう「胸だけプリン」との会話が成立しないほどの、いや、させないほどの頻々ひんぴんさをもってり返されたのだ。
 ここ数日、ずっとそうだ。
 デートを断ったのを根にもってるに違いない。
 幸運にも、というべきか、彼は3人からゴールデンウィークにおけるデートの申し込みを受けていた(この3人が、どの3人なのかは、わかるだろう)。
 ほかの2人は断った。当然だった。速答だった。スッパリだった。
  「栗ピアス」はあっさりあきめたらしい。ここのところチャットにも顔をださない。もしかしたらショックのあまり寝込んだのか、いや、ヤツのことだ、振られてしまった自分を罰するとして自虐じぎゃくプレイにふけこんでいるのかも知れない。
 ――そういうヤツだ。
 それと真逆まぎゃくなのが、やはり「カウンティス・カーミラ」だ。まるで女王様の逆鱗げきりんに触れてしまったかのごとくチャットの文字に鋭い打擲ちょうちゃくの音さえきざむと、それはもう「逆ギレ」なんて言葉が可愛く聞こえてしまうほどで…、とにかくしつこい。もう、恐いぐらいに。
 ――もうそろそろ管理人さんに言って、コイツをチャットからめだそうかっ。
 とは思ってみるものの、
 ――そうするとまた、管理人さんに恐ろしいメールが届くんだろうなあ……。
 そう考えると、なかなかそれを実践じっせんできない彼であり、そんなままならぬおもいを指先にめ、
 ――くそッ、くそッ、くそッ、このやろうッ!
 と、そりゃあもうゴキブリをたたく勢いで連打して「カウンティス・カーミラ」のチャット要請を却下し続けた。 
 結局、とにかく、なんとか、日時と待ち合せ場所の打合せだけはでき、そして、今日のこの日を迎えたというわけだった。
【時系今戻し▼▲】
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