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第四章 ピアスはきっと、自分で刺した方が痛くない…と思う
第四章―01
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「起きなさい」
夢には不似合いなほど、凛として通る声だと思った。
女の声だったけれど、聞き覚えのない声だった。
透きとおるような声だったのだけれど、それは「水のように…」ではなく「氷のように…」といった感じで、高圧的な冷気を秘めている。
「聞こえているのでしょ」
その声の冷響に木魂するように身体が正直に反応して、自然と頷きをかえす。
そう……、と女は言ったきり暫く黙り込み、またおもむろに、
「なら……早く目を開けることね」
と、語りかけてくる。
「誰……?」
問いかけると、
「わたしを怒らせたいの?」
声は相変わらず冷気を保ったまま凛と響く。
「なんで? なんで怒るんだ……」
微睡みの漆黒に問いかける。
「わたしの声を覚えていない――と自白したからよ」
「なに? わかんないよ……」
「わたしの声を覚えているのなら、『誰?』なんて問いかける必要などないはずよ」
「だって、わからないよ……」
「そう……。なら、早く目を開けて確認しなさい。それに、急がないと、見せ場が終わってしまうわよ」
「見せ場……?」
「随分と反抗的な豚ね。……いいわ、わかったわ」
ぐゥ……ッ!
股間に生じた痛みに身を仰け反らすと逆に痛みが増してしまい、反射的に肉体はベッドの上にはりついてしまう。
痛みの元をたどろうとして、意識が急速に微睡みから現へと、その境を飛び越えてゆく。
――股間が引っ張られているっ!?
いや。
仮性包茎の、その先端の包皮が思っきり引っ張り上げられているっ!
しかも、それは、何か…四角く固い金属のようなもので挟みこまれていて、その四角い角が包皮に喰いこんでいる痛みに思えてならない。
目を開けるのが恐かった。
もしかして……ホッチキス?
――十中八九、そうに違いないっ!
だから、その光景を目の当たりにするにはそれなりの覚悟を必要とするほど、カゲロウの意識はじゅうぶん現に立ち帰っていたのだ。しかし、
――十のうち、一つや二つは、勘違いということもあるだろう?
それに希をたくすように恐る恐る目を開けてみる……。
そこには闇しかなかったけれど、それは、たぶんきっと見慣れた自分の部屋の、その闇の風景に違いなかったのだけれど、そこにボ~…と浮上がっている女の白い顔を見て、彼は驚かずにおれなかった。
今日、彼女に驚かされたのは、これで2度目だ……。
もっとも、時計の針が12の文字を回っていなければ…の話だが。
目がなれてきても部屋は相変わらず闇色のままで、ブルーのカーテンが濃く漆黒の色に染まっていることからも、月光もままならぬ深夜なのだと判じるに容易い。そんな暗闇にあって女の顔がボ~…と見えるのは、懐中電灯よりも小さなLEDのペンシルライトを彼女が手にしているからだ。
「ようやく、お目覚めね」
その声にみちびかれ、網膜が白い影を認識する。
鳶色よりも濃い、限りなく黒に近いその瞳に視線があうと……。
―― 小春井巻あづきっ!? ――
は、笑った。
いや、その顔のほとんどは、いつものように冷淡でいて高貴な造形をそのままに、ただ、唇の片端がクイ…と跳ねあがっていて、それが昼間、公園で見せた、あの『歪んだ冷笑』を彷彿とさせているのだった。
それは相変わらず、笑っているのか、怒っているのか、はたまた単に顔がひき攣っているだけのことなのか、まったく見当のつけずらい表情であったのだけれど、それでもやはり、相変わらず、ただ勝ち誇っている…といった、得も言われぬ高圧感はじゅうぶんに伝わってきた。
「な、なんでお前がここにいるんだっ!?」
夢には不似合いなほど、凛として通る声だと思った。
女の声だったけれど、聞き覚えのない声だった。
透きとおるような声だったのだけれど、それは「水のように…」ではなく「氷のように…」といった感じで、高圧的な冷気を秘めている。
「聞こえているのでしょ」
その声の冷響に木魂するように身体が正直に反応して、自然と頷きをかえす。
そう……、と女は言ったきり暫く黙り込み、またおもむろに、
「なら……早く目を開けることね」
と、語りかけてくる。
「誰……?」
問いかけると、
「わたしを怒らせたいの?」
声は相変わらず冷気を保ったまま凛と響く。
「なんで? なんで怒るんだ……」
微睡みの漆黒に問いかける。
「わたしの声を覚えていない――と自白したからよ」
「なに? わかんないよ……」
「わたしの声を覚えているのなら、『誰?』なんて問いかける必要などないはずよ」
「だって、わからないよ……」
「そう……。なら、早く目を開けて確認しなさい。それに、急がないと、見せ場が終わってしまうわよ」
「見せ場……?」
「随分と反抗的な豚ね。……いいわ、わかったわ」
ぐゥ……ッ!
股間に生じた痛みに身を仰け反らすと逆に痛みが増してしまい、反射的に肉体はベッドの上にはりついてしまう。
痛みの元をたどろうとして、意識が急速に微睡みから現へと、その境を飛び越えてゆく。
――股間が引っ張られているっ!?
いや。
仮性包茎の、その先端の包皮が思っきり引っ張り上げられているっ!
しかも、それは、何か…四角く固い金属のようなもので挟みこまれていて、その四角い角が包皮に喰いこんでいる痛みに思えてならない。
目を開けるのが恐かった。
もしかして……ホッチキス?
――十中八九、そうに違いないっ!
だから、その光景を目の当たりにするにはそれなりの覚悟を必要とするほど、カゲロウの意識はじゅうぶん現に立ち帰っていたのだ。しかし、
――十のうち、一つや二つは、勘違いということもあるだろう?
それに希をたくすように恐る恐る目を開けてみる……。
そこには闇しかなかったけれど、それは、たぶんきっと見慣れた自分の部屋の、その闇の風景に違いなかったのだけれど、そこにボ~…と浮上がっている女の白い顔を見て、彼は驚かずにおれなかった。
今日、彼女に驚かされたのは、これで2度目だ……。
もっとも、時計の針が12の文字を回っていなければ…の話だが。
目がなれてきても部屋は相変わらず闇色のままで、ブルーのカーテンが濃く漆黒の色に染まっていることからも、月光もままならぬ深夜なのだと判じるに容易い。そんな暗闇にあって女の顔がボ~…と見えるのは、懐中電灯よりも小さなLEDのペンシルライトを彼女が手にしているからだ。
「ようやく、お目覚めね」
その声にみちびかれ、網膜が白い影を認識する。
鳶色よりも濃い、限りなく黒に近いその瞳に視線があうと……。
―― 小春井巻あづきっ!? ――
は、笑った。
いや、その顔のほとんどは、いつものように冷淡でいて高貴な造形をそのままに、ただ、唇の片端がクイ…と跳ねあがっていて、それが昼間、公園で見せた、あの『歪んだ冷笑』を彷彿とさせているのだった。
それは相変わらず、笑っているのか、怒っているのか、はたまた単に顔がひき攣っているだけのことなのか、まったく見当のつけずらい表情であったのだけれど、それでもやはり、相変わらず、ただ勝ち誇っている…といった、得も言われぬ高圧感はじゅうぶんに伝わってきた。
「な、なんでお前がここにいるんだっ!?」
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