轟町ヒルサイト ―― On Her Majesty 's Private Service ――

甘野正雪

文字の大きさ
19 / 46
第四章 ピアスはきっと、自分で刺した方が痛くない…と思う

第四章―01

しおりを挟む
「起きなさい」
 夢には不似合いなほど、りんとして通る声だと思った。
 女の声だったけれど、聞き覚えのない声だった。
 透きとおるような声だったのだけれど、それは「水のように…」ではなく「氷のように…」といった感じで、高圧的な冷気を秘めている。
「聞こえているのでしょ」
 その声の冷響れいきょう木魂こだまするように身体が正直に反応して、自然とうなずきをかえす。
 そう……、と女は言ったきりしばらく黙り込み、またおもむろに、
「なら……早く目を開けることね」
 と、語りかけてくる。
「誰……?」
 問いかけると、
「わたしを怒らせたいの?」
 声は相変わらず冷気をたもったままりんと響く。
「なんで? なんで怒るんだ……」
 微睡まどろみの漆黒しっこくに問いかける。
「わたしの声を覚えていない――と自白したからよ」
「なに? わかんないよ……」
「わたしの声を覚えているのなら、『誰?』なんて問いかける必要などないはずよ」
「だって、わからないよ……」
「そう……。なら、早く目を開けて確認しなさい。それに、急がないと、見せ場が終わってしまうわよ」
「見せ場……?」
「随分と反抗的な豚ね。……いいわ、わかったわ」
 ぐゥ……ッ!
 股間に生じた痛みにらすと逆に痛みが増してしまい、反射的に肉体はベッドの上にはりついてしまう。
 痛みの元をたどろうとして、意識が急速に微睡まどろみからうつつへと、そのさかいを飛び越えてゆく。
 ――股間が引っ張られているっ!?
 いや。
 仮性包茎の、その先端の包皮ほうひが思っきり引っ張り上げられているっ!
 しかも、それは、何か…四角く固い金属のようなもので挟みこまれていて、その四角いかどが包皮に喰いこんでいる痛みに思えてならない。
 目を開けるのが恐かった。
 もしかして……ホッチキス? 
 ――十中八九、そうに違いないっ!
 だから、その光景をの当たりにするにはそれなりの覚悟を必要とするほど、カゲロウの意識はじゅうぶんうつつに立ち帰っていたのだ。しかし、
 ――十のうち、一つや二つは、勘違いということもあるだろう?
 それにのぞみをたくすように恐る恐る目を開けてみる……。
 そこには闇しかなかったけれど、それは、たぶんきっと見慣れた自分の部屋の、その闇の風景に違いなかったのだけれど、そこにボ~…と浮上がっている女の白い顔を見て、彼は驚かずにおれなかった。
 今日、彼女に驚かされたのは、これで2度目だ……。
 もっとも、時計の針が12の文字を回っていなければ…の話だが。
 目がなれてきても部屋は相変わらず闇色のままで、ブルーのカーテンが濃く漆黒の色に染まっていることからも、月光もままならぬ深夜なのだとはんじるに容易たやすい。そんな暗闇にあって女の顔がボ~…と見えるのは、懐中電灯よりも小さなLEDのペンシルライトを彼女が手にしているからだ。
「ようやく、お目覚めね」
 その声にみちびかれ、網膜が白い影を認識する。
 とび色よりも濃い、限りなく黒に近いその瞳に視線があうと……。

 ―― 小春井巻あづきっ!? ――

 は、笑った。
 いや、その顔のほとんどは、いつものように冷淡でいて高貴な造形をそのままに、ただ、唇の片端かたはがクイ…と跳ねあがっていて、それが昼間、公園で見せた、あの『歪んだ冷笑』を彷彿ほうふつとさせているのだった。
 それは相変わらず、笑っているのか、怒っているのか、はたまた単に顔がひきっているだけのことなのか、まったく見当のつけずらい表情であったのだけれど、それでもやはり、相変わらず、ただ勝ち誇っている…といった、得も言われぬ高圧感はじゅうぶんに伝わってきた。
「な、なんでお前がここにいるんだっ!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...