20 / 46
第四章 ピアスはきっと、自分で刺した方が痛くない…と思う
第四章―02
しおりを挟む
「な、なんでお前がここにいるんだっ!?」
――現実なんて、陳腐なもんだ。
それはわかっていた。
それはじゅうぶんに判っていることだった。
しかし、この非現実的状況にあって、咄嗟に口をついた言葉がこれではあまりに陳腐で、これまで小説を書くうえで状況設定における台詞を、あーでもない、こーでもない…と模索してきた自分がまるで道化のように思えてならないじゃないか……、しかし、そんな自分を哀れに思ったり、嘲笑したりする余裕がないのも事実で、カゲロウにできたことは、ただただ、目を丸く見開いて、相変わらず無表情という名の表情をたたえている小春井巻を見つめることだけだった。
「なんで…?」
と、小春井巻はそう復唱すると、やや上向いて漆黒の宙空にその回答を検索する。
「方法……ということについてなら、凸凹坂くんがいつも覗いているトイレの窓から……かしらね」
――トイレ?
いや、それよりもッ!?
「覗いてるって、なんだよッ!?」
「トイレの窓から見えるものって、隣のアパートの浴室以外にあったのかしら」
「知らないよっ!?」
「あら、不思議。凸凹坂くんたら、いつもトイレで用を足すフリをして、ハアハア息を荒げながら、実は違う用を足しているのじゃなくて?」
「な、なに言ってるんだ…」
「隣に住んでいる若い女が決まって同じ時間にシャワーを浴びるのを良いことに、その女の白い柔肌にシャワーの雫が迸るのを覗いては、凸凹坂くんもまた、白い雫を迸らせている……と、わたしはそう読んでいるのだけれど」
「なに勝手に読んでんだっ」
「え!? なら、なにをしていると言うのっ!?」
驚愕、といった感じなのか、小春井巻の目が大きく見開かれる。
「お前の思考には、シッコやウンコといった選択肢はないのかっ!」
「そう。なら、それも含めたとして、どうなのかしら?」
「………………」
――いや、図星だった。
返す言葉がないぐらいに、小春井巻は見事に事実を読み切っていた。
カゲロウの家の裏側、これは通りに面してる方を表と言った場合だけれど、その裏側、つまり2階のトイレのある側がアパートに面している。
マンションではない。
二階建ての襤褸アパートだ。
そのアパートもまた入口側ではなく、その側面を接していて、その接し方というのが、これは建坪率を無視して建ててんじゃねえか? っていうぐらい、みごとにピタリと接している。それはトイレの窓から手を出せば、腕を伸ばす間もなく届いてしまうぐらいに。
そして、その手が触れるものは壁ではなく、窓ガラス。
そう、バスルームの窓ガラスだ。そのガラスは透明ではあるのだけれど平らではなく、ボコボコと斑模様が浮き立ったような表面をしているから、中の様子を判然と窺うことはできない。しかし、夜ともなって内側に明りが灯れば、それは、まるでモザイクを透かし見るかのような効果をはなち、中の様子、つまり入浴の様子を窺えるのだった。
そこには、たぶん女子大生だろう、若い女が住んでいて、その女はいつも8時ころ、まるで決まり事のように入浴し、その事実を知って以来、カゲロウもまた、気づけば夜の8時ころ、暗いトイレの磨りガラスをそっとズラすのが、いつしか日課となっている(←良い子のみんなは止めましょうねっ)。
その女が、また大胆に入浴するものだから、ガラスのモザイク越しにも白くしなやかな裸体に漆黒の陰毛が浮きたっているのがクッキリ確認できない夜はなく、その入浴行為は彼に至福の妄想を与えてくれている。
ときにはバスタブの縁に腰かけたりなんかして、そうすると背中が窓ガラスにピタリとくっついて生々しい白い柔肌をリアルに確認することもできる。
さらには浴室の窓をそっと5cmぐらい開けて外気を取入れたりするものだから、そのシャンプーや石けん、入浴剤、といった甘い香が彼の鼻先にまで漂ってきて、なぜか鳥肌が立つほど興奮してしまうと、もうたまらない。
そう。
小春井巻の言うとおり……。
彼は隣のお姉さんが入浴時、その1mと離れてない場所で、リアルタイムに白い雫を迸らせているのだった。
――しかし……?
と思う。
――なぜ、小春井巻が、そんな事実を知ってるんだっ?
――現実なんて、陳腐なもんだ。
それはわかっていた。
それはじゅうぶんに判っていることだった。
しかし、この非現実的状況にあって、咄嗟に口をついた言葉がこれではあまりに陳腐で、これまで小説を書くうえで状況設定における台詞を、あーでもない、こーでもない…と模索してきた自分がまるで道化のように思えてならないじゃないか……、しかし、そんな自分を哀れに思ったり、嘲笑したりする余裕がないのも事実で、カゲロウにできたことは、ただただ、目を丸く見開いて、相変わらず無表情という名の表情をたたえている小春井巻を見つめることだけだった。
「なんで…?」
と、小春井巻はそう復唱すると、やや上向いて漆黒の宙空にその回答を検索する。
「方法……ということについてなら、凸凹坂くんがいつも覗いているトイレの窓から……かしらね」
――トイレ?
いや、それよりもッ!?
「覗いてるって、なんだよッ!?」
「トイレの窓から見えるものって、隣のアパートの浴室以外にあったのかしら」
「知らないよっ!?」
「あら、不思議。凸凹坂くんたら、いつもトイレで用を足すフリをして、ハアハア息を荒げながら、実は違う用を足しているのじゃなくて?」
「な、なに言ってるんだ…」
「隣に住んでいる若い女が決まって同じ時間にシャワーを浴びるのを良いことに、その女の白い柔肌にシャワーの雫が迸るのを覗いては、凸凹坂くんもまた、白い雫を迸らせている……と、わたしはそう読んでいるのだけれど」
「なに勝手に読んでんだっ」
「え!? なら、なにをしていると言うのっ!?」
驚愕、といった感じなのか、小春井巻の目が大きく見開かれる。
「お前の思考には、シッコやウンコといった選択肢はないのかっ!」
「そう。なら、それも含めたとして、どうなのかしら?」
「………………」
――いや、図星だった。
返す言葉がないぐらいに、小春井巻は見事に事実を読み切っていた。
カゲロウの家の裏側、これは通りに面してる方を表と言った場合だけれど、その裏側、つまり2階のトイレのある側がアパートに面している。
マンションではない。
二階建ての襤褸アパートだ。
そのアパートもまた入口側ではなく、その側面を接していて、その接し方というのが、これは建坪率を無視して建ててんじゃねえか? っていうぐらい、みごとにピタリと接している。それはトイレの窓から手を出せば、腕を伸ばす間もなく届いてしまうぐらいに。
そして、その手が触れるものは壁ではなく、窓ガラス。
そう、バスルームの窓ガラスだ。そのガラスは透明ではあるのだけれど平らではなく、ボコボコと斑模様が浮き立ったような表面をしているから、中の様子を判然と窺うことはできない。しかし、夜ともなって内側に明りが灯れば、それは、まるでモザイクを透かし見るかのような効果をはなち、中の様子、つまり入浴の様子を窺えるのだった。
そこには、たぶん女子大生だろう、若い女が住んでいて、その女はいつも8時ころ、まるで決まり事のように入浴し、その事実を知って以来、カゲロウもまた、気づけば夜の8時ころ、暗いトイレの磨りガラスをそっとズラすのが、いつしか日課となっている(←良い子のみんなは止めましょうねっ)。
その女が、また大胆に入浴するものだから、ガラスのモザイク越しにも白くしなやかな裸体に漆黒の陰毛が浮きたっているのがクッキリ確認できない夜はなく、その入浴行為は彼に至福の妄想を与えてくれている。
ときにはバスタブの縁に腰かけたりなんかして、そうすると背中が窓ガラスにピタリとくっついて生々しい白い柔肌をリアルに確認することもできる。
さらには浴室の窓をそっと5cmぐらい開けて外気を取入れたりするものだから、そのシャンプーや石けん、入浴剤、といった甘い香が彼の鼻先にまで漂ってきて、なぜか鳥肌が立つほど興奮してしまうと、もうたまらない。
そう。
小春井巻の言うとおり……。
彼は隣のお姉さんが入浴時、その1mと離れてない場所で、リアルタイムに白い雫を迸らせているのだった。
――しかし……?
と思う。
――なぜ、小春井巻が、そんな事実を知ってるんだっ?
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
還暦妻と若い彼 継承される情熱
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる