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第四章 ピアスはきっと、自分で刺した方が痛くない…と思う
第4章―05
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――ピアッサーだッ!
カゲロウはこれを知っている。
それは高2の修学旅行。
行った旅先の目抜き通りにこれと同じ物を売っている店があって、それは田舎の女子にとってはたいそう珍しくも愛らしいものに映ったらしく、おまけに手頃な値段ときては、必然それは、話題沸騰、人気商品№1といったところで、果ては男子女子の区別なくまるで事件のように盛上がっていたものだから、修学旅行の想い出といえば、まず最初にこのピアッサーがあげられる。
しかし、彼と同室に宿泊していた男子のうちにそれを購入したヤツがいて、そいつが皆の前で見事、耳たぶにピアッシングしてみせたりなんかしていなければ、彼がここまで確固とした自信でそれと認識し、恐怖に鳥肌を立てることもなかっただろう。
そうッ!
この疑似100円ライターの中にはピアスの芯が仕込まれていて、このまま小春井巻がその親指と人差し指とに力をこめれば、バチリッ…といって見事、ピアッシングが完成されるに違いない。
よりによって、仮性包茎の包皮にだッ!
『コ』の字状の狭窄板が包皮を挟みこんでいる、その四角い圧迫感のちょうど中心に、明らかにそれとは違う『刺痛』と表現するにふさわしい痛みを感じているのは、すでにピアスのその針先が突き刺さる寸前の圧力をもって皮に埋没していることの証だっ!
小春井巻の左手はその包皮の胴体、つまりフニャフニャの陰茎を握りしめていて、これが奇妙に感じた窮屈感の正体でもある。それは、実験を嫌がるハツカネズミでも捕まえているかのように、力任せにギュイッ…と握りしめ、その握り拳からあの『象さんの鼻』が伸びているのだった。
「やめろッ!」
と思わずカゲロウの腰が条件反射でピクリッと動く。
「動かないでっ」
すかさず、ギュッと小春井巻の左手に力が入る。
それは、「獲物を逃がさぬため…」というよりも、むしろ「獲物が暴れることにより誤ってピアッサーの針が突き刺さってしまうことを回避した」といった観があり、その事実を呑み込んだ彼の脳髄は、脊椎反射とばかりにピタリと身体の動きを静止した。
妙齢な女性の、しかも同窓の間では『深窓の麗人』とまで謳われている女子の、その白魚のような指でアソコを握りしめられているにも関わらず、『官能』の『か』の字も覚え得ず、それどころか恐怖に固唾を呑み込んでしまっているのは、一体、どういうことだッ!?
当然、勃起なんてするはずもなく、小春井巻の左手から伸びている『象さんの鼻』が少しでもブれないように…と、大の字になった下半身を大理石の彫像のように石化させながら、カゲロウが、ただただ念じていたことは、
――悪夢なら早く冷めてくれっ!
と、その一義だけだった。
そんな悪夢から目を反らすように、カゲロウの右手はペンシルライトの明りを股間から、小春井巻の細い手首をつたい、腕をなぞるようにして、上へ上へと照らしていった。
小春井巻は黒いノースリーブのワンピースを着ていた。
シルクのようなサラっとした生地で、そこに描かれたどピンクの柄がいかにも彼を嘲笑っているかのようで、さらにその上には白く細い首筋があって血管を微かに蒼く透かしてみせている。普通ならそれは艶めかしく映るところなんだろうけれど、それすら、西欧の魔女を連想させるものとして彼の目にはうそ寒く焼きついた。
そしていよいよその限りなくブルーに近いLEDライトが小春井巻の顔を照らし出したとき、「待ってました」、いや「待っていたわよ」と言わんばかりにその唇の片端がクイっ…と上側に跳ねあがってみせたのだ。
「まったく低脳な『豚』だわ。たったこれだけの状況を把握するのに、随分とわたしの手を煩わせてくれたものね」
たったこれだけ――って!
「お前なっ!」
思わず上体を起こそうとする。
「動かないでっ! …って、言ったはずよね」
小春井巻がふにゃチンを握りしめている手にギュッと力をこめた。
ピタリッ……とカゲロウの身体が石化を果たしたのは言うまでもない。
「ようやく素直になってきたわね。上々だわ。まあ、わたしとしては、凸凹坂くんがお茶目さんな暴れ方をしてくれて、わたしもついついこの手(←ピアッサーを握ってる手のことだ)に力が入ってしまい、あらっ、なんて拍子にピアッシングをしてしまいました……というそんな結果でも、まあ、それなら、それも悪くはない一つのオチだとは思っていたのだけれど」
「人の不幸を単なるオチで片づけるなっ!」
「そうね……」
「え?」
意外にあっさり頷くと、小春井巻は自分の両手が作成している『象さんの鼻』をじっと見つめ、なにやら物思いに耽っているようだった。
もしかして許してくれるのか!?
カゲロウはこれを知っている。
それは高2の修学旅行。
行った旅先の目抜き通りにこれと同じ物を売っている店があって、それは田舎の女子にとってはたいそう珍しくも愛らしいものに映ったらしく、おまけに手頃な値段ときては、必然それは、話題沸騰、人気商品№1といったところで、果ては男子女子の区別なくまるで事件のように盛上がっていたものだから、修学旅行の想い出といえば、まず最初にこのピアッサーがあげられる。
しかし、彼と同室に宿泊していた男子のうちにそれを購入したヤツがいて、そいつが皆の前で見事、耳たぶにピアッシングしてみせたりなんかしていなければ、彼がここまで確固とした自信でそれと認識し、恐怖に鳥肌を立てることもなかっただろう。
そうッ!
この疑似100円ライターの中にはピアスの芯が仕込まれていて、このまま小春井巻がその親指と人差し指とに力をこめれば、バチリッ…といって見事、ピアッシングが完成されるに違いない。
よりによって、仮性包茎の包皮にだッ!
『コ』の字状の狭窄板が包皮を挟みこんでいる、その四角い圧迫感のちょうど中心に、明らかにそれとは違う『刺痛』と表現するにふさわしい痛みを感じているのは、すでにピアスのその針先が突き刺さる寸前の圧力をもって皮に埋没していることの証だっ!
小春井巻の左手はその包皮の胴体、つまりフニャフニャの陰茎を握りしめていて、これが奇妙に感じた窮屈感の正体でもある。それは、実験を嫌がるハツカネズミでも捕まえているかのように、力任せにギュイッ…と握りしめ、その握り拳からあの『象さんの鼻』が伸びているのだった。
「やめろッ!」
と思わずカゲロウの腰が条件反射でピクリッと動く。
「動かないでっ」
すかさず、ギュッと小春井巻の左手に力が入る。
それは、「獲物を逃がさぬため…」というよりも、むしろ「獲物が暴れることにより誤ってピアッサーの針が突き刺さってしまうことを回避した」といった観があり、その事実を呑み込んだ彼の脳髄は、脊椎反射とばかりにピタリと身体の動きを静止した。
妙齢な女性の、しかも同窓の間では『深窓の麗人』とまで謳われている女子の、その白魚のような指でアソコを握りしめられているにも関わらず、『官能』の『か』の字も覚え得ず、それどころか恐怖に固唾を呑み込んでしまっているのは、一体、どういうことだッ!?
当然、勃起なんてするはずもなく、小春井巻の左手から伸びている『象さんの鼻』が少しでもブれないように…と、大の字になった下半身を大理石の彫像のように石化させながら、カゲロウが、ただただ念じていたことは、
――悪夢なら早く冷めてくれっ!
と、その一義だけだった。
そんな悪夢から目を反らすように、カゲロウの右手はペンシルライトの明りを股間から、小春井巻の細い手首をつたい、腕をなぞるようにして、上へ上へと照らしていった。
小春井巻は黒いノースリーブのワンピースを着ていた。
シルクのようなサラっとした生地で、そこに描かれたどピンクの柄がいかにも彼を嘲笑っているかのようで、さらにその上には白く細い首筋があって血管を微かに蒼く透かしてみせている。普通ならそれは艶めかしく映るところなんだろうけれど、それすら、西欧の魔女を連想させるものとして彼の目にはうそ寒く焼きついた。
そしていよいよその限りなくブルーに近いLEDライトが小春井巻の顔を照らし出したとき、「待ってました」、いや「待っていたわよ」と言わんばかりにその唇の片端がクイっ…と上側に跳ねあがってみせたのだ。
「まったく低脳な『豚』だわ。たったこれだけの状況を把握するのに、随分とわたしの手を煩わせてくれたものね」
たったこれだけ――って!
「お前なっ!」
思わず上体を起こそうとする。
「動かないでっ! …って、言ったはずよね」
小春井巻がふにゃチンを握りしめている手にギュッと力をこめた。
ピタリッ……とカゲロウの身体が石化を果たしたのは言うまでもない。
「ようやく素直になってきたわね。上々だわ。まあ、わたしとしては、凸凹坂くんがお茶目さんな暴れ方をしてくれて、わたしもついついこの手(←ピアッサーを握ってる手のことだ)に力が入ってしまい、あらっ、なんて拍子にピアッシングをしてしまいました……というそんな結果でも、まあ、それなら、それも悪くはない一つのオチだとは思っていたのだけれど」
「人の不幸を単なるオチで片づけるなっ!」
「そうね……」
「え?」
意外にあっさり頷くと、小春井巻は自分の両手が作成している『象さんの鼻』をじっと見つめ、なにやら物思いに耽っているようだった。
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