轟町ヒルサイト ―― On Her Majesty 's Private Service ――

甘野正雪

文字の大きさ
22 / 46
第四章 ピアスはきっと、自分で刺した方が痛くない…と思う

第四章―04

しおりを挟む
 そうっ、この髪の毛の甘ったるい匂い――それはまさしく隣の浴室の窓から漂ってきたあの香に他ならないっ!
「そうよ。あなたが毎日せっせとオナニーのオカズにしていた隣のお姉さんとは、なにを隠そう、この、ワ・タ・シ」
 全然、可愛くねえっ。
 いや、本当に恐いと思った。
「夜ごと8時03分の、ショータ~イム……といったところかしら」
 本人は色っぽく『ショータイム』と言ったつもりなんだろうけど、まったく棒読みで間が抜けていること、この上なしだ。
 いや、恐い。
 もはやこの女、恐怖を通り超え、脅威のレベルに達している。
「さて。方法については充分納得できたところで」
「待てっ、俺は一体、なにを納得すれば良いんだっ!」
「わたしが今、ここにいる理由についてなのだけれど」
 また無視ですか!
「それはね」
 と言った途端、小春井巻の手からペンシルライトがこぼれ落ちる。
 それがコロコロと転がって、部屋に流星群を描いてみせると、あっという間に薄闇が訪れた。
 そして……。
「このためよっ!」
 初めて小春井巻の声に抑揚といったものが生じた。
 いや、そう感じただけのことなのかも知れない。
 なぜなら、小春井巻のその言葉が終わらぬうちに、キリっ…とした痛みを股間に覚え、それが聴覚を惑わせたからだ。
「痛っ!」
 と、一瞬仰け反りそうになった身体からだは先刻の失敗を即座に反芻はんすうして反射とばかりベッドにはりつけとなる。
 ――亡霊のような、小春井巻の登場。
 ――『覗き』という真実の暴露。
 ――自慰行為の追求。
 といったカゲロウにとっては全くあり得ない事柄が一気に起こったこともる事ながら、
 ――隣のお姉さんが、実は小春井巻でした。
 なんて、彼にとってはとても笑えない事実を突きつけられたのが相当ショックなこともあって、それは、これまで気づかずにいたのだけれど、こうして薄闇が訪れ、さらには目を閉じてみて初めてわかったことがある……。
 なにやら下半身が涼しいじゃないか?
 それは『下半身=裸』であると想像するまでもなく容易たやすくく納得してしまえるほどの涼しさだった。
 そしてこの痛みだっ!?
 仮性包茎の、その先端の包皮を、何か…四角く固い金属のようなもので挟みこまれて思っきり引っ張り上げられ、しかも、その四角い角が包皮に喰いこんでいるような、この痛み――。
 いや、さらに痛みが加わってるっ!?
 四角い金属板のその中心あたりに鋭い切っ先をもった突起があって、それが、今にも仮性のその皮膚を貫かんばかりに突出とっしゅつしているような……。
 しかし――この窮屈感はなんなんだっ?
 ――状況把握。
 目を開ける。
 ぼんやりと薄青く映る視界。
 どうやら『大』の字に寝ているらしい。
 そのちょうど腰の右側あたりに小春井巻が座っている。
 小春井巻の落としたペンシルライトはベッドの傍らに転がって、二人とは真逆の、扉の方を青白く照らしているようだ。
 右手をそのあたりにサワサワさせるとすぐにペンシルライトが手に触れて、それを掴むとカゲロウは、ザッと頭だけ起こして足元、つまり自分の下半身の方を見た。
 さらに恐る恐る、手にしたペンシルライトの限りなく透明に近いLEDのブルーを股間に照射してみると……。
「…ッ!?」
 ――絶句。
 小春井巻の右手には何か白いプラスチックのような長方形の物体が握られている。
 まるで100円ライターが四角く角張かどばった感じだ。
 しかし100円ライターと違うところは、その端に着火装置はなく、それどころか『コ』の字にえぐれていて、ちょうどキリール文字の『Б(BEって発音するらしい)』の字を縦長にした形をしているところだ。そんな『コ』の字になっている鍵状の部分で仮性包皮の皮を引っかけて上側に吊り上げているものだから、我ながら呆れるほど哀れなほどにその皮は伸びきってしまっているのだ…。
 …って、これじゃ、まるで『象さんの鼻』じゃないか!
 辛辣に思えてならないのは、その疑似ライターを持つ小春井巻の右手の形だ。
 普通、こんな鍵状のもので包皮を引っ張り上げるなら、疑似ライターの胴の部分を握りしめて、クイっと持ち上げるのが、極あたりまえの作法じゃないのか?
 しかし、小春井巻は、親指と人差し指とによってその『Б』の上下を挟みこむようにして…いや、その疑似ライター自体、『コ』の字型の部分がスライドするようになっていて、実際、それで挟みこんでいる…?
 ホッチキスを連想したのは、まさにこの仕組みのせいだ!
 そしてこの時には、すでに、カゲロウには、これが何であるか…ということがじゅうぶん認識できていた。
 ――ピアッサーだッ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...