忘却世界

zero0101

文字の大きさ
4 / 7
忘れ物がある

4

しおりを挟む
彼女は目の前に現れ涙目で叫んだ。
少量の涙を袖で拭っている。

「せっかく貴方の学校に来てあげたのにどうして一言もなしなのよ。おかしいじゃない。」

かなり錯乱しながら訴える。
こうなってしまえばもう美人もなにもあったものではない。が、ひどく人間味に溢れた嘆きだった。
冷血の魔女のような外見とは裏腹になかなか可愛らしい一面があるではないか。安堵感をおぼえた。

彼女はひとしきり喚いたあと冷静さを取り戻したようで、今にも茹で上がりそうなタコのように顔を真っ赤に染めている。

「と、取り乱してしまってごめんなさい。なにぶんまともに学校に通うのなんてほぼ初めてのことだったから……」

随分と弱々しくなっていく。

「と、とりあえず場所を変えましょう。ついてきて。」

急に高圧的になった。猫をかぶるとかそういう類のものではないようだ。

校門からでて2、3分歩いたところで彼女は立ち止まり振り返って

「あ、あの。ついてきてといった矢先申し訳ないんだけど。私まだこの辺の地理に詳しくないの。だから、その、何処かのいい場所ないかしら。」

なかなかのポンコツ具合だ。こいつも八月一日といい勝負になるのでは。
でも初対面の時のことを思い出すと仕事や勉学はできるタイプなのだろう。

「わかったよ。そうだな近くていい場所は…あそこでいいか。」

そうして僕が彼女を連れてやってきたのは近場の喫茶店『カメダ珈琲』だった。

店に入り、珈琲を一杯頼んで話は始まった。

「それで?あんなに取り乱して一体全体なにがあったというだ。」

「その話はもういいわよ。恥ずかしいから。私がしたいのは、いいえしなければならないのは貴方もご存知仕事の話よ。」

「いやいや、あんなに心をいっぱいにして訴えかけられたの産まれてはじめてだ。あれをそのまま流されてしまっては気になって朝も寝られない。」

「朝は起きてなさい。」
なかなかいい反応速度だった。鍛えればいい漫才ができそうだ。

彼女は少し渋っていたものの小声になりながらも答えてくれた。

「わ、私は実はまともに学校生活というもの送ったことがなくて休み時間だとか放課後に一体何をしていればいいかわからなくて。」

「私の唯一の知り合いは貴方だけだったから探したのだけれど貴方どこ見てもいないじゃない。」

「まあそれはそのなんだ。少し避けてた。すまん。しかし、昼休みは教室に僕はいたぞ。」

「だって貴方、隣の女子と話していたじゃない。知らない人だったし。」

どうやらこの残念美人は極度の人見知りのようだ。人見知りが故に冷血さに拍車をかけていたのだ。

「わかった。取り敢えず京極。明日、八月一日を紹介してやるからその面倒臭いのを直せ。」

「ええ!そんな!それは少し難易度が高すぎないかしら。」

「そんなこといってると今後友達0人だぞ。俺だってごめんだぞ。」

そう言ったら京極も観念したようで苦し紛れに了承した。

一旦落ち着いたところでタイミングよく珈琲が運ばれてきた。なんだか遅かったのは話の締りがいいのを見計らった店員のおねえさんの配慮だろう。

「さて、それでは本題に入るけれどいいかしら。」

クールキャラのテンプレに戻った京極は僕の返事など聞かずに話し始めた。

「前に会った時に言ったように、私は貴方の担当官。監視者であり監督者であり天才アドバイザーよ。」

こんなに自信満々に自分のことを天才と名乗れるのは見たことがない。それもまた才能なのだろうか。

「貴方の処遇については話した通り私の組織のとある人が貴方の力を見込んで保護し有効活用してやろうということになったのだけれど。」

「その仕事というのはね。」

化け物退治よ。と彼女ははっきりと明確にいいきった。

「それはつまり僕に仲間殺しをしろということか?」

「いいえそうじゃないわ。私達が殺しているのは主に理性なき化け物共よ。まあたまに理性のある面倒なのもいるけれど。ターゲットはあなたとはなにも関係のないいわば獣のようなものね。」

「さらにわかりやすく言うと"害獣駆除"よ。」

これはまたわかりやすい。免許証なんて持ってないぞ。

「私達はこの世の科学力から霊的な力まで最先端の技術をもっている。しかし、それをもってしても今の貴方の体がどのようになっているかはわからないの。」

たがら実戦でおしえてよ。

と、笑顔でいわれた。不気味な微笑みである。
何が僕の体に起こったのかは未知のようだ。
訓練もなにもしたことのない僕に一体何ができるのだろう。

「素人の僕が対処できるわけが」

「勘違いしているようなら教えてあげるわ。仕事なんて言っているけれどこれは命令よ。自分の命が惜しいなら文句を言わずに黙って聞きなさい。犬は吠えても喋りはしないでしょう。」

なんだか京極の調子が戻ってきたようだ。
確かに命は惜しいし、何よりもここ数日感じていた忘れ物に気づくか気づくかないかの微妙な感覚がもどかしくてたまらなかったのだ。協力することでその先端技術とやらでなんとかなるのならこれ以上はない。 

「わかったよ。僕も自分のことが知りたくなってきた。いや、知らなくてはならない気がしてきたところだ。で?僕はどうすればいい?」

「聞き分けがいいのね。好きよ。そういうの。」

少し小悪魔感も出してきた。いよいよどストレートだ。

「そうね。これだけはわかっているのだけれど貴方はちょっとやそっとでは死なないそうよ。なぜなら…」



彼女の話を聞き終えて一人帰路につく。
時刻は午後6時半。
彼女は今夜零時に学校へ集合といった。
武器は何がいいかしら。お望みのものはなんでもあるわ。

僕はもちなれないものは持たない主義なので基本いらないと言った。後は君にお任せすると。
ただ僕は手が汚れるのが嫌いなので(なお潔癖というわけではない)何か手袋があるといいとだけ言っておいた。

まあそんなことはどうでもよいのだ。なぜなら彼女の言った一言が頭の中でこびりついて離れてくれない。

京極はこういった。僕が死なない確証というのが。 

貴方はね。私の組織の人間が発見したとき。

"肉塊"だったそうよ。
それはもう人の形をなしていないただの肉の塊だった。
それがね。戻ったのよ。発見してすぐに。
それはまるで人でない何かが人に擬態するが如く。


そんなことを聞いたあとの帰り道は天気予報を裏切りひどく雨が降っていた。

とても鉄の匂いが充満していた。
それは己が身の中にある血の匂いを連想させる。

最低最悪な帰り道だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

処理中です...