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第六十六話 お試し探索の後の姉妹、そして不穏な王への願い

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「「ただいま」」

 姉の真姫と私は麟瞳さんとの衝撃のお試し探索を終えて、岡山ダンジョンから我が家へとやっと帰ってきました。やっとと思ったのはしょうがないと思います。探索中に起こる不思議な出来事を、電車内で不用意に口にする訳にもいきません。帰宅途中はあの真姫でさえ言葉少なくなっていたのです。

「今日の岡山ダンジョンはどうだったの?一緒にダンジョンに入る人は決まったのかしら?」
「お母さん、決まったわ。ヤッパリ凄い人だったわ!」
「あらあら、私は美姫に聞いたつもりだったんだけど、真姫も一緒にお世話になるつもりなの?」
「岡山ダンジョンの間は一緒に探索させてもらえるようにお願いしてきたのよ」
「反対はしないけど、真姫も十分気をつけるのよ。まあ、これで美姫も社会人に復帰したようだし、お祝いをしないといけないわね。赤飯でも炊こうかしら?」
「やめてよお母さん、もう恥ずかしいわ。今まで心配をかけてごめんなさい。これからはちゃんと生活費も家に入れるからね」
「そんなことは良いのよ。毎日楽しそうにしてくれていれば、それだけで良いのよ。お店も忙しい時間になったし、お母さんはお店の手伝いに行くわね。今日はゆっくり休みなさい。晩御飯の注文だけは余り遅くならないうちにしなさいね」

 私のことを心配していたのでしょう。母は今日の結果を聞くとすぐにお店の方ヘ行ってしまいました。福岡から帰ってきてから、確かに楽しいと感じたことはありませんでした。それに母も気付いていたようです。これからは私の好きなことを毎日頑張れると思うと、それだけで心が躍ります。

 私の家は夜はお酒も提供する飲食店をしています。晩御飯はお店のメニューから選んで注文をします。父が作る料理は小さい頃から大好きです。今日は焼肉定食にしました。何だかお肉が食べたい気分になっています。

「美姫、麟瞳さんの力はどれくらいなの?Cランクの私から見たら凄いんだけど、美姫はどう思っているの?」
「本当のAランク探索者はどれだけ凄いのって思うわ。麟瞳さんで一発追放でしょ。麟瞳さんは私の元パーティのエースアタッカーと同じくらい力はあると思うわ。いや、魔法を今日は使っていなかったから、もっと力は上でしょう。私達がBランクダンジョンの三十階層を超えられなかったのもしょうがないのかな?でも、麟瞳さんの元パーティメンバーは何故追放したのかしら?ドロップアイテムが信じられないくらい多いんですけど………Cランクダンジョンの探索で十分プロとしてやっていけるんですけど………反則です!」
「だよね~。魔石が必ずドロップするっておかしいよね。ポーションもドロップするし、ゴブリンの武器もドロップする。極めつけが宝箱よ!私は何回あそこで宝箱を見てきたか分からないほど見てきたのよ。銅の宝箱なんて二回しか見たことないのよ。それが出てきても、麟瞳さんは普通の反応だし、中から八十万円の物が出てきても驚きもしない。もう信じられないわ!」
 
 本当にその通りです。今日はCランクダンジョンを五階層探索しただけなんです。買取り金額が約十六万円、宝箱の中からの帰還石を入れなくてです。福岡のCランクダンジョンの探索では、一回の探索で宝箱を含めて六万円の収入があれば肩を組んで喜びを分かち合いました。一人一万円で喜んでいたんです………そんなものだと思い込んでいました。武器のメンテナンス、矢の補充など探索にはお金がかかるんです。早くBランク探索者になって収入をアップさせて、祖父母の家を出て独り立ちしたかったんです。………これは失礼しました。思わず愚痴を言ってしまいました。それだけCランクダンジョンでは収入が少ないと言いたかっただけです。普通はそれぐらい大変な筈なのに、麟瞳さんがいれば一日で約八万円です。真姫を入れて三等分しても五万円を超えるのです。一ヶ月探索をすれば百万円も超えるかもしれません。どうして麟瞳さんはパーティを追放されたのでしょうか?結局はそこに戻ってしまいます。

「お金が全てじゃないんでしょう。Aランク探索者だと普通の探索でも桁が違うのかもしれないし、私達庶民には分からない理由があるんじゃない。まあ、麟瞳さんのお陰で収入が良いことに気付いてなかっただけかもしれないけどね」

 青椒肉絲定食を食べている真姫が私の問いに応えてくれました。気付かないことってあるんでしょうか?いや、それはないでしょう。あんな衝撃的なドロップアイテムの数々を見て気付かない訳がありません。

「ドロップアイテムもそうだけど、戦いの方法も凄かったわ。ボス部屋の戦闘を真姫も見たかな?どこからともなく棍棒が現れて投げつけるのよ。何度も何度も投げるの。多分腕輪の収納から出していたんでしょうけど、ゴブリンに少し同情してしまったわ。あとはあの刀が凄い業物なのかな?斬撃を飛ばして攻撃をするのよ。今日はその飛ぶ斬撃を中心に攻撃を組み立てていたようだけど、今までソロで探索していたことにも納得の攻撃力ね」
「私もちゃんと見てたわよ。あれに魔法の攻撃も加わるのよね。美姫、良いパーティに入れたんじゃない。私に感謝しなさいよ」

 確かに真姫には感謝しなければいけないですね。今後のことを考えるとワクワクします。パーティメンバーが増えれば、いずれBランクダンジョンの探索へと進んでいくでしょう。超えられなかった三十階層は勿論のこと、その先まで………期待は膨らむばかりです。

「真姫には本当に感謝しているわ。これは感謝の印よ。はい、今日のバイト代」
 
 ポチ袋に入れて渡しました。真姫、本当に感謝しています。

「美姫、何かの間違いかしら?三千円しか入ってないんだけど………」

 真姫が何か言っていますが、魔物の肉を父に渡さなければいけませんでした。今渡しに行っても大丈夫でしょうか?



○●○●○●○●○●○●

「オウヨ、ヤットミツケタ。コレヲワタシタイガ、イイダロウカ」

 本を片手に青い魔物が跪き、王と呼ぶ魔物に許しを請うていた。








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