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第百三話 わざとよ。わざと

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 ダンジョンへは徒歩五分で着く。真剣にジャンケンで車に乗るメンバーを決めたのにあっという間に着いてしまった。しかも駐車場に止めている間に徒歩組の方が先に探索者センターに着いていた。うちのクランには負けず嫌いが多いようだ。

「あら、私達の方が早かったようね」

 負けず嫌い一号の真姫が肩で息をしながら言ってくる。ダンジョンの中でもそこまで息切れしないだろうと思うほどの息切れである。本気で走って来たんだろうね。因みに負けず嫌い二号が皐月で、三号が綾芽だった。三号だけ平気な顔をしていたよ。【身体強化】スキル恐るべし。

 ダンジョンに入る手続きを終えて今日の探索を開始した。合流時間は四時に設定、依頼達成を見込んで早めの時間に設定した。昨日は手続きに結構時間がかかったからね。皆がダンジョン後の食事とスーパー銭湯を楽しみにしている。ダンジョンの中では気を抜かないように注意しておいた。

「詩音、片手剣での攻撃は頭部と胸部の間のくびれたところを狙わないと倒すのが難しいぞ。昨日の課題の確認で片手剣の攻撃力って言ってただろ。しっかりと弱点を狙えば多少火力が弱くても成果は出せるよ。出来ることから頑張っていこう」
「了解っす」
「でも、片手剣だけにこだわるなよ。詩音は武具の出し入れを自由自在に出来ることが一番のストロングポイントだ。練習は大切だけど自分の良いところは意識して戦えよ」
「分かったっす」

 僕の課題は雷魔法の付与された刀を使いこなすことだ。

 青いオーガに会ってから、マジックアイテムを無効化する手段があるのを知って、出来るだけ刀の性能に頼らずに魔物を倒すように意識して来た。【剣鬼】スキルに進化したおかげで刀を振る速さも威力も上がり、動きも良くなっていると思う。

 青いオーガの言葉を信じるなら、マジックアイテムを無効化するのはほとんど出来ない事なのだろう。そろそろ刀の性能を把握して使いこなすこともしていかないと宝の持ち腐れだよね。

 いろいろと試しながら使っていこうと思うが、人には迷惑をかけないようにすることも忘れないように意識しておこう。感電させて髪の毛がアフロになったら大変だよね。………ヤバイ、想像したら笑えてきた。想像しないようにしようとするほど想像してしまう。三人のアフロ女子だよ。もうダメだ。

「クククク、ハハハハ」
「おい、どうした?リーダーがおかしくなったぞ」
「リーダー、大丈夫っすか?」
「リーダー、どうしました?何かの精神攻撃でも受けたのでしょうか?」

 僕は今セーフティーゾーンで正座をさせられている。

「リーダー、もう信じられません。自分で気を抜かないようにって注意しておいて、何がアフロ女子が三人ですか。バカなのですか?うちには皐月がいるのに、更にもう一人なんてどうしたらいいんですか?」
「オレも最初は悪かったと思うけど、そろそろバカは取り消して欲しいぜ。リーダーの方が確実におバカだよな」

 何を言われてもここは反論してはいけないことは理解している。嵐が過ぎ去るのを待つのが一番だ。足の感覚がもうおかしいのだが………。ねえ、説教長くないですか?

 やっと解放されて探索に戻る。

「今日は探索の時間が短い。頑張って十階層のボス部屋まで攻略するぞ。まずは六階層のセーフティーゾーンまで一気に行くぞ!」
「誰のせいですか?今更カッコつけても遅いです」

 散々な言われようだが反論してはいけない。もう一度嵐が来ては大変だ。僕の想像力が凄かっただけなのに。またアフロ女子が………。

 それからは本当に一気に駆け降りた。詩音も意識して攻撃をしているようだし、僕も弱く魔力を流してキラーアントを斬る。弱点のくびれたところではなく他の場所を狙って。斬られたキラーアントは一瞬動きが鈍くなる。アリでこの成果が出るなら人型や獣型ならもっと効果が出るだろうか?感電させることは出来るようだが、加減が難しそうだ。

 ボス部屋の宝箱からは大きな宝石が出てきた。これで依頼を達成出来て一安心だ。

 弁当を食べて、探索を再開する。美姫と皐月も魔法攻撃を多くしている。美姫は風魔法、皐月は土魔法でワークアント、フライアント、ソルジャーアントを攻撃だ。魔法は使わないと威力が上がらないからね。一度戦い余裕があるのも大きい、四人が課題を意識しながら探索を進めていった。

「最後はオレがキメるぞ」

 十階層のボス部屋で最後に残ったキラーアントを皐月がシールドバッシュで倒した。四人でハイタッチ。今日も無事に探索を終えることが出来た。ドロップアイテムと宝箱の中身の大きな宝石を回収した。

 ここの宝箱からは大きな宝石ばかり出てくる。僕達だけなのだろうか?クランへの依頼が簡単に達成出来てしまうよ。簡単過ぎるのだがこれで良いのだろうか?ダンジョンの外に転移した。

 《桜花の誓い》も既に探索を終えて、僕達を待っていたようだ。

 合流するとすぐに遥が改めてお礼を言ってきた。使ってみて威力に驚いたと、これからも精進して頑張ると言ってきた。魔力枯渇には気をつけて頑張ってね。

 うちのクランには魔力ポーションが必需品なんだよ。全員がこちらにいるといつかはなくなってしまうが、まだ大量にストックしてあるから大丈夫だ。でも、《桜花の誓い》は早く帰ってポーションを手に入れてほしいと思う。家が狭くなっているからね。

 連日の依頼達成に姫路ダンジョンの支部長の藤尾さんも驚いていた。

「大きな宝石は宝箱から毎回入手出来るんですが、他の探索者はそうではないんですか?」
「依頼を達成するような宝石が出てきたことは一度もありませんよ。あなた方が初めてです。普通はAランクダンジョンからしか出てくることがない大きさです。それも稀にですよ。凄すぎてこちらがビックリしています」
「内緒でお願いしますね」

 ミスリルがあった昨日よりも当然買取り金額が少なくなったが、岡山ダンジョンを探索するときよりもかなり多い。スキルに感謝しておこう。

 今日はシャワーを浴びて着替えてからダンジョンを後にした。またもやジャンケン大会が始まったが、真姫だけ朝に続き二度目も負けていた。

「わざとよ。わざと」

 負け惜しみが虚しく響いている。《白鷺騎士団》オススメのお店にピストン輸送をして、晩御飯をいただく。確かに美味しい和食屋だった。ありがたい。今度はオススメの洋食屋にも行ってみようと思ったね。

 更にスーパー銭湯に行くためのジャンケンが始まった。やっぱりねの三度目だ。

「わざとよ。わざと」

 大きな風呂でゆっくりと湯舟に浸かり疲れをとる。いろいろな温泉を試しているとあっという間に時間が過ぎた。泡が勢い良く出てくる風呂が気に入ったよ。また近いうちに来ようと思う、最高だ。

 ゆっくりとしたつもりだったが、僕が一番早く出てきたようだ。アイスコーヒーを飲みながらボーッとしているとようやく皆が集まった。皆も気に入ったようでワイワイと楽しそうに話している。来て良かったよ。拠点の家に帰るためにまたもやジャンケンが………。

「わざとよ。わざと」

 お約束の四度目だ。真姫の肩が落ちていた。これでもかというぐらい落ちていたよ。

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