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第百二十三話 休日にカニを求めて

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 クランの活動日は月火木金の週四日である。急な用事がない限り水土日は休みになる。

 休みの日にはクランハウスにいても良いが、食事は自分で用意しなくてはならない。近くに食べ物屋や弁当屋もあるし、コンビニやスーパーもある。贅沢を言わなければどうにでもなる。

 休みの日の過ごし方もいろいろだ。何故かクランハウスに寝泊まりするメンバーが多いが、寝て疲れをとるも良し。実家に帰るのも良いし、ちょっと歩けば電車の駅があるので、街に遊びに行くのも良い。そして臨時パーティを組んでダンジョンの探索をするのも自由である。

 休みの前日にパーティメンバー募集の貼紙があるのも珍しくない光景になった。一応不満が出ないようにルールは決めてある。早い者勝ちだ。募集した人を含めて六人になった時点で締め切りになる。

 金曜日の岡山ダンジョンの探索後にクランハウスに帰って来てお風呂に入った。僕の父さんと真琴の父親も仕事から早く帰って来れたようなので、三人一緒に大きなお風呂に入った。

 真琴の父親の名前は葵拓真あおいたくまという。真琴は父親と母親から一字ずつ貰って名付けられたようだね。真琴は一人娘であり、大切に育てられているのが良く分かる。真琴の父親はたまに怖いんだよ。僕は絶対に手を出しませんから、そんなに睨まないでね。

 風呂上がりに食堂に行くと食事の準備が出来ていた。夕食は七時と決めている。皆で一緒にいただきます。

「真姫、明日は倉敷ダンジョンに行くんだろ。メンバーは集まったのか?」
「ええ、即完売よ。皐月、遥、綾芽、桃、山吹に決まったわ。しっかりと魔法の練習をしながら、お肉をゲットして来るわよ」
「盾三枚か?まあ面白い探索になりそうだな。じゃあ、残ったメンバーの中で鳥取の皆生温泉のダンジョンに泊まりがけで行きたい人は誰かいないか?母さんがカニが食べたいって言うんだよ。去年の夏に取ってきたカニがなくなったんだ。嫌な思い出のあるダンジョンだけど、カニの美味しさには勝てないからね。温泉も最高だし、宿の食事も美味い。どうだ、誰か行かないか?」
 
 真姫の臨時パーティに入っていない全員が行くと言う。ついでに僕の父さんも行くと言う。僕達がダンジョンに行っている間に大山のビール工房に行きたいらしい。予約してないと見学は出来ないと言ったが、レストランで飲み放題の食事が出来てビールを大量に購入出来れば良いそうだ。母さんも更に真琴の両親も一緒に行くらしい。僕の父さんは一生懸命母さんにお願いしていたよ。

「そんな後だしジャンケンのような県外ダンジョンへの遠征を出して来るなんて卑怯よ。皆も行きたいに決まっているでしょ」

 結局、全員での遠征になった。しかも保護者付きだ。部屋はいくつ予約をすれば良いんだ?インターネットで簡単に予約が出来て良かったよ。

「明日は二台の車で高速道路を使って移動するよ。朝の六時に出発するから、ちゃんと起きるようにね」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 皆生温泉までは僕と美姫の運転でやって来た。まだ九時前、チェックインするには早すぎる時間だ。SUV車を大人チームで使ってもらい、ゆっくり観光しながらビール工房を目指すそうだ。五時頃に迎えに行くから、全員で飲んでも大丈夫と伝えると盛り上がっていたよ。僕の父さんがね。

 僕達はワゴン車で探索者センターに行き、更衣室でバトルスーツに着替えて入場受付をした。Dランクダンジョンにバトルスーツを着た十人の集団がいると浮くね。周りからの視線が痛いよ。

 皆生温泉ダンジョンは海ダンジョンと呼ばれていて、海沿いの海岸を進んだ先に階段が出て来て階層をクリアしていくダンジョンだ。カニが出てくるのは十六階層以降である。僕と綾芽は去年の夏休みに二十一階層の転移の柱に登録しているが、他の皆は初めてのダンジョンだから一階層からの探索になる。

 パーティをどう組むかで悩んだ。一階層から五階層は海スライムとビッグシェル、階層が進む毎に魔物の種類が増えて来る。十階層までは砂の中から出て来て攻撃をして来るサンドシュリンプが増え、十五階層までは海の中から飛び出して攻撃をして来るトビウーオが増える。そしてやっと十六階層からビッグクラブが出てくる。

 前回はトビウーオへの対処が大変だった。海から飛び出て来るトビウーオを棍棒で打ち落としていったんだ。とても大変だったよ。でも今回は大盾が三人と、中盾が一人いるから楽そうだ。この四人をどう分けるかを考えないといけない。更に海スライムには魔法攻撃が効果的だし、ビッグクラブには高火力の攻撃が必要になる。更にドロップアイテムのことを考えて、【豪運】スキルの僕と幸運のミサンガの真姫は別チームにならなくてはいけない。

 高火力なのは綾芽と僕、風魔法の美姫と真琴を振り分けていく。そして皆で考えたAパーティは僕、美姫、皐月、山吹、遥の五人で、Bパーティは残りの真姫、詩音、綾芽、真琴、桃の五人だ。この二つのパーティでカニのドロップアイテムの確保に向かう。

 考えて作られたパーティはDランクダンジョンを簡単に攻略して行った。役割がハッキリしている分、無駄なく進んで行けた。二十階層まで攻略して大量のドロップアイテムを得ることが出来たよ。二十一階層の転移の柱に登録してそのままダンジョンの外に転移した。
 
 買取りでは食材はすべて持ち帰り、魔石はすべて買取りしてもらった。職員の方達は残念そうにしていたよ。今回の買取りで得た報酬は全額皆の宿泊費へと消えていく。今回だけの収支は赤字になるが、カニ、エビ、貝に魚と大量の食材はクランハウスの食事に出てくる。食材の費用を考えれば大きな黒字になる。

 探索者センターを出て、一旦今日の宿で皆を降ろす。

「皆はチェックインして温泉にでも入って寛いでてね。僕は親グループを迎えに行くよ」

 迎えに行ったビール工房では思い思いのお酒を飲んでいる親達がいたよ。売店で購入したものを飲んでいたのね。これから美味しい晩御飯が待っているんだけど良いのかな?見つからないようにワゴン車を腕輪に収納して、SUV車に四人を詰め込み宿へと戻った。晩御飯の前に温泉に浸かるとしよう。なんだか疲れたよ。

 二日目も僕達はダンジョンに向かった。午前中だけの探索だ。親達はチェックアウトの時間ギリギリまで寝て過ごす。前日は晩御飯を食べた後にすぐ寝ていた。折角だから温泉には入ってほしいと思うが無理かもしれない。

 ダンジョンでは完全攻略を狙った。二十一階層からはイカの魔物が、二十六階層からはタコの魔物が増えたが食材ドロップアイテムが増えて嬉しかったよ。

「最後のボスはサメの魔物だ。フカヒレがドロップすると良いな」

 ガッチリ盾で受け止めて僕が刀で止めを刺した。サメが消えた後には、巨大なフカヒレと銀色の宝箱が残っていた。宝箱の中からはキッチンバサミが五本出て来た。

「銀色なのにハサミだけか?なんだかがっかりだぜ」

 皐月と同じことを僕も思ったよ。ショボイなって思ったよ。

 ダンジョンを出て探索者センターでもう一つのパーティと落ち合い、買取り受付に向かった。今日も食材はすべて持ち帰る。鑑定結果によりマジックアイテムは持ち帰るかどうかを決める予定だ。

「こちらは海水から塩を作るマジックアイテムです。買取り価格は十万円です。そして最後にこちらのハサミですが、ミスリル製のキッチンバサミです。買取り価格は一丁で二百四十万円、全部で千二百万円です」

 ショボイと思ってごめんなさい。流石銀色の宝箱でした。

 相談した結果、海水から塩を作るマジックアイテムは買取りしてもらうことにした。これで魔石代と合わせて宿泊費が出た。キッチンバサミは持ち帰ることにする。ミスリルの買取り価格は一グラム三万円で、一丁が八十グラムだから二百四十万円になるらしい。ハサミの機能は関係ないそうだ。

 来月のクランの納品依頼に回しても良いし、そのままキッチンバサミとして使っても良いと思う。ミスリル製ならカニも簡単に食べることが出来そうだ。全員が無言で食事をしなくて良くなりそうだよ。

 ダンジョンで着替えて宿に向かった。チェックアウトは十一時、ギリギリ温泉に入ることが出来そうだ。急いで温泉に入り、親達を回収してチェックアウトした。

 たまにはこんな休みがあって良いのかな?忙しい日程だったが、温泉と料理は最高だったよ。









 
 
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