愛さえあれば他には何も要らない？ 貴方の新しい婚約者は、そう思ってはいないみたいですよ？

エピローグ 対照的な３人 俯瞰視点（１）

「…………………………」

　様々な想いが込められた、キス。そんなオデットの姿を見てしまったジルは、しばらく呆然となったあと――。なんと３分近くも無言で立ち尽くしたあと、突如その場に崩れ落ちてしまいました。

　今のオデットは美しく、彼の好みの女性だったこと。
　キス後の微笑みは綺麗で、見たこともないほどに澄んでいたこと。
　あの人――オデットこそが、誰よりも綺麗な心の持ち主だったとようやく気付いたこと。

　そして――

　どうやっても、時間は巻き戻ってくれないこと。

　それらによってジルは身体だけではなく心までもが脱力してしまい、放心状態となってしまいました。






「…………………………」

　たくさんの愛が詰まった、２人のキス。幸せそうなロジェとオデットの姿を見てしまったリリアンは、しばらく呆然となったあと――。３分以上もの間言葉を失い立ち尽くし、やがてその場に崩れ落ちてしまいました。

　わたくしに婚約者を奪われてしまった、惨めな負け犬。そう嘲笑っていた女が、最高の幸せを手に入れていること。
　かつて自分が求めていた――理想の頂点にいた人間の妻となり、こんなにも離れていてもキラキラと輝いて見えていること。
　自分と正反対の人生を送ったのは明白で、自分こそが惨めな負け犬だと痛感してしまったこと。

　そして――

　これまでで最も長く自身の人生を振り返り、最も強くこれまでの行動と選択を後悔したこと。
　
　
　それらによってリリアンは肉体のみならず精神までもが脱力してしまい、放心状態となってしまいました。


　そうして２人はそのまま何時間も動くことができず、それからなんと５時間後。夜になってようやくそれぞれの父親がその姿を見つけ、

「……………………」
「……………………」

　すっかり抜け殻のようになってしまった２人は、ズルズルと引きずられながらその場を去ったのでした。




　そして――。
　もう一人の人物、オデットはというと――