婚約破棄ですか? それはこれから、私が貴方に行うものですよ?

柚木ゆず

文字の大きさ
1 / 15

プロローグ ルイーズ視点

しおりを挟む
「エンティア子爵令嬢、ルイーズ。貴様との婚約を破棄する!」

 貴族の令息令嬢のみが籍を置く、王立サンテクス学院。その中にある、カフェテリア。いつものようにご学友とランチを摂っていたら、私への怒声が響き渡りました。
 細い眼鏡をかけられた、理知的な雰囲気を纏う長身の美男。この方は、リトラン伯爵家の嫡男イザック様。私と同じ3年A組に在籍されている、私の婚約者様です。

「イザック様、質問を二つさせていただきます。そう仰る理由、左右にいらっしゃるお二方について、お教えください」

 ナイフとフォークを置いてナプキンで口を拭いたあと、イスから立ち上がってイザック様へと体を向けます。
 この方の右側にいらっしゃる、ヴィレア男爵家のミラ様。左側にいらっしゃる、タユレス子爵家のマイリス様。お二人は怯えたようにされていて、そんなお二人を護るように立たれている理由、そのご説明をよろしくお願い致します。

「…………白を切るつもりか。いいだろう。ならば、皆(みな)の前でハッキリとさせてやろうじゃないか!」

 イザック様は大仰に呆れの息を吐き出され、私をギロリと睨みつけます。そしてカフェテリア内をぐるりと見まわし、殊更大きな声で詳説を行いました。

 2つ隣の組に所属する、タユレス様とヴィレア様。ヴィレア様はダンスがとてもお上手で、タユレス様は優れた美貌をお持ちな方。
 そのため私はお二人に嫉妬をして、嫌がらせを行っていた。やがてそれは時間に比例して酷いものになってゆき、先日ついには――。ヴィレア様を階段から突き落として怪我をさせたり、タユレス様を呼び出して顔を傷付けようとした。
 そういったことでお二人は耐えられなくなり、婚約者であるイザック様に助けを求めた。
 イザック様は信じられずその時は応じなかったものの、お二人のお顔が必死だったため、独自に調査を行う。その結果、言い分は事実と断定された。

 そういった経緯があって私を許せなくなり、こう宣言されたそうです。

「清楚な見た目とは裏腹に、腹の中は漆黒。そのため狡猾に動いていて、物的証拠は見つけられなかった。だが幸いにも目撃者が複数人おり、彼ら彼女らが証言してくれたのだよ。……忌々しい事に、明確な証拠がなければ罪には問えない」

 イザック様は忸怩含みで、強く歯がみを行います。

「しかしながら、全生徒に悪事および真の姿を知らしめることはできる。そして、俺の至らなさによって・・・・・・・・・・結んでしまった、婚約の破棄もな」

 相手に何かしらの問題が生じた場合は、たとえ相手が格上であっても、破棄や慰謝料の請求を行える。この国には、そんな法律があります。
 貴族界では信頼評判が非常に大事で、これは充分な『問題』となりますので。この法が適用されます。

「1年前に告白をしてしまい、4か月前に婚約をしてしまった。だがそんな過ちは、ここで絶つ。貴様との関係は、今日までだ!!」
「…………。イザック様」
「なんだ? 言い訳を聞くつもりはないぞ」
「いえ、そういったものではございません。この場で、貴方様にお伝えしなければならないことがありますので。口にさせていただきますね」

 カフェテリア内にいる、大勢の利用者の前で。沢山の視線を受けながら、私は嘘吐きな・・・・彼にこう告げたのでした。

「イザック様。婚約破棄は、貴方が行うものではありません。それはこれから、私が貴方に行うものですよ?」

しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

婚約者を奪っていった彼女は私が羨ましいそうです。こちらはあなたのことなど記憶の片隅にもございませんが。

松ノ木るな
恋愛
 ハルネス侯爵家令嬢シルヴィアは、将来を嘱望された魔道の研究員。  不運なことに、親に決められた婚約者は無類の女好きであった。  研究で忙しい彼女は、女遊びもほどほどであれば目をつむるつもりであったが……  挙式一月前というのに、婚約者が口の軽い彼女を作ってしまった。 「これは三人で、あくまで平和的に、話し合いですね。修羅場は私が制してみせます」   ※7千字の短いお話です。

婚約破棄させたいですか? いやいや、私は愛されていますので、無理ですね。

百谷シカ
恋愛
私はリュシアン伯爵令嬢ヴィクトリヤ・ブリノヴァ。 半年前にエクトル伯爵令息ウスターシュ・マラチエと婚約した。 のだけど、ちょっと問題が…… 「まあまあ、ヴィクトリヤ! 黄色のドレスなんて着るの!?」 「おかしいわよね、お母様!」 「黄色なんて駄目よ。ドレスはやっぱり菫色!」 「本当にこんな変わった方が婚約者なんて、ウスターシュもがっかりね!」 という具合に、めんどくさい家族が。 「本当にすまない、ヴィクトリヤ。君に迷惑はかけないように言うよ」 「よく、言い聞かせてね」 私たちは気が合うし、仲もいいんだけど…… 「ウスターシュを洗脳したわね! 絶対に結婚はさせないわよ!!」 この婚約、どうなっちゃうの?

婚約破棄は先手を取ってあげますわ

浜柔
恋愛
パーティ会場に愛人を連れて来るなんて、婚約者のわたくしは婚約破棄するしかありませんわ。 ※6話で完結として、その後はエクストラストーリーとなります。  更新は飛び飛びになります。

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

本当の貴方

松石 愛弓
恋愛
伯爵令嬢アリシアは、10年来の婚約者エリオットに突然、婚約破棄を言い渡される。 貴方に愛されていると信じていたのに――。 エリオットの豹変ぶりにアリシアは…。 シリアス寄りです。

婚約破棄ですか?聞き飽きましたのでお好きになさってくださる?

うめまつ
恋愛
婚約破棄が口癖のだめんずに飽きた伯爵令嬢。 ※タイトルと中身が迷走中で申し訳ないです。 ※完結しました。

三日後に婚約破棄します

夜桜
恋愛
 公爵令嬢・ミランダは幼馴染の帝国諸侯・ウェイドを助けたかった。彼はサルビアという女性から執拗以上に好意を持たれ困り果てていた。  ウェイドは、サルビアを諦めさせる為、ミランダに一時的な婚約を頼み込む。ミランダは事情を汲み、三日後に婚約破棄するという条件付きで快諾。  しかし、それは惨劇の始まりだった――。

婚約破棄を言い渡された私は、元婚約者の弟に溺愛されています

天宮有
恋愛
「魔法が使えない無能より貴様の妹ミレナと婚約する」と伯爵令息ラドンに言われ、私ルーナは婚約破棄を言い渡されてしまう。 家族には勘当を言い渡されて国外追放となった私の元に、家を捨てたラドンの弟ニコラスが現れる。 ニコラスは魔法の力が低く、蔑まれている者同士仲がよかった。 一緒に隣国で生活することを決めて、ニコラスは今まで力を隠していたこと、そして私の本来の力について話してくれる。 私の本来の力は凄いけど、それを知ればラドンが酷使するから今まで黙っていてくれた。 ニコラスは私を守る為の準備をしていたようで、婚約破棄は予想外だったから家を捨てたと教えてくれる。 その後――私は本来の力を扱えるようになり、隣国でニコラスと幸せな日々を送る。 無意識に使っていた私の力によって繁栄していたラドン達は、真実を知り破滅することとなっていた。

処理中です...