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第3話 二つ目の嘘 上

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「ケヴィン・イバズ。この5人が協力者と認定された理由は、なんだ? まさか、自白が決め手ではないだろう?」
「……もちろん、違います。彼女達が報酬お礼として与えられた札の一部から、メリッサ・ハンナの指紋が検出されたのですよ」

 イバズ会長は持っていた書類に改めて目を通し、わたしを一瞥したあと紙面の文字を読み上げました。

「こちらは捜査機関が作成した、正式な『鑑定書類』となっております。言わずもがな僕は関与できませんし、細工も施していません。どうぞお手に取ってご確認ください」
「…………なるほどな。手が加わった痕跡はなく、確かにそう判断されているな」
「はい。第三者が客観的な目線で調査し、まとめ上げたものです。タウラ殿、まだ何かございますか?」

 久しぶりに会長の顔と声に余裕が表れ、ですが、その二つはすぐに消えることになりました。

「ああ、あるぞ。質問をさせてもらおうか」
「ど、どうぞ……。なんでしょう?」
「お前は先程、『札の一部』と言ったな。メリッサの指紋が付着していたのは、何枚中何枚だったのだ?」
「ご、50枚中1枚です。5人に対して各10万が渡されており、その中の1枚に運よく付いていました」

 わたしは、そんな真似はしてはいませんが……。さっき見せられた書類にも、そう書いてありました。

「……そうか。50枚もあって、なぜか、1枚だけに残っていたのか。どうして、1枚だけに付着していたのだろうな?」
「捜査員によりますと、念のためなのか指紋が拭き取られていたようです。どうやらその1枚は、その際にうっかり触れてしまったもののようですね」
「1枚のみは、ミスの影響か。理路整然としてはいるな」
「でしょう? 納得して頂けたようですので――」
「だがソレは、理屈が理路整然としているだけだ。俺はまだ納得してはいない」

 タウラ様は大仰に首を振り、手にしていた鑑定書類に目を落としました。

「ここにあるのは、『間違いなく指紋がありました』という文字だけだ。……俺は昔から、実物を見ないと信用できない性質(たち)なのだよ。心から納得できるように、1枚を含めた全50枚を持ってきてくれ」
「……………………」

 そんな依頼をされるや、会長は――サトロ様も、揃って息を呑みました。
 どうやら。そうされると、不味いようです。

「どうした? できないのか? 証拠は保管し続ける決まりがあり、関係者は持ち出す権利を持っているはずだ」
「い、いえ……。できなくは、ないのですが……。その……。そのですね……。何かと、不都合がありまして……」
「証拠の確認は貴族平民関係なく、当然の権利として存在しているだろう? その言葉を全く理解できないが、そう言うなら仕方がない。代わりに俺が依頼をするとしよう」

 タウラ様は狼狽する姿に目を細め、場内にいらっしゃる学院長先生に連絡を要請します。すると会長はああ仰っていましたがあっさりと要望が通ったようでして、1時間半ほどで運び込まれることとなったのでした。



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