婚約破棄が嬉しかったのでおもわず笑ってしまったら、それを見た元婚約者様が怯え始めたようです

第９話 監視者ドニウスが直面する、恐ろしい偶然～小さな子どもの行動が～ 俯瞰視点（２）

（（だ、だとしたら…………。この形にも、なにか意味が……あるのか？　…………ここまで手の込んだ真似をするんだ。あるに、違いない））

　新商品ロゼッタを凝視していたドニウスはトングで恐る恐る掴み、トレーに載せて観察を始めます。

（（…………このパンは…………薔薇を、イメージしている……。俺の思い違いでは、ないな……））

　傍にあるＰＯＰには、中央に大きな赤い薔薇が一本、その周囲には色とりどりの小さな薔薇の花がかわいく描かれていました。そのためドニウスは『薔薇』を表していると断定し、

（（この花に、暗喩はあったか……？））

　そんな風に、考え始めます。

（（薔薇に暗喩は…………表の世界にも……裏の世界にも…………ないな。だとしたら………………花言葉、か？））

　あのガエルがこのパンを突然販売し始め、あのアンジェリクがこうしてＰＯＰを制作しているんだ。必ず意図があり、それらが違うとしたら花言葉しかない――。
　彼はそう結論付けて、しかしながら眉間に皺が刻まれました。

（（薔薇…………薔薇……。まいったな、花言葉なんて知らないぞ。…………確か近くに図書館があったから、調べるか））

　そのためドニウスは大急ぎで精算を行い、駆け足で図書館へと走り花言葉が網羅された本を手に取りました。

（（あの中では赤が一番目立っていたから、あちらからのメッセージが込められているとしたら赤だろうな。ええと……薔薇は、色によって花言葉も違っていて……。赤色の薔薇の花言葉は………………ん？　んん？　『情熱』、『愛情』、『美』だと？））

　恐る恐るページを捲ってみると、そこにあったのは平和的なものばかり。とても自分達へのメッセージとは思えない文字だけが、並んでいました。