14 / 16
第6話 決行 アネッサ視点(1)
しおりを挟む
「お姉様。お茶に致しましょう」
不審な気配は、一切見せない。部屋に入るといつものようにベッドの傍にテーブルをセッティングして、エヴァネアをベッドの縁に座らせた。
「いつもありがとう、アネッサ」
「そんな、わたくしが好きでやっていることですわ。お気になさらないでください」
今日も今日とて『良い子』を演じ、万が一にも疑われてしまわないように、エヴァネアの前でカップに紅茶を注ぐ。
「いい香りね」
「ですよね。本日は、ローマロック地方の茶葉を使用しています」
「ローマロック。ということは……」
「はい、そうですわ。こちらで混ぜます」
わたくしが取り出したのは、シナモンスティック。
ローマロック地方では飲む前に、シナモンスティックでかき混ぜるのが定番で――今回わざわざココの茶葉を使用した理由は、ココにありますのよね。
「ではお嬢様、混ぜますね」
粉末を目の前で、気付かれずに入れるのは至難の業。そこでシナモンスティックの中に粉末を仕込み、混ぜながら溶かす。
「シナモンの風味はとても大事。しっかりと混ぜさせていただきますね」
「……………………」
「? お姉様?」
急に反応がなくなった。どうしたんですの……?
「ええ、お願いするわ。……ねえ、アネッサ」
「はい? なんでしょう?」
「なんだか急に、シナモンを入れずに飲みたくなってしまったの。悪いのだけれど、これではないものをもらえるかしら?」
「お姉様、そう仰らずに飲みましょう。シナモンにはリラックス効果があるらしく、今のお姉様にピッタリですわ」
せっかくの準備が台無しになる。大人しく飲みなさいよ。
「…………そうね、そうよね。そうするわ」
「是非、そうしてください。…………お待たせいたしました」
レロック茸の粉末が入った紅茶を差し出す。
ふふふふふ。どうぞ、わたくしの愛情がた~ぷりと入った紅茶を召し上がれ。
「ありがとうね、アネッサ」
何も知らないエヴァネアは、呑気に応じて――
「え……?」
――内心ほくそ笑んでいたわたくしは、その直後に唖然となってしまうのだった。
どういう、こと?
なんで……。
「でも、この紅茶は飲めないわ。だって、危険なものが入っているんだもの……」
カップを置いたの……?
不審な気配は、一切見せない。部屋に入るといつものようにベッドの傍にテーブルをセッティングして、エヴァネアをベッドの縁に座らせた。
「いつもありがとう、アネッサ」
「そんな、わたくしが好きでやっていることですわ。お気になさらないでください」
今日も今日とて『良い子』を演じ、万が一にも疑われてしまわないように、エヴァネアの前でカップに紅茶を注ぐ。
「いい香りね」
「ですよね。本日は、ローマロック地方の茶葉を使用しています」
「ローマロック。ということは……」
「はい、そうですわ。こちらで混ぜます」
わたくしが取り出したのは、シナモンスティック。
ローマロック地方では飲む前に、シナモンスティックでかき混ぜるのが定番で――今回わざわざココの茶葉を使用した理由は、ココにありますのよね。
「ではお嬢様、混ぜますね」
粉末を目の前で、気付かれずに入れるのは至難の業。そこでシナモンスティックの中に粉末を仕込み、混ぜながら溶かす。
「シナモンの風味はとても大事。しっかりと混ぜさせていただきますね」
「……………………」
「? お姉様?」
急に反応がなくなった。どうしたんですの……?
「ええ、お願いするわ。……ねえ、アネッサ」
「はい? なんでしょう?」
「なんだか急に、シナモンを入れずに飲みたくなってしまったの。悪いのだけれど、これではないものをもらえるかしら?」
「お姉様、そう仰らずに飲みましょう。シナモンにはリラックス効果があるらしく、今のお姉様にピッタリですわ」
せっかくの準備が台無しになる。大人しく飲みなさいよ。
「…………そうね、そうよね。そうするわ」
「是非、そうしてください。…………お待たせいたしました」
レロック茸の粉末が入った紅茶を差し出す。
ふふふふふ。どうぞ、わたくしの愛情がた~ぷりと入った紅茶を召し上がれ。
「ありがとうね、アネッサ」
何も知らないエヴァネアは、呑気に応じて――
「え……?」
――内心ほくそ笑んでいたわたくしは、その直後に唖然となってしまうのだった。
どういう、こと?
なんで……。
「でも、この紅茶は飲めないわ。だって、危険なものが入っているんだもの……」
カップを置いたの……?
107
あなたにおすすめの小説
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
ワザと醜い令嬢をしていた令嬢一家華麗に亡命する
satomi
恋愛
醜く自らに魔法をかけてケルリール王国王太子と婚約をしていた侯爵家令嬢のアメリア=キートウェル。フェルナン=ケルリール王太子から醜いという理由で婚約破棄を言い渡されました。
もう王太子は能無しですし、ケルリール王国から一家で亡命してしまう事にしちゃいます!
【完結】アラマーのざまぁ
ジュレヌク
恋愛
幼い頃から愛を誓う人がいた。
周りも、家族も、2人が結ばれるのだと信じていた。
しかし、王命で運命は引き離され、彼女は第二王子の婚約者となる。
アラマーの死を覚悟した抗議に、王は、言った。
『一つだけ、何でも叶えよう』
彼女は、ある事を願った。
彼女は、一矢報いるために、大きな杭を打ち込んだのだ。
そして、月日が経ち、運命が再び動き出す。
婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。
彼方
恋愛
男爵令嬢エミリアは、パーティー会場でレイブンから婚約破棄を宣言された。どうやら彼の妹のミラを、エミリアがいじめたことになっているらしい。エミリアはそのまま断罪されるかと思われたが、彼女の親友であるアリアが声を上げ……
愛されヒロインの姉と、眼中外の妹のわたし
香月文香
恋愛
わが国の騎士団の精鋭二人が、治癒士の少女マリアンテを中心とする三角関係を作っているというのは、王宮では当然の常識だった。
治癒士、マリアンテ・リリベルは十八歳。容貌可憐な心優しい少女で、いつもにこやかな笑顔で周囲を癒す人気者。
そんな彼女を巡る男はヨシュア・カレンデュラとハル・シオニア。
二人とも騎士団の「双璧」と呼ばれる優秀な騎士で、ヨシュアは堅物、ハルは軽薄と気質は真逆だったが、女の好みは同じだった。
これは見目麗しい男女の三角関係の物語――ではなく。
そのかたわらで、誰の眼中にも入らない妹のわたしの物語だ。
※他サイトにも投稿しています
両親に溺愛されて育った妹の顛末
葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。
オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。
「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」
「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」
「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」
妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる