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第2話 報告 シドニー視点
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「シドニー、ニコラおじさんも、なんでここにいるんだい……!? 今日は、ワズテイルズ邸に行っているはず、だよね……!?」
目的に着いて、馬車を降りると――やや童顔で中性的な、子犬っぽい印象を受ける男性が走り寄って来てくれました。
彼はわたしの幼馴染で元婚約者だった、モザルーア子爵家の嫡男・アレクサンドル。
彼やアレクサンドルの父達に今の状況を伝えるために、ワズテイルズ伯爵邸を急いで発っていたのです。
「うん、新たな婚約を結ばされるために向かったわ。でもね、その件は白紙になったの。バジル様との婚約はなかったことになったんだよ」
「なんだって!? あの方は、あんなにもシドニーに執心していたのに……。あちらで何があったんだい……!?」
「……すぐには信じられないと思うけど。奇跡が起きたの」
現在は隣国に留学されている、ポルートッド子爵令嬢のアナ様と出会って心変わりしたこと。
それは挙式の一週間前のことで、現在の『一番』の女性と結婚できなくなってバジル様は激しく後悔していたこと。
その結果『時間を巻き戻して婚約を白紙にしたい』と、祭壇の前で神頼みをすることになったこと。
それが成功してわたしとバジル様のみ記憶を引き継いだ状態で1年間巻き戻り、先の理由によって婚約は直前で不成立となったこと。
荒唐無稽な事実を伝えました。
「……時の逆行……。そんなことがあるだなんて……」
「私(わたし)も移動中に聞かされて、唖然となってしまったよ。だがシドニーは我々が知らない今後一年間の出来事などをスラスラと語れたし、なによりだ、バジル様は突然『今は去年だ』『去年の7月15日だ』と言い出して即座に婚約を白紙にした。ソレ以外あり得んのだよ」
「アレクサンドル、おじ様、おば様、お父様やお母様やオレリアもそう。『子どもたち』が苦しんでいた。ランドラ―ズン様が助けてくださったのだと思う」
「…………そう、だね。僕もそう思うよ。そっか……。そうなんだ……!」
驚きだけだった表情と声音に徐々に喜びが含まれるようになって、やがて驚きと喜びの比率が逆転。状況をしっかり実感できるようになったアレクサンドルは両目を潤ませ、わたしの両手を握ってくれました。
「……お帰り、お帰りシドニー……! 寂しい、辛い思いをさせてごめん……! なんの役にも立てなくてごめん……!」
「ううん、アレクサンドルもずっと必死になってくれた。たとえ時間が巻き戻ってくれなかったとしても、貴方に悪い感情を抱くことはなかったよ」
「……ありがとう。でも、もう二度とそんな思いはさせない。もし似たようなことが起きた時はちゃんと護れるように、力をつけるよ……! 繰り返させないように、必ず、つけるから……! 約束する……!!」
嬉しさと悔しさが混ざった涙をボロボロと零しながら、してくれた約束。それを見て聞いたわたしもおもわず涙が零れてしまい、わたしは――わたし達は無意識的に抱き締め合っていました。
「……だから、改めて言うよ。シドニーっ。今度こそずっと、一緒に歩いていこうね……!」
「うん、うん……! ありがとう、ありがとう……! ずっと一緒にいようね、アレクサンドル……!」
そうしてわたし達は、再び将来を誓い合って――。
もう二度と訪れることはないと諦めていた時間。
アレクサンドルと二人きりで過ごす時間を、思う存分堪能したのでした。
〇〇
その頃。もう一人の『記憶を持ち越した者』は――
目的に着いて、馬車を降りると――やや童顔で中性的な、子犬っぽい印象を受ける男性が走り寄って来てくれました。
彼はわたしの幼馴染で元婚約者だった、モザルーア子爵家の嫡男・アレクサンドル。
彼やアレクサンドルの父達に今の状況を伝えるために、ワズテイルズ伯爵邸を急いで発っていたのです。
「うん、新たな婚約を結ばされるために向かったわ。でもね、その件は白紙になったの。バジル様との婚約はなかったことになったんだよ」
「なんだって!? あの方は、あんなにもシドニーに執心していたのに……。あちらで何があったんだい……!?」
「……すぐには信じられないと思うけど。奇跡が起きたの」
現在は隣国に留学されている、ポルートッド子爵令嬢のアナ様と出会って心変わりしたこと。
それは挙式の一週間前のことで、現在の『一番』の女性と結婚できなくなってバジル様は激しく後悔していたこと。
その結果『時間を巻き戻して婚約を白紙にしたい』と、祭壇の前で神頼みをすることになったこと。
それが成功してわたしとバジル様のみ記憶を引き継いだ状態で1年間巻き戻り、先の理由によって婚約は直前で不成立となったこと。
荒唐無稽な事実を伝えました。
「……時の逆行……。そんなことがあるだなんて……」
「私(わたし)も移動中に聞かされて、唖然となってしまったよ。だがシドニーは我々が知らない今後一年間の出来事などをスラスラと語れたし、なによりだ、バジル様は突然『今は去年だ』『去年の7月15日だ』と言い出して即座に婚約を白紙にした。ソレ以外あり得んのだよ」
「アレクサンドル、おじ様、おば様、お父様やお母様やオレリアもそう。『子どもたち』が苦しんでいた。ランドラ―ズン様が助けてくださったのだと思う」
「…………そう、だね。僕もそう思うよ。そっか……。そうなんだ……!」
驚きだけだった表情と声音に徐々に喜びが含まれるようになって、やがて驚きと喜びの比率が逆転。状況をしっかり実感できるようになったアレクサンドルは両目を潤ませ、わたしの両手を握ってくれました。
「……お帰り、お帰りシドニー……! 寂しい、辛い思いをさせてごめん……! なんの役にも立てなくてごめん……!」
「ううん、アレクサンドルもずっと必死になってくれた。たとえ時間が巻き戻ってくれなかったとしても、貴方に悪い感情を抱くことはなかったよ」
「……ありがとう。でも、もう二度とそんな思いはさせない。もし似たようなことが起きた時はちゃんと護れるように、力をつけるよ……! 繰り返させないように、必ず、つけるから……! 約束する……!!」
嬉しさと悔しさが混ざった涙をボロボロと零しながら、してくれた約束。それを見て聞いたわたしもおもわず涙が零れてしまい、わたしは――わたし達は無意識的に抱き締め合っていました。
「……だから、改めて言うよ。シドニーっ。今度こそずっと、一緒に歩いていこうね……!」
「うん、うん……! ありがとう、ありがとう……! ずっと一緒にいようね、アレクサンドル……!」
そうしてわたし達は、再び将来を誓い合って――。
もう二度と訪れることはないと諦めていた時間。
アレクサンドルと二人きりで過ごす時間を、思う存分堪能したのでした。
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その頃。もう一人の『記憶を持ち越した者』は――
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