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第1話 大晦日の一日(1)
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「いや~。今年も、あと少しで終わりだねぇ」
都内某所にある、『付喪神対策局』の東京支部。2階建ての建物の2階部こと事務所内では、ひとりの青年がしみじみ呟きながら卓上にある『12月31日 PM4時5分』を示す置時計を眺めていました。
冬の夜空のような澄んだ黒い髪を肩に軽くかかる程度に伸ばした、どこかひょうひょうとした印象を受ける25歳の優男。彼はここ東京支部の支部長を務める、神宮寺冬馬(じんぐうじとうま)です。
「ついこの間、2024年が始まったと思ってたのに。時の流れは早い――というか不思議だよね、鏡(きょう)さん」
「ええ、そうですね。24時間で構成された1日という時間を過ごしている際はそう感じないのに、振り返ってみれば疾風のように感じてしまう。時(とき)とは面妖なものですよ、私以上に」
冬馬が座っている椅子の後ろにある、窓。そこから大みそか特有の忙しない空気を孕んだ外の景色を眺めていた、色素の薄い長髪を後ろで束ねた古風な印象を受ける美男。
彼は、月夜見鏡(つくよみきょう)。2人体制の東京支部の『もうひとり』であり、長である冬馬の補佐を務める人物です。
「それともう一点、12月から1月に変わるということ。それは6月から7月へと変わる際と同じでありながらも、まったく違う雰囲気を生む。不可思議なものです」
「一緒なはずなのに全然違う印象を受けちゃうんだから、『枠組み』っていうのも面白いよね。僕は枠に嵌まったり囚われたりするのは嫌いな方だけど、こういうのは面白いからずっと嵌まりっぱなしでいいかな」
そんなことを話しながら揃ってクスッと笑い合い、更にしばらく――3分ほど、他愛もない言葉のキャッチボールをした頃でした。冬馬が「そうそう、大晦日といえば」と呟きました。
「僕、一年の中で大晦日が一番好きなんだよ。なんでか分かる?」
「もちろん分かりますよ。年越しそば、があるからですよね?」
「大正解。鏡さん謹製の年越しそばを食べられるのは、一年で今日だけだからね。実はずっと楽しみで仕方がなかったんだ」
出汁も蕎麦も、完全手作りの逸品。
蕎麦打ちは鏡の趣味であり定期的に作っていますが、特別なトッピングが乗るのは年越しの際だけ。一番の大好物の味を思い出し、冬馬はぺろりと舌なめずりをしました。
「作り手冥利に尽きます。言ってくだされば、いつでも年越し版を作りますよ?」
「ありがとう鏡さん。でも、遠慮しておくよ。せっかくの特別がなくなるのは、なんだか寂しい。そういうのも大事にしていきたいなって」
「ふふ、貴方らしいですね。では今年も、心を込めて最高の一杯をお作りします」
「うん、期待させてもらいます。それじゃあ年越しタイムになるまで、書類を片付けておこうかな――残念。そうも言ってられないみたいだ」
ピリリリリリリリ ピリリリリリリリ
肩を竦めながら椅子から立ち上がった、その直後でした。室内に、電話の着信音が――『仕事』の発生を知らせる音が、鳴り響いたのでした。
都内某所にある、『付喪神対策局』の東京支部。2階建ての建物の2階部こと事務所内では、ひとりの青年がしみじみ呟きながら卓上にある『12月31日 PM4時5分』を示す置時計を眺めていました。
冬の夜空のような澄んだ黒い髪を肩に軽くかかる程度に伸ばした、どこかひょうひょうとした印象を受ける25歳の優男。彼はここ東京支部の支部長を務める、神宮寺冬馬(じんぐうじとうま)です。
「ついこの間、2024年が始まったと思ってたのに。時の流れは早い――というか不思議だよね、鏡(きょう)さん」
「ええ、そうですね。24時間で構成された1日という時間を過ごしている際はそう感じないのに、振り返ってみれば疾風のように感じてしまう。時(とき)とは面妖なものですよ、私以上に」
冬馬が座っている椅子の後ろにある、窓。そこから大みそか特有の忙しない空気を孕んだ外の景色を眺めていた、色素の薄い長髪を後ろで束ねた古風な印象を受ける美男。
彼は、月夜見鏡(つくよみきょう)。2人体制の東京支部の『もうひとり』であり、長である冬馬の補佐を務める人物です。
「それともう一点、12月から1月に変わるということ。それは6月から7月へと変わる際と同じでありながらも、まったく違う雰囲気を生む。不可思議なものです」
「一緒なはずなのに全然違う印象を受けちゃうんだから、『枠組み』っていうのも面白いよね。僕は枠に嵌まったり囚われたりするのは嫌いな方だけど、こういうのは面白いからずっと嵌まりっぱなしでいいかな」
そんなことを話しながら揃ってクスッと笑い合い、更にしばらく――3分ほど、他愛もない言葉のキャッチボールをした頃でした。冬馬が「そうそう、大晦日といえば」と呟きました。
「僕、一年の中で大晦日が一番好きなんだよ。なんでか分かる?」
「もちろん分かりますよ。年越しそば、があるからですよね?」
「大正解。鏡さん謹製の年越しそばを食べられるのは、一年で今日だけだからね。実はずっと楽しみで仕方がなかったんだ」
出汁も蕎麦も、完全手作りの逸品。
蕎麦打ちは鏡の趣味であり定期的に作っていますが、特別なトッピングが乗るのは年越しの際だけ。一番の大好物の味を思い出し、冬馬はぺろりと舌なめずりをしました。
「作り手冥利に尽きます。言ってくだされば、いつでも年越し版を作りますよ?」
「ありがとう鏡さん。でも、遠慮しておくよ。せっかくの特別がなくなるのは、なんだか寂しい。そういうのも大事にしていきたいなって」
「ふふ、貴方らしいですね。では今年も、心を込めて最高の一杯をお作りします」
「うん、期待させてもらいます。それじゃあ年越しタイムになるまで、書類を片付けておこうかな――残念。そうも言ってられないみたいだ」
ピリリリリリリリ ピリリリリリリリ
肩を竦めながら椅子から立ち上がった、その直後でした。室内に、電話の着信音が――『仕事』の発生を知らせる音が、鳴り響いたのでした。
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