あこがれチェンジ!

柚木ゆず

文字の大きさ
45 / 68

12 あたし達が解決! (1)

しおりを挟む
 あたしたちが駆けつけると、やっぱりそう。
 黒い服に茶色いズボンの男の子――トラヒコくんが、人が外に落ちないように区切ってある柵を跨いでいた。

「きっ、君は何をしているんだ! 危ないから離れなさい!!」
「ここは6階なんだぞっ! 早く降りるんだ!!」
「警備員のオジサン達、心配要らないよ。俺は、落ちはしないからさ」

 トラヒコくんは呑気に笑って、右手をゆっくり左右に動かす。
 モミジちゃんが言ってたけどここは『吹き抜け』という造りになっていて、1階まで見下ろせる。つまりここから落ちると絶対に死んじゃうから、どうにかしないと大変だ……っ。

「それにさ、柵の上――手すりに立ったらそっちに戻る。安心してよ」

 どうしようか考えてたら、トラヒコくんはもっと怖いコトを言い出した。
 そ、そこで立つ、の……?

「なっ、立つだって……!? ど、どうしてキミはそんな真似をするんだ……!?」
「俺はこんなに勇敢なのに、なぜか同級生は『もう少し勇気を出してみたらどうかな?』と心配そうに言ってきてね。そういう変な勘違いをなくすために、1番危ない場所でそうじゃないって証明するんだよ」
(アコヘンのせいで彼は、昔から今の自分だったと思い込んでいる。だから周囲の評価をおかしいと感じてしまい、行動を起こしたのね……)

 自分はこんなにも勇敢なのに、周りは違うって言う。
 違うトラヒコくんになっちゃってるから、優しさが伝わらないんだね……。

「こういう時は、本人が満足するまでやめはしない。例え家族が説得したとしても、受け入れはしないわ」
「だよ、ねぇ……。でも、このままだと失敗しちゃう……」

 10センチもないところに立つのは、無理。必ず落ちちゃうよ。

「私も、それは理解しているわ。けれど下手に動くと暴れて、結局落ちてしまうのよ」
「ぁぅぅ。どうすれば、いーのかな……?」
「彼の成功を、祈るしかない。これが精一杯よ」

 大人の警備員さんたちが傍にいるけど、何もできないんだもん。
 子どものあたしたちはもっと、何もできないよね……。

「俺だって落ちるのは嫌で、注意してやる。だから静かに見ていてよ」
「…………わ、わかった。我々はここで見守る。ただし危ないと感じたら、すぐに降りるんだぞ?」
「はいはい。それじゃあやるから、ちゃんと見ててくれよ」

 トラヒコくんは満足そうなお顔をして、立つ準備を始める。
 まずは跨いでいる右足を手すりにのっけて、バランスを調整。滑りやすいから慎重に立ち上がる用意をして、次は左足を動かす。

「ここからが、難しい。集中してるから、静かに頼むよ」
「「「「「………………」」」」」

 警備員さん。あたしたち。他のお客さんたち。駆けつけたパパさんママさんたち。ユーカとユーナ。
 みんな声を出したいけど出さずに、心配そうに見守る。

「バランスに、気を付けながら……。足を動かして……」
「「「「「………………」」」」」
「その足を、慎重に、ここに持ってきて……」
「「「「「………………」」」」」
「今度は、もう片方をゆっくり上げて……。落ちないように、注意しながら……。しっかりそこに乗せ――ぅわ!?」

 右手がつるっと滑って、体が外に倒れそうになった!
 大変っ! このままだと落ちちゃうっっ!!



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

【運命】と言われて困っています

桜 花音
児童書・童話
小6のはじまり。 遠山彩花のクラスである6年1組に転校生がやってきた。 男の子なのに、透き通るようにきれいな肌と、お人形さんみたいに、パッチリした茶色い瞳。 あまりにキレイすぎて、思わず教室のみんな、彼に視線が釘付けになった。 そんな彼が彩花にささやいた。 「やっと会えたね」 初めましてだと思うんだけど? 戸惑う彩花に彼はさらに秘密を教えてくれる。 彼は自らの中に“守護石”というものを宿していて、それがあると精霊と関われるようになるんだとか。 しかも、その彼の守護石の欠片を、なぜか彩花が持っているという。 どういうこと⁉

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

水色オオカミのルク

月芝
児童書・童話
雷鳴とどろく、激しい雨がやんだ。 雲のあいだから光が差し込んでくる。 天から地上へとのびた光の筋が、まるで階段のよう。 するとその光の階段を、シュタシュタと風のような速さにて、駆け降りてくる何者かの姿が! それは冬の澄んだ青空のような色をしたオオカミの子どもでした。 天の国より地の国へと降り立った、水色オオカミのルク。 これは多くの出会いと別れ、ふしぎな冒険をくりかえし、成長して、やがて伝説となる一頭のオオカミの物語。

処理中です...