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第7話 今宵のパーティーは、理不尽とストレスが多め エリック視点 (3)
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「リナ、改めて言うよ? それは、勘違い。俺は君しか見てはいないよ」
別室に移動後。俺は怒鳴りたい衝動を懸命に抑え、にこやかに口元を緩めた。
「そりゃあこれまでに、他の人に恋をした経験はあるよ? けれど、婚約を申し込んでから――お付き合いを申し込んでからは、一度もないんだ」
「………………」
「こうしてしっかりと愛の証を身につけているように、この心にはもう他者が入り込む余地がない。意識する事さえも、有り得ないんだよ」
「………………そう、なんですか……。でしたら、あの目線はなんだったのですか?」
こっちはちゃんと感情を抑えてやってるのに、この女はそのまま。ふくれっ面が維持されていて、またジト目がやってきた。
「あの時のエリックさん、私に告白をしてくれた時とおんなじ目でした。あの時とおんなじ気持ちにならないと、ああはなりませんよね?」
「あ、あのね? 何度も言ってるよね? 全部勘違いで――」
「一生忘れないものを、見間違えはしません。自信があります」
「り、リナ? 一度冷静になって、落ち着いて――」
「私はずっと、落ち着いていますよ。確かに、この目で見ました」
っっ。
…………折角ひとが穏やかに接してやったのに、厚意を無駄にしやがるのか……。
あーそーかそーか。お前は生意気にも、そういうことをするんだな? よーく分かったぞ!
((もう面倒くさい。下手に出てヘコへコするのは辞めだ!))
多少の不自然なんて知ったことかっ! 一番分かりやすい方法でこの件を終わらせてやる! お前に頭を下げさせてやる!!
「いいですか、エリックさん。私は――」
「こんなやり取り、不毛だ。ついてきてくれ」
バカ女の腕をワザと強く引っ張り、二人揃って会場に戻る。そして俺達はその足でレルナ殿のもとに行き、周囲の意識を引きつつ頭を下げた。
「申し訳ありません、レルナ殿。自分は無意識のうちに、ご迷惑をおかけしていたのかもしれません」
「え……? ご迷惑、ですか?」
「前々回初めてご挨拶を行った時からリナは、俺が貴方に好意を抱いていると勘違いしていたようなんですよ」
ここは故意に、大きく発音する。
「勿論俺にそんな感情はないのですが、もしかすると貴方もそう感じられていたのかもしれない。そう考え、念のためお詫びに参りました」
「まあ、そうだったのですか。お二人のお姿が見えなくなっていたのは、そういう理由だったのですね」
レルナ殿は得心して胸の前でぽんと手を合わせ、首を左右に振る。
「あたしは一度も、そのように感じてはいませんでしたよ。安心してください」
「そ、そうでしたか。先程別室で事情を知って以来、ずっと不安でしたが……。胸のつっかえが取れましたよ」
後頭部を掻きながら「はははははっ」と笑い、聴覚を意識してみる。これを見て聞いていた、周りの反応は……。
『ミオファ殿も、大変でしたなぁ。サーハル殿は意外と、嫉妬心があるようですな』
『追いかけて、説得して、謝って。あとで、お疲れ様と伝えにいきましょうか』
なかには『青春だ』とほざいているバカもいるが、大半が俺を持ち上げている。
さて、リナ。お前の言葉は的外れだと、分かったよな?
だったらよお。俺に対して言うことがあるよな?
「……エリックさん……」
「はい。なにかな?」
「勘違いして、すみませんでした」
ヤツは深々と頭を下げ、それが終わると――今度は、レルナ殿に対して頭を下げる。
は? はっ?
謝罪は、これだけ? あんなに喚いておいて、これだけなのか!?
「皆様が仰られているように、私は嫉妬してしまう人間だったようです……。レルナ様にもご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。心から反省しています……」
しかもコイツっ。部外者に対する謝罪の方が多いじゃないか!!
ふざけて、やがる……!! ぶどう畑が手に入ったら、絶対にだ。たっぷりいたぶってから殺してやるからな……!!
「エリックさん。お詫びに、何か食べものを持ってきますね」
そんなことを考えても、そんなことをされても、込み上げた怒りは治まらない。それどころか、時間に比例して苛立ちは増えるばかり。
この日のパーティーはコイツのせいで滅茶苦茶になり、帰宅後も――日が変わっても、その怒りはくすぶり続けたのだった。部屋で長々と罵っても、ペアネックレスのケースを壁に叩きつけて壊しても、微塵も収まりはしなかったのだった。
別室に移動後。俺は怒鳴りたい衝動を懸命に抑え、にこやかに口元を緩めた。
「そりゃあこれまでに、他の人に恋をした経験はあるよ? けれど、婚約を申し込んでから――お付き合いを申し込んでからは、一度もないんだ」
「………………」
「こうしてしっかりと愛の証を身につけているように、この心にはもう他者が入り込む余地がない。意識する事さえも、有り得ないんだよ」
「………………そう、なんですか……。でしたら、あの目線はなんだったのですか?」
こっちはちゃんと感情を抑えてやってるのに、この女はそのまま。ふくれっ面が維持されていて、またジト目がやってきた。
「あの時のエリックさん、私に告白をしてくれた時とおんなじ目でした。あの時とおんなじ気持ちにならないと、ああはなりませんよね?」
「あ、あのね? 何度も言ってるよね? 全部勘違いで――」
「一生忘れないものを、見間違えはしません。自信があります」
「り、リナ? 一度冷静になって、落ち着いて――」
「私はずっと、落ち着いていますよ。確かに、この目で見ました」
っっ。
…………折角ひとが穏やかに接してやったのに、厚意を無駄にしやがるのか……。
あーそーかそーか。お前は生意気にも、そういうことをするんだな? よーく分かったぞ!
((もう面倒くさい。下手に出てヘコへコするのは辞めだ!))
多少の不自然なんて知ったことかっ! 一番分かりやすい方法でこの件を終わらせてやる! お前に頭を下げさせてやる!!
「いいですか、エリックさん。私は――」
「こんなやり取り、不毛だ。ついてきてくれ」
バカ女の腕をワザと強く引っ張り、二人揃って会場に戻る。そして俺達はその足でレルナ殿のもとに行き、周囲の意識を引きつつ頭を下げた。
「申し訳ありません、レルナ殿。自分は無意識のうちに、ご迷惑をおかけしていたのかもしれません」
「え……? ご迷惑、ですか?」
「前々回初めてご挨拶を行った時からリナは、俺が貴方に好意を抱いていると勘違いしていたようなんですよ」
ここは故意に、大きく発音する。
「勿論俺にそんな感情はないのですが、もしかすると貴方もそう感じられていたのかもしれない。そう考え、念のためお詫びに参りました」
「まあ、そうだったのですか。お二人のお姿が見えなくなっていたのは、そういう理由だったのですね」
レルナ殿は得心して胸の前でぽんと手を合わせ、首を左右に振る。
「あたしは一度も、そのように感じてはいませんでしたよ。安心してください」
「そ、そうでしたか。先程別室で事情を知って以来、ずっと不安でしたが……。胸のつっかえが取れましたよ」
後頭部を掻きながら「はははははっ」と笑い、聴覚を意識してみる。これを見て聞いていた、周りの反応は……。
『ミオファ殿も、大変でしたなぁ。サーハル殿は意外と、嫉妬心があるようですな』
『追いかけて、説得して、謝って。あとで、お疲れ様と伝えにいきましょうか』
なかには『青春だ』とほざいているバカもいるが、大半が俺を持ち上げている。
さて、リナ。お前の言葉は的外れだと、分かったよな?
だったらよお。俺に対して言うことがあるよな?
「……エリックさん……」
「はい。なにかな?」
「勘違いして、すみませんでした」
ヤツは深々と頭を下げ、それが終わると――今度は、レルナ殿に対して頭を下げる。
は? はっ?
謝罪は、これだけ? あんなに喚いておいて、これだけなのか!?
「皆様が仰られているように、私は嫉妬してしまう人間だったようです……。レルナ様にもご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。心から反省しています……」
しかもコイツっ。部外者に対する謝罪の方が多いじゃないか!!
ふざけて、やがる……!! ぶどう畑が手に入ったら、絶対にだ。たっぷりいたぶってから殺してやるからな……!!
「エリックさん。お詫びに、何か食べものを持ってきますね」
そんなことを考えても、そんなことをされても、込み上げた怒りは治まらない。それどころか、時間に比例して苛立ちは増えるばかり。
この日のパーティーはコイツのせいで滅茶苦茶になり、帰宅後も――日が変わっても、その怒りはくすぶり続けたのだった。部屋で長々と罵っても、ペアネックレスのケースを壁に叩きつけて壊しても、微塵も収まりはしなかったのだった。
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