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番外編
その1 太っちょレオが変わった日(4)
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「「………………」」
偶然にその場にいたアルクとサイズは、たまらず言葉を失っていました。
なぜなら父親のもとに戻ってきたレオは、まるで別人のよう。いつも涙ばかりだった瞳には強い決意が宿っていて、更には『お父様、お願いがあります。僕にもっともっと、勉強をする時間と体を鍛える時間をください』と言い出したのです。
「お父様も仰ってましたけど、違う理由でリナちゃんが危なくなる時があるかもしれません。お父様が間に入れない時があるかもしれないし、もっともっと危険なことがあるかもしれません」
「…………うむ。そうだな」
「もしもそうなったら、守りたい。今度こそちゃんと、僕が守りたいんです」
夢の中みたいに――。夢の中よりも、もっと、ちゃんと――。レオは心で呟いて、自分の胸に右手を添えました。
「今の僕には、足りないものが沢山あるから……っ。何かが起きる前に、力をつけないといけません……っ」
相手が権力を使ってきても、倒せるように。
相手が力を使ってきても、倒せるように。
どっちも身につけないといけない。
「お父様っ。僕は、強くなりたい! 大好きな人の心も体も守れるように、強くなるんです……っっ!!」
今まで一度も出したことのない声量で、力強さで。父親に意思を伝え、頭を深く下げました。
「いっぱいご迷惑をおかけする事になりますけど、お父様や家に苦労をかけた分は強くなったあとでちゃんと取り返しますっ。働きますからっ! お父様っ、お願いします! 僕に修行をさせてくださいっ!!」
「……………………。いいだろう。お前の気が済むまで、好きなようにするといい」
静かにレオの想いを受け止めていたマティスは、ゆっくりと首肯。小さな笑みを浮かべつつ許可を出しました。
「真っすぐで清い、良い目だ。自室でなにかあったようだな」
「はい。大好きな人のおかげで、気が付けたんです。自分がやるべきことを、見つけられたんです」
「ふふっ、そうかそうか。ならば殊更、折れる理由はないな」
彼は今一度口元を緩め、「ところでレオよ」と続けました。
「室内用の服に、着替えているな? リナ・サーハルのもとに行くのではなかったのか?」
「お礼とお詫びは他の人にお願いをして、僕は修行に集中します。少しでも早く目標に辿り着きたいので、今日から他のことは全て控えるつもりです」
あの夢のように、なりたくはないから。あんなことは、いつ起こるか分からないから。
才能が全くないと自覚するレオは、そこだけを見つめることに決めていました。
「ふむ、そうか。……レオよ。これは、父親としての言葉なのだがな」
「? はい。なんですか?」
「想い人との繋がりまで、除外してもよいのか? 客観的に見ると、レオが『得る』には多くの時が要るだろう。力をつけてから動き出したのでは、お前が入り込むスペースはないやもしれんぞ?」
会いに行った時には、彼女に相手がいるかもしれない。だから、関係だけは維持してはどうか? 息抜きとして定期的に会ってみてはどうか?
言葉通りマティスは、父親として提案をしました。
「何事も、息抜きは必要だ。そうした方がよいと思うぞ?」
「お父様、心配してくださりありがとうございます。だけど、それはしません。もしそうなった時は、僕は諦めます」
レオは、即答。すぐに首を左右に振り、右を――サーハル邸がある方角を見つめます。
「そうなったら残念な気持ちはありますけど、僕はリナちゃんが大好きですから。大好きな人が幸せでいられるなら、それでいいんです」
「………………成程。そうか」
「はい。その時は心からお祝いをして、影から見守ります」
レオは一切の濁りがない瞳と声調で応え、全身を右方向へと向けてお辞儀を一つ。この場でリナにお礼とお詫びを伝え、マティスへと向き直りました。
「お父様、僕は部屋に戻ります。今日の分の勉強が終わったら剣術の修行をしたいので、あとで剣をお借りしますね!」
そうしてレオは動き出し、その日から猛勉強猛特訓。一切妥協せず目標へと走り続け、やがて修行の舞台は国外へ。
各地を回って、時に知識を吸収して、時に自分流に昇華させて――。それから10年後。レオは次期当主として再び祖国の地を踏む事になり、その後愛する人のために暗躍する事となるのでした。
とても弱くて泣き虫だった、太っちょレオ。
彼はこうして、若き獅子となったのでした――。
偶然にその場にいたアルクとサイズは、たまらず言葉を失っていました。
なぜなら父親のもとに戻ってきたレオは、まるで別人のよう。いつも涙ばかりだった瞳には強い決意が宿っていて、更には『お父様、お願いがあります。僕にもっともっと、勉強をする時間と体を鍛える時間をください』と言い出したのです。
「お父様も仰ってましたけど、違う理由でリナちゃんが危なくなる時があるかもしれません。お父様が間に入れない時があるかもしれないし、もっともっと危険なことがあるかもしれません」
「…………うむ。そうだな」
「もしもそうなったら、守りたい。今度こそちゃんと、僕が守りたいんです」
夢の中みたいに――。夢の中よりも、もっと、ちゃんと――。レオは心で呟いて、自分の胸に右手を添えました。
「今の僕には、足りないものが沢山あるから……っ。何かが起きる前に、力をつけないといけません……っ」
相手が権力を使ってきても、倒せるように。
相手が力を使ってきても、倒せるように。
どっちも身につけないといけない。
「お父様っ。僕は、強くなりたい! 大好きな人の心も体も守れるように、強くなるんです……っっ!!」
今まで一度も出したことのない声量で、力強さで。父親に意思を伝え、頭を深く下げました。
「いっぱいご迷惑をおかけする事になりますけど、お父様や家に苦労をかけた分は強くなったあとでちゃんと取り返しますっ。働きますからっ! お父様っ、お願いします! 僕に修行をさせてくださいっ!!」
「……………………。いいだろう。お前の気が済むまで、好きなようにするといい」
静かにレオの想いを受け止めていたマティスは、ゆっくりと首肯。小さな笑みを浮かべつつ許可を出しました。
「真っすぐで清い、良い目だ。自室でなにかあったようだな」
「はい。大好きな人のおかげで、気が付けたんです。自分がやるべきことを、見つけられたんです」
「ふふっ、そうかそうか。ならば殊更、折れる理由はないな」
彼は今一度口元を緩め、「ところでレオよ」と続けました。
「室内用の服に、着替えているな? リナ・サーハルのもとに行くのではなかったのか?」
「お礼とお詫びは他の人にお願いをして、僕は修行に集中します。少しでも早く目標に辿り着きたいので、今日から他のことは全て控えるつもりです」
あの夢のように、なりたくはないから。あんなことは、いつ起こるか分からないから。
才能が全くないと自覚するレオは、そこだけを見つめることに決めていました。
「ふむ、そうか。……レオよ。これは、父親としての言葉なのだがな」
「? はい。なんですか?」
「想い人との繋がりまで、除外してもよいのか? 客観的に見ると、レオが『得る』には多くの時が要るだろう。力をつけてから動き出したのでは、お前が入り込むスペースはないやもしれんぞ?」
会いに行った時には、彼女に相手がいるかもしれない。だから、関係だけは維持してはどうか? 息抜きとして定期的に会ってみてはどうか?
言葉通りマティスは、父親として提案をしました。
「何事も、息抜きは必要だ。そうした方がよいと思うぞ?」
「お父様、心配してくださりありがとうございます。だけど、それはしません。もしそうなった時は、僕は諦めます」
レオは、即答。すぐに首を左右に振り、右を――サーハル邸がある方角を見つめます。
「そうなったら残念な気持ちはありますけど、僕はリナちゃんが大好きですから。大好きな人が幸せでいられるなら、それでいいんです」
「………………成程。そうか」
「はい。その時は心からお祝いをして、影から見守ります」
レオは一切の濁りがない瞳と声調で応え、全身を右方向へと向けてお辞儀を一つ。この場でリナにお礼とお詫びを伝え、マティスへと向き直りました。
「お父様、僕は部屋に戻ります。今日の分の勉強が終わったら剣術の修行をしたいので、あとで剣をお借りしますね!」
そうしてレオは動き出し、その日から猛勉強猛特訓。一切妥協せず目標へと走り続け、やがて修行の舞台は国外へ。
各地を回って、時に知識を吸収して、時に自分流に昇華させて――。それから10年後。レオは次期当主として再び祖国の地を踏む事になり、その後愛する人のために暗躍する事となるのでした。
とても弱くて泣き虫だった、太っちょレオ。
彼はこうして、若き獅子となったのでした――。
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