貴方は人を愛せなくなっていたはずですよね?

柚木ゆず

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幕間 俺とファニー ジョルロア視点

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 忘れもしない、7月12日。まだ14歳だった頃、俺は天使に逢った。

 ――その天使の名前は、ファニー――。

 その日彼女は見習いとして給仕の仕事を学んでいて、その可愛らしさと、一生懸命学ぼうとしている姿に心を奪われた。
 人生で初めて、一目惚れをしてしまったのだった。

((彼女と、仲良くなりたい。もっと知りたい……!))

 俺は貴族、しかも次期当主であり次期会頭となる存在で、給仕なんかをしている女を相手にしてはいけない立場にあった。
 けど、そんなこと関係ない。
 俺はその気持ちを抑えきれず声をかけ、そうして俺達の物語は始まり――。早々に、勢いは加速する。

「え!? 君も気になっていた!?」
「は、はい……。とても素敵な方だな、と思って……。目を、奪われていました」

 なんとファニーも俺に一目惚れをしていて、同じ想いを抱いてくれていた。
 ――運命だ――。
 あの時、そう確信したね。
 だってお互い一目惚れだし、ビックリするぐらい気が合うし、趣味や好みも同じだったんだ。ここまで共通項が多い人間は滅多に――いいやまずいなくて、俺達は出逢うべくして出逢ったのだと確信した。
 だから当然『交際したい』『結婚したい』という想いがむくむくと膨れ上がっていき、でも、それは無理だった。

 ――俺は子爵家の嫡男で、彼女は給仕――。

 一応零落した名家の血を引いていて、血統はそれなり。ただ父上が許す相手ではなく、その願いが叶うはずはなかった。

 だが、だ!

 俺達は、運命の関係なんだ。そんなことくらいで諦められるはずがなかった。
 今後も――成人したあとも。生涯ずっと。彼女と関係を持っていたかった。夫婦になりたかった。
 なので夢を叶えるために、必死になって考え続け――そんな時に、追い風となる出来事が起きる。

「お、おじい様が……!?」

 祖父の死。
 俺は昔からよく可愛がってくれるあの人が大好きで、それを知っている父上や母上達が心底心配そうに慰めてくれた。
 ……あの作戦を思い付いたのは、ソレが切っ掛けだった。


 ――そうだ!! ショックで感情を失ったことにしよう――。


 悲しいかな、嫡男である以上政略結婚は防げない。どう足掻いても、どこかしらの女と結婚しなければならない。
 けれど。
 人を好きになれなくなっているのであれば接触は最低限で済ませられるし、相手を好きになる努力を懸命にして疲弊したフリをしておけばひとりの時間を増やせる。
 そうやってできた時間を使えば、頻繁にファニーと会うことができる。夫婦のような日々を過ごすことだって、可能だった!

「ファニー、どんな時も俺の心は君だけを見つめている。普通の形ではないけれど、一緒に歩いていってくれるかい?」
「もちろんでございます……!! うれしい……!! 夢のようです……!!」

 父上や母上に悟られないよう色々と準備を行い、全てが完了した19歳の頃。俺達はふたりだけの結婚式を行い、


 真の夫婦となったのだった。
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