わたしとの約束を守るために留学をしていた幼馴染が、知らない女性を連れて戻ってきました

柚木ゆず

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プロローグ リュクレース・ハルトーン視点(2)

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「……門が開いたということは、門番が通したということだ。ロマン、お前が何かを忘れているだけじゃないのか?」
「ボクも同意です。父上、抜けているだけなのでは?」
「ちっ、違うっ、そんなはずはない! そんな話は聞いていないぞっ。それにだっ、よく見てみろっ! あの馬車はどちらも、明らかに隣国の貴族のもの――それも我々より格上の家の所有物だろう! そんな大きな来訪を忘れるはずはないだろう!」

 おじ様の仰る通りで、そのようなことを忘れるはずはありません。
 ということは、やはりおじ様はご存じない。あの2台の馬車は、なんなのでしょう……?

「…………サロモン、リュクレースくん、セブラン。と、とりあえず、近づいてみるか」
「そ、そうだな」
「そ、そうですね」
「え、ええ」

 敷地内に入れているのは、危険がない証となります。わたし達は戸惑いながらも停車した馬車に近づき――…………。そうするとわたし達はみたび、大きな大きな精神的な衝撃に襲われることとなるのでした。

「お、おおラウル、よく戻ったな。ところで、その2台の馬車いったい――らっ、ラウル……っ!?」
「「「……そちらの女性は、いったい……!?」」

 17歳という実際の年齢より少し幼く見える、眼鏡をかけた小柄な人――ラウル。そんな彼がエスコートしつつ降りてきたのは、ラグジュアリーな雰囲気を纏ったストロベリーブロンドの美女。
 こちらの方を目にするのは、わたしは――お父様もおじ様もセブランくんも、初めてです。どちら様なのでしょうか……?

「父上、ただいま戻りました。……こちらの方は、マリレーヌ・コダヴァルア様。隣国ハフテール所属の、コダヴァルア侯爵家のご令嬢だよ」
「や、やはり格上のお家だったか……。そ、それは分かった。分かったのだが、分からないことがまだいくつもある。なぜ、このようなお方がこの場にいらっしゃるのだ? なぜお前が一緒の馬車に乗っていて、なぜエスコートしているのだ……!?」

 本来でしたら真っ先にコダヴァルア様にご挨拶を行わないといけないのですが、おじ様には――わたし達にも、そんな風に動ける余裕はありません。
 ロマンおじ様は声を震わせながら、この場にいる全員が抱いている疑問を口にしました。

「どうなっているのだ……!? ラウルっ、教えてくれ……!!」
「もちろん、ちゃんと教える。けどひとつひとつ順番に答えていたら長くなるから、単刀直入に言わせてもらうよ」

 おじ様やわたし達とは正反対で、落ち着き払っているラウル。彼は同様の調子で口を動かし、誇らしげに感じる笑みを浮かべながらコダヴァルア様を一瞥し――

「突然だけど、リュクレースと結んでいる婚約は今日を以て解消することにした。こちらにいらっしゃるマリレーヌ様が、俺の新たな婚約者だよ」

 ――………………。
 信じられないことを、口にしたのでした。

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