わたしとの約束を守るために留学をしていた幼馴染が、知らない女性を連れて戻ってきました

柚木ゆず

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第10話 幼馴染2人のその後~リュクレースの場合・その3~ リュクレース視点(3)

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「き――ごほん、失礼。貴方様は……?」
「レイオズン伯爵家の嫡男、フィリベールと申します。わたくしは現在、彼女と連弾の――ピアノに関するパートナーになっておりまして、たまたま皆様のやり取りを耳に致しました」

 流麗にお辞儀を行った、フィリベール様。そんなフィリベール様は、右の人差し指と中指を立てました。

「リュクレース様は呪ってなどいない。そちらはわたくしが、2つの説明により証明することができますよ」
「しょ、証明できる……!? ど、どういったご説明……なのでしょうか……?」

 そちらは、わたしにも分かりません。
 フィリベール様は、どうされるのでしょうか……?

「まずひとつめ。その手の――所謂『常駐型』の呪いというものは、一度かけたらお仕舞、ではないんです。対象にその効果を及ぼし続けるには、『触媒』を所持し続け、毎日1回自身の新鮮な血液をソレに垂らし続けないといけないのですよ」
「「……しょ、しょくばい……?」」
「対象者の毛髪、爪、歯、いずれかの身体の一部に、6種類の草と6種類の土と黒ミミズなど6種類の生物の粉末をしっかりと纏わせる。そちらを、特殊な血液――実行者の血液13ミリリットルと黒ヤモリ13匹分の生き血を混ぜた液体を使って魔法陣を描いた真白の紙に、載せて包んだもの。それが触媒。呪いの中心、『もと』となるものですよ」
「「……………………」」
「少しだけお話を戻しますと――呪い続けるには身体のどこかしらを切らねばならず、すでに何十回も切っていることになる。傷の有無を調べたら瞭然ですよ」
「「……………………」」
「ちなみになのですが――。そもそも魔法陣作成に必要な黒ヤモリはなぜか・・・乱獲が起きて約210年前に全世界で絶滅しており、現在黒ヤモリの生き血を確保することは不可能となっております。絶滅についてはご存じですよね?」
「「……………………え、ええ……」」

 そちらは誰もが知っている、とても有名なお話です。

「つまり簡単に潔白を証明できる上に、スタートの時点で躓いているのですよ。その呪いは――すべての呪いは何かしらの形で13匹分の黒ヤモリの生き血を使用するため、現代では『あらゆる呪い』が実行できないようになっているのですよ」
「……………………そ、それは……。その材料は、間違っているという可能性が――」
「定期的に起きていた各国の王族や要人の不自然な病死や不調は、なぜか・・・210年前にピタリとなくなりました。そちらも御存じですよね?」
「「……え、ええ……」」

 同じくそれも、とても有名なお話です。

「あれこれ模索するも黒ヤモリに変わる材料は見つからず、呪いは黒ヤモリの絶滅と共にその姿を消したのですよ。だからこそ我々は――貴族どころか平民までもが、呪いというものを知っているんですよ」
「「?? それは、どういう……?」」
「今も実在するのなら――代用方法が存在して自由に使えるのなら、そんな『便利』であり『自らにも害が及びかねない危険なもの』をみすみす他人に教えるわけがない。彼らは――呪いの使用者たちは、危険性がないから公にしたのですよ」

 どうやっても再現できない、安全なもの。安全だから斬新な設定として創作物に登場させるようになり、それによって浸透した。
 そう、補足してくださりました。

「貴方がたも貴族なのですから、よくご理解できるでしょう。本当に重要なものは、決して表には出てこないのですよ」
「「………………たし、かに……」」
「貴方がたが『不調』=『呪い』となったのも、そういった創作物によるものですね。ちなみに申し上げた情報は全て、とある事情により二か国分北に離れた国ブドゥラールにて入手した古い日記――本物の呪術使いが遺した日記にて把握しました。こちらは現在も屋敷に保管してありますので、証拠としてお見せ致しましょう。そちらには今し方申し上げたもの以外にも沢山の『秘密』が記されており、より信じていただけると思いますよ」
「「……………………」」
「とはいえ。こちらは、『呪いに詳しい』という点を理解していただくなど・・の目的でお伝えしたもの。本命は『その2』となっておりまして、こちらはその1とは違い、この場ですぐに濡れ衣だと理解していただけるものとなっておりますよ」

 おもわず唖然となっている、おじ様とセブランくん。そんなふたりへと向けて、立てていた指の片方、中指をゆっくりと折って――

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