わたしとの約束を守るために留学をしていた幼馴染が、知らない女性を連れて戻ってきました

柚木ゆず

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第22話 幼馴染2人のその後~リュクレースの場合・その6~ リュクレース視点(5)

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「相手は、最近のリュクレースの活動が気に食わないようだ。この様子なら、恐らくフィリベール殿のもとにも届いているのだろうな」
「でも、大丈夫よ。この手の嫉妬は有名人には付き物、いわゆる有名税のようなもの。よくあることで、実際に何か起きた例はないわ」
「……そうですね。わたしもよく存じ上げております」

 マリィ先生は十代の頃から国内外で活躍されていて、特に若い頃はこの手のことが日常茶飯事。先生の古いお弟子さん――第一線で活躍中のピアニストわたし達の大先輩とお会いする機会があった時も、ちらっとそのお話が出ていました。
 ピアニストの世界では――それ以外の世界でも、本当によくあることなのです。

「それにだ。我々はフィリーベル殿のおかげで、この世に呪いは存在しないと知っている。念には念をで更に周囲を警戒されるようにするし、心配はいらんよ」
「この人が『万が一』と言ったけれど、それは言葉の綾のようなものね。何かが起きてしまう可能性は0・00001パーセントもないから、安心して頂戴ね」
「はい、お父様お母様。こちらの手紙は記憶から消し、これまで通り過ごしてゆきます」

 こういったことは今後も続くでしょうし、いちいち気にしていたら何もできなくなってしまいます。
 わたしはお二人に微笑みと頷きを返し、外出で掻いてしまった汗を流すために――

「…………あれ?」

 ――湯浴みを行おうと、考えていた時でした。
 不意に、大きな違和感が生まれたのでした。

「んむ?」
「リュクレース、どうしたの?」
「………………この手紙に……。なにかを、感じます……」

 その正体がなんなのか、分かりません。
 分からない、のですが……。

「…………先生たちが仰られていたような、単なる脅迫状、ではない……。そんな気がするんです」

 この手紙には、何かがある。
 そんな確証が、突然生まれたのです。

「なんだって……!? 気のせいではないのか……?」
「…………いえ、こちらは気のせいではありません。そう感じる理由も、そう判断できる理由も分からないのですが……。何かしらがあるのだと、分かるのです」

 そして。それは……。

「この奇妙な違和感の正体は、よく知っている身近――かつ、ピアノが関係しているような気もするのです。…………『気』ではなく、確実に関係しているのだと思います」
「…………ふむ。公演の関係者やスタッフ……は身近ではないから……よく顔を合わせていた同業者…………同門の誰かが、この手紙の送り主で……。犯人が身近に居る――手の届く範囲にいるのならば、いずれソレ以外の何かも起きてしまうやもしれんな」
「そう、ですね。……身近かつピアノが関わっているということは、フィリベール様に伺えば何かしらのヒントを得られるかもしません」

 わたし達は1月の終盤からずっと、ピアノが関わる時は一緒に行動をしています。そうである可能性は、非常に高いと思います。

「ですので明日、レイオズン伯爵邸を訪ねてみます」

 フィリベール様にもフィリベールの父テオドール様にも、アポイントメントなしの訪問の許可をいただいております。
 この件はフィリベール様にとっても大事なものになりますので、わたしはその後夜明けと共にお屋敷を発ち、フィリベール様のもとを目指したのでした。

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