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第29話 幼馴染2人のその後~リュクレースの場合・その8~ リュクレース視点(5)
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「……フィリベール、さま……?」
「リュクレース様、お忘れですか? 貴方はこれから『独奏』ではなく、『連弾』を行うのですよ?」
あのように仰られたフィリベール様は――。わたしの正面から、左横へと立ち位置を変えられました。
「ピアノの前に居るのは――ステージの上に立っているのは、ひとりではなく二人。観客の皆様や審査員の皆様の視線や関心は、僕にも向けられているのですよ」
「……………………」
「自分だけはなく、他にも注目がいっている。それって、とてもよく似ていますよね。舞踏で行うダンスに」
「……。ぁっ」
たしかに。
にて、います。
「実はずっと前から、ダンスとそっくりな状況で出演していたのですよ。しかしながら『ペア』=『自分』と思い込まれていたため、緊張が生まれていたのですよね」
「……………………」
「でも今回、真実に気が付きました。……連弾は、ちょっとだけ人数が少ないダンス。ダンスを当たり前に踊れていたのであれば、こちらも当たり前にできるとは思いませんか?」
「……………………おもい、ます、ね」
だって、言及されているように『同じ』なのですから。そうなります。
「それに。僕が『大丈夫』と胸を張って言えるポイントは、もう一点あるんですよ」
「そ、そうなのですか……? そちらは一体……?」
「これから僕達が行うのは、連弾。ひとりではなく、ふたりで曲を作るものだからです」
わたしと、ご自身。フィリーベル様はゆっくりと視線を移動させ、右手の指を2本立てました。
「僕達はお互いとても調子がよかったので、その機会がなかったのですが――。パートナーというのは、『引き立て合う』存在だけではありません。『支え合う』存在でもあるのですよ」
「…………ささえ、あう…………」
「今一つ曲に入り込めていなかったら、入り込めるように音で盛り上げる。ミスをしてしまったら、自分の演奏でカバーをする――帳消しにする。そういうことですね」
「………………」
「僕は貴方より1年早く師事していて、場数も多く踏んでいます。まったく緊張もしません。そちらはご存じですよね?」
「は、はい」
後者は最近、前者は6年前から、知っています。
「技術的な面でも精神的な面でも、僕は貴方を支えることができます。ですので、万が一何かしらがあったとしても、大変なことには――台無しになんてなりませんよ。すぐ隣にいるこの男が、上手く軌道を修正してみせますから」
「……フィリベール様……」
「だから、心配はいりません。どうぞご安心を」
フィリベール様はご自身の胸元に左手を添えて、流麗に一礼。まるで物語に登場する騎士様のように振る舞われ、すぅっと右手を差し出されました。
「この先にある舞台に登り、降りた時、貴方の顔は達成感で満ちていることでしょう」
「……………………」
「これまでのような――これまで以上に、楽しい時間をお約束します。さあ参りましょう、僕達のステージへ」
………………。
わたしの心の中は、恐怖や緊張で満ち満ちていました。
もう、駄目だと思っていました。
でも。
それは、大間違いでした。
フィリベール様。その表情と、お声。
それらによって、消えるはずがないと思っていたものは、全部消えてしまって――
「はいっ!」
――わたしは震えていない手を、その手に重ねたのでした。
「リュクレース様、お忘れですか? 貴方はこれから『独奏』ではなく、『連弾』を行うのですよ?」
あのように仰られたフィリベール様は――。わたしの正面から、左横へと立ち位置を変えられました。
「ピアノの前に居るのは――ステージの上に立っているのは、ひとりではなく二人。観客の皆様や審査員の皆様の視線や関心は、僕にも向けられているのですよ」
「……………………」
「自分だけはなく、他にも注目がいっている。それって、とてもよく似ていますよね。舞踏で行うダンスに」
「……。ぁっ」
たしかに。
にて、います。
「実はずっと前から、ダンスとそっくりな状況で出演していたのですよ。しかしながら『ペア』=『自分』と思い込まれていたため、緊張が生まれていたのですよね」
「……………………」
「でも今回、真実に気が付きました。……連弾は、ちょっとだけ人数が少ないダンス。ダンスを当たり前に踊れていたのであれば、こちらも当たり前にできるとは思いませんか?」
「……………………おもい、ます、ね」
だって、言及されているように『同じ』なのですから。そうなります。
「それに。僕が『大丈夫』と胸を張って言えるポイントは、もう一点あるんですよ」
「そ、そうなのですか……? そちらは一体……?」
「これから僕達が行うのは、連弾。ひとりではなく、ふたりで曲を作るものだからです」
わたしと、ご自身。フィリーベル様はゆっくりと視線を移動させ、右手の指を2本立てました。
「僕達はお互いとても調子がよかったので、その機会がなかったのですが――。パートナーというのは、『引き立て合う』存在だけではありません。『支え合う』存在でもあるのですよ」
「…………ささえ、あう…………」
「今一つ曲に入り込めていなかったら、入り込めるように音で盛り上げる。ミスをしてしまったら、自分の演奏でカバーをする――帳消しにする。そういうことですね」
「………………」
「僕は貴方より1年早く師事していて、場数も多く踏んでいます。まったく緊張もしません。そちらはご存じですよね?」
「は、はい」
後者は最近、前者は6年前から、知っています。
「技術的な面でも精神的な面でも、僕は貴方を支えることができます。ですので、万が一何かしらがあったとしても、大変なことには――台無しになんてなりませんよ。すぐ隣にいるこの男が、上手く軌道を修正してみせますから」
「……フィリベール様……」
「だから、心配はいりません。どうぞご安心を」
フィリベール様はご自身の胸元に左手を添えて、流麗に一礼。まるで物語に登場する騎士様のように振る舞われ、すぅっと右手を差し出されました。
「この先にある舞台に登り、降りた時、貴方の顔は達成感で満ちていることでしょう」
「……………………」
「これまでのような――これまで以上に、楽しい時間をお約束します。さあ参りましょう、僕達のステージへ」
………………。
わたしの心の中は、恐怖や緊張で満ち満ちていました。
もう、駄目だと思っていました。
でも。
それは、大間違いでした。
フィリベール様。その表情と、お声。
それらによって、消えるはずがないと思っていたものは、全部消えてしまって――
「はいっ!」
――わたしは震えていない手を、その手に重ねたのでした。
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