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プロローグ カサンドラ・ナズロールス視点
「カサンドラ、信じられないことが起きた。レトーザ伯爵家の嫡男であらせられるロドルフ様が、お前と婚約を交わしたいと仰られているのだ!」
「レトーザ様が!? な、なぜそのようなことを……!?」
それは、今から8か月前の出来事でした。ご招待をいただいていたお茶会から戻ると、お父様が仰られているように信じられないことが起きていたのです。
――ウチは財力もコネクションも平凡な子爵家で、この婚約はレトーザ伯爵家にまったくメリットがない――。
――レトーザ様とはご挨拶くらいしか接点がなく、まるでご縁がなかった――。
突然わたしを希望される理由が分からず、わたしの頭はこんがらがってしまいました。
「詳細は、カサンドラが戻ってきたら話すと仰っている。……ロドルフ様は、応接室でお待ちだ」
「しょ、承知いたしました」
格上の方がお待ちなのですから、心を整えている暇もありませんでした。わたしは狼狽を抱えたままその足で応接室へと移動し――。
レトーザ様から、信じられないことを告げられたのでした。
「俺はね、前世で果たせなかった約束を守るために――君と結婚をするために、生まれ変わったんだ」
こことよく似た、しかしながら異なる世界にある国『ラズトートル』。そこでかつてレトーザ様は伯爵令息ルズサンド・ドーラトル、わたしは伯爵令嬢シーナ・ザノファーという名前で人生を歩んでおり、ルズサンド様とシーナは婚約を結んでいたそうです。
ふたりは元々幼馴染なこともあって、相思相愛。結婚できる日を楽しみにしていたそうです。
けれど挙式まで1週間となったタイミングで、ルズサンド様が事故に遭ってしまう。
『シーナ、ごめん、よ……。約束を、守れなくて……』
『ルズサンドっ! 謝らないでください! 貴方は何も悪くありませんっ!』
『あ、ありがとう……。あ、あの、ね……』
『はっ、はい! なん、ですかっ!』
『この人生では、もう、むり、だけど…………次の人生では、約束を、守りたい……。生まれ変われたら……。そのときは……。結婚、して、くれますか……?』
『もちろんです! しますっ! させてください!!』
『あり、が、とう……。ぜったい、に、生まれ、かわって……。きみを、むかえに、いく、よ…………』
突然決別することになってしまった2人は、そんな約束をしてお別れしたそうです。
「昨日足を踏み外して階段から転んでしまい、その拍子に頭を打って前世の記憶が蘇ったんだ。……思い出したら君がシーナなのだってすぐに気が付いて、居ても経ってもいられなくなった。大急ぎで父上を説得し、今ここに居るというわけなんだ」
「そ、そうなのですね……。前世……。恋人……」
あまりにも荒唐無稽で、すぐには信じられませんでした。
ですがレトーザ様は過去の出来事を細かい部分までスラスラと語れましたし、何より、いらっしゃる前にルーランド伯爵令嬢ミア様との婚約を破棄されていた。多額の慰謝料を支払ってまで。
嘘でここまでのデメリットを背負うことはありえなく、1日も経たないうちにわたしは主張を信じるようになりました。
「カサンドラ様――シーナ。今度こそ約束を果たさせて欲しい。君の記憶も蘇るように、できることはなんでもするからさ。前回歩けなかった道を、一緒に歩いてください」
「はい。喜んで」
前世で悲しい別れをしていたのなら、今度こそ共に幸せを刻みたい。そんな思いでわたし達は婚約を交わすことになり、ロドルフ様の強い希望で、最短で式を挙げられる8か月後に結婚をすることとなりました。
「シーナ、今日はお土産を持ってきたんだ。受け取ってくれると嬉しい」
「ありがとうございます。……えっ!? い、いただいてもよろしいのですか……!?」
「偶然そのネックレスを見つけて、目に入った瞬間君に似合うと思ったんだ。是非もらってほしい」
「あのねシーナ、むかしの俺達はよく一緒に庭で遊んでいたんだ。レーモン花の花輪、聞き覚えないかな?」
「…………あり、ません」
「ウチの庭にはそんな名前の花が咲いていて、よくふたりで花輪を作って送り合ってたんだよ。あっちでは大切な人に贈る、って習慣があったんだ」
「そう、なのですね」
「じゃあ、そうだね。こっちも出してみるか。リンダース・サンドルエ、レーゾット・ラロランはどうかな?」
「…………ピンとくるものは、ありません。そのお二人は、どういった関係の方なのでしょうか?」
「リンダース・サンドルエは、俺達のもう一人の幼馴染の伯爵令息なんだよ。真っすぐで誠実、すごくいいやつで君もいつも褒めてたんだ」
「幼馴染……。いつも、褒めていたんですね」
「会うたびに、絶賛していたよ。レーゾット・ラロランは、君の親友の伯爵令嬢だね。デビュタントで意気投合して、彼女を含め4人でお茶をしたこともあるんだよ」
「そう、だったのですね……。大事な人達のはずなのに、思い出せません……」
「仕方ないよ、気にしないで。君は何も悪くないよ」
「風邪をひいてしまったんだってね。身体に良い物を持ってきたよ」
「あ、ありがとうございます。うつしてしまいますので、今は――」
「そんなの気にしないよ。看病させて欲しい」
記憶を蘇らせようと一生懸命になってくださったり、色々な形で想ってくださったり。ロドルフ様と過ごす時間はとても楽しくて、記憶は蘇っていませんでしたが、結婚できる日を楽しみにするようになりました。
((早く、式の日になりますように))
そんなことを思いながら時間が進んでいて、ついに結婚式の翌日を迎えることとなりました。
この国では前夜は新婦側の住居に両家が集まってパーティーを開くようになっており、わたし達が暮らすお屋敷にレトーザ家の方々がいらっしゃったのですが――。わたしの顔は、曇っていました。
なぜならば――
「やあアンジェル、会えて嬉しいよ!」
「わたくしもでございますっ。ロドルフ様とわたくしのパーティーをはじめましょうっ」
――今夜の主役は、ロドルフ様と妹だから。
今から2週間前にロドルフ様の意向でわたしとの婚約は解消され、妹のアンジェルと新たに婚約が結ばれていたからなのです。
「レトーザ様が!? な、なぜそのようなことを……!?」
それは、今から8か月前の出来事でした。ご招待をいただいていたお茶会から戻ると、お父様が仰られているように信じられないことが起きていたのです。
――ウチは財力もコネクションも平凡な子爵家で、この婚約はレトーザ伯爵家にまったくメリットがない――。
――レトーザ様とはご挨拶くらいしか接点がなく、まるでご縁がなかった――。
突然わたしを希望される理由が分からず、わたしの頭はこんがらがってしまいました。
「詳細は、カサンドラが戻ってきたら話すと仰っている。……ロドルフ様は、応接室でお待ちだ」
「しょ、承知いたしました」
格上の方がお待ちなのですから、心を整えている暇もありませんでした。わたしは狼狽を抱えたままその足で応接室へと移動し――。
レトーザ様から、信じられないことを告げられたのでした。
「俺はね、前世で果たせなかった約束を守るために――君と結婚をするために、生まれ変わったんだ」
こことよく似た、しかしながら異なる世界にある国『ラズトートル』。そこでかつてレトーザ様は伯爵令息ルズサンド・ドーラトル、わたしは伯爵令嬢シーナ・ザノファーという名前で人生を歩んでおり、ルズサンド様とシーナは婚約を結んでいたそうです。
ふたりは元々幼馴染なこともあって、相思相愛。結婚できる日を楽しみにしていたそうです。
けれど挙式まで1週間となったタイミングで、ルズサンド様が事故に遭ってしまう。
『シーナ、ごめん、よ……。約束を、守れなくて……』
『ルズサンドっ! 謝らないでください! 貴方は何も悪くありませんっ!』
『あ、ありがとう……。あ、あの、ね……』
『はっ、はい! なん、ですかっ!』
『この人生では、もう、むり、だけど…………次の人生では、約束を、守りたい……。生まれ変われたら……。そのときは……。結婚、して、くれますか……?』
『もちろんです! しますっ! させてください!!』
『あり、が、とう……。ぜったい、に、生まれ、かわって……。きみを、むかえに、いく、よ…………』
突然決別することになってしまった2人は、そんな約束をしてお別れしたそうです。
「昨日足を踏み外して階段から転んでしまい、その拍子に頭を打って前世の記憶が蘇ったんだ。……思い出したら君がシーナなのだってすぐに気が付いて、居ても経ってもいられなくなった。大急ぎで父上を説得し、今ここに居るというわけなんだ」
「そ、そうなのですね……。前世……。恋人……」
あまりにも荒唐無稽で、すぐには信じられませんでした。
ですがレトーザ様は過去の出来事を細かい部分までスラスラと語れましたし、何より、いらっしゃる前にルーランド伯爵令嬢ミア様との婚約を破棄されていた。多額の慰謝料を支払ってまで。
嘘でここまでのデメリットを背負うことはありえなく、1日も経たないうちにわたしは主張を信じるようになりました。
「カサンドラ様――シーナ。今度こそ約束を果たさせて欲しい。君の記憶も蘇るように、できることはなんでもするからさ。前回歩けなかった道を、一緒に歩いてください」
「はい。喜んで」
前世で悲しい別れをしていたのなら、今度こそ共に幸せを刻みたい。そんな思いでわたし達は婚約を交わすことになり、ロドルフ様の強い希望で、最短で式を挙げられる8か月後に結婚をすることとなりました。
「シーナ、今日はお土産を持ってきたんだ。受け取ってくれると嬉しい」
「ありがとうございます。……えっ!? い、いただいてもよろしいのですか……!?」
「偶然そのネックレスを見つけて、目に入った瞬間君に似合うと思ったんだ。是非もらってほしい」
「あのねシーナ、むかしの俺達はよく一緒に庭で遊んでいたんだ。レーモン花の花輪、聞き覚えないかな?」
「…………あり、ません」
「ウチの庭にはそんな名前の花が咲いていて、よくふたりで花輪を作って送り合ってたんだよ。あっちでは大切な人に贈る、って習慣があったんだ」
「そう、なのですね」
「じゃあ、そうだね。こっちも出してみるか。リンダース・サンドルエ、レーゾット・ラロランはどうかな?」
「…………ピンとくるものは、ありません。そのお二人は、どういった関係の方なのでしょうか?」
「リンダース・サンドルエは、俺達のもう一人の幼馴染の伯爵令息なんだよ。真っすぐで誠実、すごくいいやつで君もいつも褒めてたんだ」
「幼馴染……。いつも、褒めていたんですね」
「会うたびに、絶賛していたよ。レーゾット・ラロランは、君の親友の伯爵令嬢だね。デビュタントで意気投合して、彼女を含め4人でお茶をしたこともあるんだよ」
「そう、だったのですね……。大事な人達のはずなのに、思い出せません……」
「仕方ないよ、気にしないで。君は何も悪くないよ」
「風邪をひいてしまったんだってね。身体に良い物を持ってきたよ」
「あ、ありがとうございます。うつしてしまいますので、今は――」
「そんなの気にしないよ。看病させて欲しい」
記憶を蘇らせようと一生懸命になってくださったり、色々な形で想ってくださったり。ロドルフ様と過ごす時間はとても楽しくて、記憶は蘇っていませんでしたが、結婚できる日を楽しみにするようになりました。
((早く、式の日になりますように))
そんなことを思いながら時間が進んでいて、ついに結婚式の翌日を迎えることとなりました。
この国では前夜は新婦側の住居に両家が集まってパーティーを開くようになっており、わたし達が暮らすお屋敷にレトーザ家の方々がいらっしゃったのですが――。わたしの顔は、曇っていました。
なぜならば――
「やあアンジェル、会えて嬉しいよ!」
「わたくしもでございますっ。ロドルフ様とわたくしのパーティーをはじめましょうっ」
――今夜の主役は、ロドルフ様と妹だから。
今から2週間前にロドルフ様の意向でわたしとの婚約は解消され、妹のアンジェルと新たに婚約が結ばれていたからなのです。
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