大切な人のためにできること

柚木ゆず

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第1話 1年半後 リシャール視点

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((…………はじめるか))

 あれから1年半後の、6月24日。戸籍上では俺とアリスが成人を迎える日の前日、その夜11時50分過ぎ。
 明日から明後日にかけて大忙し・・・・・・・・・・・・・・となるため父と母の両方が普段よりも早く眠りについたタイミングで、俺は静かに自室を出た。

((できれば知らないうちに終わらせたかったけど、仕方がないか))

 そこまで望んでしまうと、さすがに罰が当たってしまうだろう。今一度こうして今日という日を迎えられたことに感謝しながら進み、立ち止まって目の前にある扉を3回ノックした。

「俺だ。ちょっといいかな?」
『お兄様っ? はいっ、少々お待ちくださいっ』

 扉の向こう側から少し驚いた声が聞こえてきて、7秒後くらいかな。ゆっくりと扉が開き、毛先に癖のある金髪、タレ目の碧眼、高い鼻という、俺と同じ父上の面影がしっかりあって――でもよく見ると母の面影は感じられない、腹違いの妹アリスが出てきてくれた。

「お待たせしました。どうかしましたか?」
(大事な話があるんだ。中に入れて欲しい)
「っ!?」(わ、分かりました……。ど、どうぞ)

 表情と声量ですぐに、ただごとではないと察してくれた。おかげで俺は、速やかに室内に入ることができた。

(念のため、室内でもこの大きさで続ける。俺の声が、ちゃんと聞こえるね?)
(は、はい、聞こえます。お兄様、もしかして……大変なことが、起きているのですか……?)
(それは少し、違う。これから、大変なことが起きるんだよ)

 次の日の、6月25日の正午。この国では生誕日の正午に年齢が1つ増える扱いとなっていて、教会で開かれる儀式で――成人となったタイミングで、本格的に動き出してしまう。

(今は話すと色々と不安になってしまうだろうから、詳細は明かせない。今伝えられるのは、俺の指示に従ってくれたら何事もなく解決する、ということだけなんだ)
(……そう、なのですか……。……お兄様はわたしに、どのような指示を出されるんですか……?)
(深夜0時になったら用意しているロープを使ってこの窓から外に出て、正面にある塀の上で待っているリシャールの従者モリスに引っ張り上げてもらって敷地外に出る。その後は近くに停めてある馬車に乗り込み、俺が迎えに行くまで馬車で向かった先にある家で待っていて欲しい。それが指示、お願いだよ)

 できれば玄関と門を通って、穏やかに出たかった。しかしながら色々な事情があって、そうすることになった。

(いきなり不思議なことがいくつも出て、疑問だし不安もあると思う。でもコレらには他意も悪意もなくて、全てはアリスための行動なんだ。信じてほしい)
(はい、信じます。疑ってはいませんよ、微塵も)

 だってお兄様は、幼い頃からわたしの味方をしてくれていましたからね――。
 懐かしげに、そして嬉しげに両手を自身の胸元に添え、アリスは柔らかく微笑んだ。

「ありがとう。……もっと色々話したいけれど、あまり時間がない。準備を始めるね」

 母の就寝が予定よりも遅かったせいで、ここに来るのが遅くなってしまった。まもなく0時となるため大急ぎでロープを結び付けて用意を行い、

(必ず迎えに行く。あっちに居る人達は全員が俺の知り合いで話を通しているし、美味しいお菓子もたくさん用意してあるんだ。のんびり待っていて)
(はい、お兄様。よく分かりませんが、お気をつけて)
(うん、気を付けるよ。じゃあ一旦お別れで、また会おうね)

 細心の注意を払ってアリスを地面に降ろし、モリスのサポートで塀を超える姿を見届けた俺は、一息――つく暇もなく、すぐに次の行動へと移る。

((……そこまで堕ちていないと、思いたいが……。どう、だろうな……))
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