大切な人のためにできること

柚木ゆず

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エピローグその1 家族の絆 リシャール視点(2)

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「お父さんお母さん、お久しぶり。ミネットとリシャールさんにお会いするには、初めてよね? わたしはミアーネット、あなたのお母さんよ」

 柔らかく優しい春の日差しのような雰囲気を持つ、ほんわかとした美しい女性。そんな半透明な人が――ミアーネットさんの霊、魂が現れたのだった。

「殺されてからずっとわたしは、その場所で眠っていたの。真っ暗で冷たくて静かな場所で、ずっとひとりだった」
「「「「…………」」」」
「でもそんな時、ミネット、リシャールさん、お父さん、お母さんの声が、ぼんやりと聞こえてきたの。そしてその声は、どんとん大きくなっていて。冷たかった身体がだんだん温かくなって、だんだん明るくなってきて。気が付いたら、ここに居たの」

 そういうこと、でしたか。
 よかった。予想が当たって、本当によかった。

「ミネット、リシャールさん、お父さん、お母さん、ありがとう。わたし、昇れるみたい」

 ひとりひとりに丁寧にお辞儀をしてくださった、ミア―ネットさん。頭が上がるとふわりと移動をしてミネットの前に立ち、そっと抱き締めた。

「ずっと、こうしたかった。……大きくなったわね。もう話すことはできないと思っていたから……。とっても幸せ」
「わたしも、ですっ。お母様とお会いすることもっ、お話しすることもできないと思っていました! ぬくもりもっ、感じられないと思っていましたっ! 幸せです……!」

 ミネットも応じて親子の間で抱擁が交わされ、2人の頬を幸せの涙がつたう。
 その姿を見ていたら俺の瞳からも自然と涙が零れ、この場にいる全員が喜びの涙を流した。

「貴方と話したかったことは沢山あるし、もっと触れてもいたい。けれど、続けては居られないみたい」

 ミア―ネットさんの身体が、キラキラと輝き出した。
 これは……。魂が天に昇る合図なのだろう。

「でも、悲しみはないわ。だって『上』で待つことができて、いずれまた喋ることも触れることもできるんですもの。これからは空の上から、貴方の人生を見守ることができるんですもの。寂しくないし、寂しくないわよね?」
「はいっ! お母様とまた会えますし、見守っていただけるのですから! 寂しくありませんっ!」

 一緒に居られた時間は少ないけれど、親子の絆なのだろう。ミア―ネットさんはミネットの思いが分かるようで、ウィンクすると明るい頷きが返って来た。

「その時を、楽しみにしてるわ。……お父さん、お母さん、心配をかけてごめんなさい。今日は時間がないから、じっくり話すのはまた今度にしてね」
「うむ。どうせ近いうちにそっちに行くだろうしな。その時にしよう」
「そうしましょう。ちょっとだけお別れね、ミア―ネット」

 ローグ殿とミニアス殿とは握手を交わし、なんと俺のもとにもいらっしゃった。

「リシャールさん、貴方のおかげでこの子は助かったんですよね? ありがとうございます。この子を、そしてわたしを救ってくださり、感謝しております」
「こちらこそ――いえ、なんでもありません。ありがたく頂戴いたします」

 ここで母や父の謝罪をするのは違う。俺はそのお言葉を素直に受けとらせていただき、しっかりと握手を交わさせてもらった。

「リシャールさんとも、是非今度お話しをさせてくださいね」
「喜んで。楽しみにしております」
「……この子のお兄さんが貴方で、本当によかった。本当に、ありがとうございます」

 もう一度ぎゅっと、しかしながら柔らかく手を両手で握ってくださったミアーネットさんは、ミネットのもとへと戻った。

「ドタバタしちゃってごめんなさいね。そろそろ行くわ。一旦、バイバイ」
「はいっ! 一旦バイバイですっ! またお会いしましょうっ、お母様!!」
「うん、また会いましょうね。ふふ。終わりよければすべてよし、わたしの人生は大満足の人生でした」

 まぶしい。まるで、太陽のような笑顔。
 ミア―ネットさんは心からの笑みを浮かべながら透明になってゆき、幸せそうに消えたのだった――天へと昇られたのだった。


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