婚約破棄ですか? ありがとうございます!

柚木ゆず

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第10話(1)

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「周りに、人がいらっしゃったなんて……。お願いです……! わたしを見逃してください……っ!」

 急いで駆け寄ると、その人は今なお湖に向かおうとしていた。
 こんなにも、死を望むなんて……。相当なことが、あったんだ……。

「あの人の為にも、こうするべきなんです……! お願いします……っ。放っておいてください……っ」
「こんな姿を見て、放ってはおけませんよ。……でも、その気持ちは分かります。なのでお手伝いできない問題だったら、見て見ぬふりをします」
「そうだな。事情を説明してもらって、どうしようもないのであれば解放します。それで手を打ってください」

 世の中にはどうしようもないことがあって、そういう・・・・選択肢が一番いい時もあると思う。だから顔を覗き込んでサングラス越しに瞳を見つめ、そうしたら小さな頷きが返ってきた。

「…………わたしは隣国『レースト』の、とある貴族の長女でして……。10か月前に、お――非常に高い身分の方に気に入られてしまい、無理やり婚約を結ばされました……」
「「………………」」

 あたしとアルフレッドは、言葉を失ってしまう。
 婚約。この人も、そうなんだ……。

「わたしには、アイズ――幼い頃に将来を誓い合った幼馴染が居ました……。そのため圧力をかけられ、無理やり縁を切らされて……。アイズはわたしの本心を察して必死に抵抗してくれましたが、相手は別格の存在ですので……。どうすることもできず、五日後には結婚の式が執り行われるようになってしまいました……」
「「………………」」」

 また、言葉を失ってしまう。
 ここも、おんなじ。あたしが、あたし達が経験したことを、経験してるんだ……。

「『離れていても、心はいつも一緒ですよ』『僕が愛するのは、一生貴方だけです』。別れ際に、アイズはそう言ってくれて……。彼は私が結婚をしてしまっても、絶対に、想い続けてくれます……。生涯、独身を貫いてしまいます……」
「「………………」」
「ですから、どうにかして純潔を守りたい……。彼以外のものに、なりたくないんです……」
「「………………」」
「私が死んでしまったら、アイズは酷く悲しんでくれる。それは分かってます……っ。でも……。式の後には初夜が待っていて、そうしないとこの身体を穢されてしまうから……。こうするしか、ないんです……。彼と恋人になったこの地で、眠りたいんです……っ」

 両目に罪悪感や不本意さを浮かべて、水辺を見つめる。
 そう、だったんだ。そんな事情が、あったんだ……。

((だったら……。止めることなんて、できないよね……))

 敵は他国の人間で、おまけにかなりの権力者。
 大切な人との繋がりを守るために、ここに来ている。
 やめさせる権利なんて、ない……。

「……以上が、自殺の動機です。男性さん、女性さん、お願いします……。わたしを、放っておいてください」
「……………………分かりました。邪魔をして、ごめんなさい――」
「待ってください。そちらを耳にして、尚更放っておけなくなりました」

 静かに頭を下げていると、隣で2回かぶりが振られた。

 ……え?

 アルフレッド? どうして……?

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