38 / 74
第15話(2)
しおりを挟む
「お待たせいたしました。本日のドルチェ、ペッシェ・メルバでございます」
桃のコンポートにバニラのアイスを重ね、ラズベリーソースを添えたお洒落な一品。目の前に置かれたデザートを見ながら、あたしは心の中で何度も首を傾げていた。
((……おかしい……。ガーネ様は、全然アルフレッドの話をしない……))
アミューズの時もスープの時も、肉料理を食べている時も、一度もなし。ずーっと上機嫌で、発したのは『ここのお店は一番のお気に入りで、何度も足を運んでいますの』や『あの時は失礼しました』といった言葉だけなんだよね。
これ……。どうなってるの……?
「まあ美味しいっ。サートルさんも、早く召し上がってみてください」
「は、はい……。そう、します……。いただき、ます……」
戸惑いながら口へと運び、うん。ちっとも落ち着かなくって、ちゃんと味を感じられない。
甘くて冷たくて、程よく酸味がある。抱いた感想は以上で、『締め』となるコーヒーと焼き菓子も、ほろ苦いや甘い、このくらいしか感じなかった。
「いつも通り、パーフェクトでした。サートルさんは如何でしたか?」
「え、ええ、とても美味しかったです。…………あ、あの。アルフレッドに関するお話は……。どうなっているのでしょうか……?」
一向に始まる気配がなく、こちらから話題を出してみた。
食事が終わったら、さっきの待ち合わせ場所に戻って解散となっている。まさかそんな大事な話を、歩きながら行うの……?
「あっ、うっかりしてました。そうでしたね。今夜の来店の目的は、アルフレッド様について一対一で話す場を設ける為。そういう事にしていたのだと、つい忘れていましたわぁ」
にやり。まるで悪魔のような笑みが生まれて、あっという間に背筋が凍る。
そういう事にしていた。それって……っ。
「そう、ぜーんぶ嘘。ここに来た理由は、もっとも~っと楽しいことをするためっ。リル・サートル、お前を殺すためよ!!」
その大声を合図に周りのお客さん達が一斉に立ち上がり、髭を蓄えた小太りの中年男性が――店のオーナーがやって来て、彼女にフォークを手渡した。
叫んでいる相手に凶器を渡して、18人いたお客さん達はこの席をグルっと囲んでいる――あたしが、逃げられないようにしている……。
嘘みたいけど、嘘じゃない。
この建物にいる、全員が……。この人の、協力者なんだ……。
桃のコンポートにバニラのアイスを重ね、ラズベリーソースを添えたお洒落な一品。目の前に置かれたデザートを見ながら、あたしは心の中で何度も首を傾げていた。
((……おかしい……。ガーネ様は、全然アルフレッドの話をしない……))
アミューズの時もスープの時も、肉料理を食べている時も、一度もなし。ずーっと上機嫌で、発したのは『ここのお店は一番のお気に入りで、何度も足を運んでいますの』や『あの時は失礼しました』といった言葉だけなんだよね。
これ……。どうなってるの……?
「まあ美味しいっ。サートルさんも、早く召し上がってみてください」
「は、はい……。そう、します……。いただき、ます……」
戸惑いながら口へと運び、うん。ちっとも落ち着かなくって、ちゃんと味を感じられない。
甘くて冷たくて、程よく酸味がある。抱いた感想は以上で、『締め』となるコーヒーと焼き菓子も、ほろ苦いや甘い、このくらいしか感じなかった。
「いつも通り、パーフェクトでした。サートルさんは如何でしたか?」
「え、ええ、とても美味しかったです。…………あ、あの。アルフレッドに関するお話は……。どうなっているのでしょうか……?」
一向に始まる気配がなく、こちらから話題を出してみた。
食事が終わったら、さっきの待ち合わせ場所に戻って解散となっている。まさかそんな大事な話を、歩きながら行うの……?
「あっ、うっかりしてました。そうでしたね。今夜の来店の目的は、アルフレッド様について一対一で話す場を設ける為。そういう事にしていたのだと、つい忘れていましたわぁ」
にやり。まるで悪魔のような笑みが生まれて、あっという間に背筋が凍る。
そういう事にしていた。それって……っ。
「そう、ぜーんぶ嘘。ここに来た理由は、もっとも~っと楽しいことをするためっ。リル・サートル、お前を殺すためよ!!」
その大声を合図に周りのお客さん達が一斉に立ち上がり、髭を蓄えた小太りの中年男性が――店のオーナーがやって来て、彼女にフォークを手渡した。
叫んでいる相手に凶器を渡して、18人いたお客さん達はこの席をグルっと囲んでいる――あたしが、逃げられないようにしている……。
嘘みたいけど、嘘じゃない。
この建物にいる、全員が……。この人の、協力者なんだ……。
12
あなたにおすすめの小説
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます
nanahi
恋愛
婚約者ウィルとその幼馴染ベティに罠にはめられ、湖へ沈められた伯爵令嬢アミアン。一命を取り留め、公女として生まれ変わった彼女が見たのは、裏切り者の幸せな家庭だった。
アミアンは絶望を乗り越え、第二の人生を歩む決意をする。いまだ国に影響力を持つ先の王弟の大公女として、輝くほど磨き上げられていったアミアンに再会したウィルは激しく後悔するが、今更遅かった。
全ての記憶を取り戻したアミアンは、ついに二人の悪事を断罪する。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる