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第4話 見抜かれていた理由~最初から間違っていた~ 俯瞰視点(1)
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「お父様。わたくし、ベルザックス伯爵家の提案をお受けしようと思います」
それは、今から1年と3か月ほど前のことでした。アマリアはミーヴェル子爵邸内にある執務室を訪れていて、父ジョゼフに穏やかな笑みを浮かべていました。
「なんだって!? ベルザックス家の提案といえばっ、カシアス・ベルザックスと交際をするということだろう!? 正気かアマリア!?」
ジョゼフが娘とは正反対の表情を浮かべ、おもわずチェアーから立ち上がった理由。それは、カシアスは――当主と嫡男は、野心の塊のような男達だと分かっていたからです。
「確かに、ベルザックス伯爵家とのパイプは非常に魅力的だ。だがあの者達はそれを持って余りあるほどのマイナス要素――他意を持っている。ロクなことにならんぞ」
いつも低姿勢だが、常に自分達を見下している。カシアスを売り込んで来たのは、商会上層部への食い込みや乗っ取りによって甘い汁をたっぷりと吸おうとしているため。などなど。
親子がすでに把握していた情報――問題点をすべて挙げ、ジョゼフは呆れまじりで顔を歪めました。
「お前もそれは熟知しているはず。なぜそのようなことを言い出すのだ?」
「我が商会の更なる発展には、カシアス様のような人材が必要不可欠。そう判断したからです」
一見すると本当にウィンウィンであるかのように語った演技力と、それを大商会の会頭相手に平然と成し遂げた度胸――。立場上数多の人間を見てきた自分達でなければ悟れないほどに、極めて巧みに本心を隠していた点――。心の中では格下と見下しているにもかかわらず、プライドをかなぐり捨てて笑顔を貼り付け媚びることができる点――。
それらをアマリアは稀有な才と高く評価し、『血族』として商会に引き込むべきだと判断していたのです。
「たとえば交渉など、カシアス様という『毒』が活躍する場面は多々ございます。もちろん言及されたように相応のデメリットは存在しますが、そちらは防げる問題ですし、そのメリットは次の階梯へと商会を押し上げてくれるものとなります。ですので交際、婚約、結婚をしようと決めました」
「……そ、そうか……。だ、だがな、アマリア……。お前は、それでよいのか……? 家や商会のために、人生を捧げることになるが……。それでもよいのか……?」
「もちろんでございます。貴族の長女として、商会頭の娘として生まれたと自覚した日から、わたくしは『歯車』となるつもりで生きてまいりましたので」
与えられた領地、慕ってくれる領民、先祖たちが築き上げてきた家と商会。それらを守る責任、義務が自分にはある――。アマリアの中にはずっとそういった認識が当然のものとしてあったため、一切の迷いはありませんでした。
「むしろそちらは、わたくしの喜び。ですのでお父様、90%実現するものとして話を進めていただきたく思います」
「うむ、分かった。その準備を――む? 90? 100%ではないのか?」
「はい。90%となっております」
カシアスは交際婚約結婚を望んでいて、アマリアも同様に望んでいる。にもかかわらず確定ではわけ、それは――
それは、今から1年と3か月ほど前のことでした。アマリアはミーヴェル子爵邸内にある執務室を訪れていて、父ジョゼフに穏やかな笑みを浮かべていました。
「なんだって!? ベルザックス家の提案といえばっ、カシアス・ベルザックスと交際をするということだろう!? 正気かアマリア!?」
ジョゼフが娘とは正反対の表情を浮かべ、おもわずチェアーから立ち上がった理由。それは、カシアスは――当主と嫡男は、野心の塊のような男達だと分かっていたからです。
「確かに、ベルザックス伯爵家とのパイプは非常に魅力的だ。だがあの者達はそれを持って余りあるほどのマイナス要素――他意を持っている。ロクなことにならんぞ」
いつも低姿勢だが、常に自分達を見下している。カシアスを売り込んで来たのは、商会上層部への食い込みや乗っ取りによって甘い汁をたっぷりと吸おうとしているため。などなど。
親子がすでに把握していた情報――問題点をすべて挙げ、ジョゼフは呆れまじりで顔を歪めました。
「お前もそれは熟知しているはず。なぜそのようなことを言い出すのだ?」
「我が商会の更なる発展には、カシアス様のような人材が必要不可欠。そう判断したからです」
一見すると本当にウィンウィンであるかのように語った演技力と、それを大商会の会頭相手に平然と成し遂げた度胸――。立場上数多の人間を見てきた自分達でなければ悟れないほどに、極めて巧みに本心を隠していた点――。心の中では格下と見下しているにもかかわらず、プライドをかなぐり捨てて笑顔を貼り付け媚びることができる点――。
それらをアマリアは稀有な才と高く評価し、『血族』として商会に引き込むべきだと判断していたのです。
「たとえば交渉など、カシアス様という『毒』が活躍する場面は多々ございます。もちろん言及されたように相応のデメリットは存在しますが、そちらは防げる問題ですし、そのメリットは次の階梯へと商会を押し上げてくれるものとなります。ですので交際、婚約、結婚をしようと決めました」
「……そ、そうか……。だ、だがな、アマリア……。お前は、それでよいのか……? 家や商会のために、人生を捧げることになるが……。それでもよいのか……?」
「もちろんでございます。貴族の長女として、商会頭の娘として生まれたと自覚した日から、わたくしは『歯車』となるつもりで生きてまいりましたので」
与えられた領地、慕ってくれる領民、先祖たちが築き上げてきた家と商会。それらを守る責任、義務が自分にはある――。アマリアの中にはずっとそういった認識が当然のものとしてあったため、一切の迷いはありませんでした。
「むしろそちらは、わたくしの喜び。ですのでお父様、90%実現するものとして話を進めていただきたく思います」
「うむ、分かった。その準備を――む? 90? 100%ではないのか?」
「はい。90%となっております」
カシアスは交際婚約結婚を望んでいて、アマリアも同様に望んでいる。にもかかわらず確定ではわけ、それは――
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