VTuberデビュー! ~自分の声が苦手だったわたしが、VTuberになることになりました~ 

柚木ゆず

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第25話 ぽかぽか

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「そのお顔。変化があったみたいですね?」
《はい。胸の奥が、あったかいです》

 ぽかぽか。アーカイブを見る前まではなかったものが、ある。
 あります。

《とても小さい、けど。ぽかぽかしています》
「そうですね。僕も最初はとても小さく、見るたびに大きくなっていきました。同じ、ですね」
《はい……! 同じ、です……!》
「でしたらきっと、これから先も同じようになるでしょうね。安心してください。確実に、良い方向に進んでいますよ」

 隣で見守ってくれていた翔くんは優しく微笑んでくれて、画面をチラッと見ました。

「この勢いを止めてしまうは、勿体ないと思います。このまま、第2回のアーカイブも見てませんか?」
《見ますっ! わたしも見たいと思ってましたっ!》

 声を治したい。
 そんな気持ちはもちろんあるんだけど、それだけじゃなくって。

 配信中は見ることができなかった、外から見る『ミアの配信』。

 違う角度から見る楽しくて幸せな時間を、もっと眺めたくなってるんです。

「では、再生しますね。葉月ミア、2回目の配信がはじまります」

 カチカチカチッとマウスをクリックしてくれて、2回目のアーカイブが始まります。
 そうしてわたしは翔くんと一緒に、初めてじゃないけど初めてな配信を見始めて――


『こんばんみゃあ~っ! 応援でみんなを元気にしちゃう、葉月ミアだよ~っ!』

《こんばんは》
《こんばんみゃあ~》
《なんか声が聞こえた》
《虫でも出た?》

『あぅ、ごめんなさい。チラッと今の視聴者さん数が見えて、そしたら3倍――あれっ4倍になってる!? すごい数の人が見てくれてると分かって、驚いちゃったんです』


 あんな数の人が見てくれてるって知った時は、ビックリしたなぁ。


『初めましての皆さん、初めましてっ。どうしてミアの配信に来てくれたのか、よかったら教えてくださいっ』

《初配信を見た友人に誘われました》
《2日前、だったよね? その配信を見た弟に教えてもらいました》
《野球好きな新人さんがいるって聞きました。リア友にです》
《相撲を話せる人が居るって、ネットの知り合いに勧められました》


 楽しいとか面白かったとか言ってもらえるだけでも嬉しいのに、他の人にもススメてもらえるなんて。
 あの時も、嬉しかったなぁ。


『………………やったぁ! スーパーブラザーズ2、全面クリア達成です!』
《すごっ!》
《ノーセーブすごい!!》
《難易度高いのに、1ミスだけって……。ヤバすぎでしょ》


 最終ステージの2つ手前が苦手で、何度もミスする時もあった。
 でもあの時はずっと、コメント欄で視聴者さんが応援してくれてて。
 力が湧いて、いつもよりも上手にプレイできたんだよね。

((……ありがとうございます))


『ミアのゲーム配信を見てくれて、ありがとうございましたっ。ここからは、そうだなぁ~。今日は、野球の話をするねっ』
《待ってました》
《そろそろ甲子園。注目してる学校はありますか?》
『ん~。石川県と奈良県に気になっている高校があって、甲子園でも優勝候補になると思ってます。石川の学校はエースピッチャーさんのシンカーとスライダーの切れがよくて、地方大会でも奪三振率が高かったんですよっ。奈良の学校はショートの選手に注目していて、この選手はあんまり話題になってないんです。でも守備はエラーがなくて打撃も打率が3割越えで、攻守が安定してる。本番でも一二を争そうリードオフマンになると思いますよ……!』
《質問。リードオフマンってなに?》
『あっ、ごめんなさい。リードオフマンっていうのは、一番打者――チームで1番はじめに打席に立つ選手のことです。一番打者は、チーム内で打率や出塁率――フォアボールとかも含めて塁に出る確率のことで、それが高い人が1番を任されます。だから1番打者はみんな打率も出塁率も高いんですけど、その中でも更に高い成績を本番でも残すと思ってます』
《よく分かりました》
《プライバシーうんぬんで名前は出せないけど、奈良ってあの選手だよね? よく分かってる》
《奈良県民的には嬉しい》
《石川県民もいるぞ。地元を褒められるとなんか嬉しい》


『前回は野球のお話をしたので、今日のゲーム後(ご)雑談はお相撲にします!』
《高の風と、朝野藤、だっけ? が好きなんだよね?》
『覚えててくれたんですねっ。そうなんです! 高の風関はベテランならではの技術と風格があって、どっしりしているところが大好きなんです! 朝野藤関は小兵と――力士の中では小柄なんですけど、体格の差を感じさせない素早さと技を持っているんです。ミア個人的には現代の『技のデパート』と思っていて、是非一度取り組みを見てもらいたいですっ!』
《技のデパートってどこかで聞いてコトある気がする》
『技のデパートは初土俵が平成2年5月場所、平成11年の11月場所で引退された、『舞分海』関――今はタレントとしても活躍されている力士さんの、異名ですよっ。小兵ながらも最高位は小結と三役までのぼっていて、取り組みを見ていてワクワクする力士さんのひとりなんです!』
《あ~あの人ね。小結って、強いの?》
「相撲は『横綱』『大関』『関脇(せきわけ)』『小結(こむすび)』『前頭(まえがしら)』が幕内と呼ばれ、さらには『十両』までが力士を名乗ることができ、その下には『序二段(じょにだん)』などたくさん『位』があるんです。数ある位置の中で上から4番目という、かなり強い位置にあるんですよっ」
《初めて知りました。色々あるんだね、相撲って》
『はいっ! 知れば知るほど面白くなっていくので、ぜひぜひ見てみてくださいっ!』


 わたしの声、すっごく楽しそう。
 ミアの表情がなくても、楽しんでいるのが分かる。

((……ありがとうございます))


 わたしの今日までに行った配信で、たくさんの幸せな時間を過ごしました。
 そして。

《葉月ミアって子、ゲーム滅茶苦茶上手い》

《葉月ミア、スーパーブラザーノーミス全クリ。控えめに言ってヤバい》
《ノーミス!? マ!?》
《マジ。アーカイブ観れば分かる》

《RTA(アールティーエー)やるべきだと思った》

《レトロゲー界に驚異の新星現る》

《え? 最新のゲーム機でやってるんじゃないの? 巻き戻し機能なし!?》
《なし。実機でやってましたよ》
《へ~。その人上手いね。あとで見てみるよ》

《ガチ野球好きの葉月ミア》

《葉月ミア、目の付け所がプロ》

《この子、野球も詳しいんだ。知らなかった》

《葉月ミアの配信、技のデパートが出るとは思わなかった》

《相撲もガチだね》

《相撲ガチ勢のVは初めてか?》

《じいちゃんに教えてみたら、滅茶苦茶興味を持ってた》

《勧められて見てみた。葉月ミア、面白いわ》

《レトロゲームが上手いとか相撲とか野球とか注目点は色々あるけど、わたしはシンプルにミアちゃんが好き》
《FF外から失礼します。分かります。見ていると楽しくなってきますよね》
《リプありがとうございます。配信を楽しんでるのが分かりますよね。普段同性のVは見ないんですけど、弟に勧められてハマりました》

《配信見てるとこっちまで楽しくて、元気もらえるんだよね》

 配信中だけじゃなくて、SNSでもたくさんの幸せをもらいました。

((……ありがとうございます))

 ……改めて、気付きました。
 わたしはVtuberになってから、夢みたいな時間を過ごしていました。

 ――ありがとうございます――。
 ――ありがとうございます――。
 ――ありがとうございます――。

 ――これからも配信を――。
 ――これからも配信を――。
 ――これからも配信を――。

 心の中はたくさんの感謝とたくさんの思いで一杯になって。
 それらの気持ちは、やがて心の中では納まりきらなくなって。

 だから。
 だから――。


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