VTuberデビュー! ~自分の声が苦手だったわたしが、VTuberになることになりました~ 

柚木ゆず

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第10話 初配信、スタート!

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「美月さん。準備はよろしいですか?」
「…………すー、はー、すー、はー、すー、はー。オッケーです」

 田宮家さんの一階のお部屋の中にある、防音室。電源が入っているモニターの前で3回深呼吸をして、隣にこくりと頷きました。
 今の時間は、午後6時57分。
 あと3分で、初めての配信が始まります。

「配信が始まっても、僕はサポート役としてずっと隣にいます。万が一何かがあったとしても、即対処できます。安心してください」
「はい……!」

 わたしはVTuberの素人。困ったらことが起きたらすぐ対応してもらえるように、配信中はずっと翔くんが横にいてくれるんです。
 翔くんがいてくれるのは、本当に心強い。

「…………今の美月さんになら。伝えてもいい言葉ですね」
「? 翔くん? 今、何か言いましたか?」
「今のは独り言ですが――。美月さん、楽しみましょう」
「はいっ! 楽しみます!」

 たくさんの人に向けて発信するのは初めてで、すごく緊張してる。怖さもある。でもそれ以上に、ワクワク、ウズウズしてるわたしがいる。
 だからもう一回――今度はさっきよりも大きく頷いて、そうしていたら午後7時ちょうどになりました。

「開始時刻です。始めましょう!」
「はいっ!」

 たくさん練習して、たくさん教えてもらって、すっかり機材の使い方も覚えた。わたしはマウスやキーボードをテキパキ動かして――

 葉月ミアの初配信、スタート!!

 まずは、OP。画面が切り替わると元気一杯の音楽が流れるようになり、画面に日本語と英語で『ミア』の名前が表示される。そして画面のあちこちでポンポンと猫の足跡のアイコンが現れるようになって、それらが可愛く画面を埋め尽くすと――

「こんばんみゃあ~っ! 応援でみんなを元気にしちゃう、葉月ミアだよ~っ!」

 ――いよいよ、ミアの登場。ポンポンで顔を隠したミアが画面の真ん中に現れて、わたしは元気よく視聴者さんにご挨拶をしました!
 そうしたら――

《こんばんは~》
《こんばんは!》
《初見です。こんばんは》
《いい挨拶。こんばんみゃあ~っ!》

 ――!!!
 コメント欄っていう視聴者さんが描き込めるスペースに、こんな感じのお返事が7つも表示されました!

((…………ほんと、だ。わたしの声、笑われないんだ。翔くんの言ってた通りだ))

 翔くんはずっと褒めてくれていて、そのおかげで翔くんと出会う前と比べたら、自分の声への印象は変わってきてた。
 でも。それでも色んなことが、わたしの頭の中にあって。
 大丈夫だけど大丈夫じゃないかもっていう……。その……。自分でもキチンと言葉にして説明できない感覚があった。
 でもでも。視聴者さんがくれたコメントを見て、やっぱり大丈夫だったんだ――みんな普通にわたしの声に接してくれるんだ、って思えるようになりました。

((えへへ。7つ、7人さん。ありがとうございます――ふえ!?))

 違いましたっ。7人じゃありませんでした!
 コメント欄を眺めてたらドンドン新しい挨拶コメントが流れてきて、あれ? っておもっていたら、視聴者数が表示されるスペースには『17』という数字が出てた。17人の人が見て、わざわざお返事をしてくれていましたっ!

「っっ! 今日はミアの初めての配信を見に来てくれて、ありがとうございます~っ。まさかこんなに見てくれる人がいるとは思ってなくって、ビックリしてます!」

《パチパチパチパチ》
《パチパチパチパチ》

「えとえと。皆さんは、どうやってこの配信に来てくれたんですかっ? よかったら教えてくださいっ」

 配信中はこんな風に視聴者さんに話しかけて、返してくれたコメントにお返事をして、視聴者さんとお喋りをしていくのです。

《新人VTuberを観るのが趣味で、探してて遊びに来ました》
《ハッシュタグ経由で》
《偶然見つけて覗いてます》
《偶々チャンネルアイコン見つけて、顔が隠れてるのが気になって来てます》

 ふぇ~。色んな方法で見つけてくれてるんだぁ。

「みんなに楽しんでもらえるように、ミア、頑張っていきますっ。まずはミアを知ってもらいたいから、ミアの自己紹介をさせてもらいます!」

 元気よく、可愛く、ハキハキと。チア部&応援団部所属のミアらしく喋って、カチカチカチ。マウスを動かして、葉月ミアのプロフィールを表示させ――ていた、時でした。

((…………………………))

 わたしはコメント欄に表示された文字を見て、頭の中が真っ白になってしまったのでした。
 う、うそ? 見間違い?
 ううん、見間違いじゃなかった。
 確かに、コメント欄に――


《声可愛い》


 ――こんなコメントが、あったのでした。

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