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第2話 車内で明かされる、これまでのこと ベアトリス視点
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「あの日――別れの日。俺はベアトリスに、『迎えに行く』『待っていてくれ』と伝えた。だからその約束を守れるように、我武者羅になって力を手に入れたんだよ」
馬車に乗り込んでから、数分後。追手のなしなどの確認が終わると、ユベールは彼の2年半を教えてくれた。
最初の1年間は徹夜を繰り返して経営学や投資術などを学び、季節が一巡する頃にはフィス家の資産を5倍にすることに成功していていた。
次の1年間は、引き続き財を増やしつつ人脈作りに着手。前年の行動によって手に入れたお金などを使って各所に恩などを売り、太いパイプを秘密裏にいくつも作っていた。
残りの半年は、計画を練るなどの仕上げ作業。この2年で得たものを合わせてミュレーションや調整を何度も行い、ようやく成功率が100%となったため、実行した。
これが私の知らない、ユベールの2年半だった。
「ベアトリス様、ユベール様の努力は凄まじい物でしたよ。大げさではなく、人の限界を超えておりました。元々才を秘めた方だと存じ上げてはおりましたが、そこに固い意志が加わることで進化をされました」
「リオン、そういうものはよしてくれ。俺には様々なものが欠けていたから、それを慌てて手にしただけ。そんな努力などどうでもいいのさ」
私の後方――御者席から聞こえてくる声を苦笑と共に止めて、ユベールはこちらへと向き直った。
私としても、この人の努力は『どうでもよくない』もの。でも彼は、昔っからこういう人――こういった部分は誇らない、誇りたくない人だから。心の中で、感謝の言葉を告げさせてもらった。
「まあ、そういうことなんだ。俺はあの頃と同じく伯爵家の人間だが、今はあの男と渡り合える武器をいくつも持っている。だから何も心配は要らず、あんな場所に連れ戻される可能性も0なんだよ」
「……0……。じゃあ、これからは毎日一緒に居られるんだね? ユベールを大好きだって、堂々と言ってもいいんだね……っ?」
「ああ。いずれあの男が嗅ぎつけてくるだろうが、そこも問題はない。毎日言ってくれて構わないし、俺だって伝える」
向かい合う形で座っていた、ユベール。彼は早速「あの頃の今も、愛してる。好きだ。大好きだ」と、言ってくれた。
「あんな思いは、もう2度とさせない。今日からはずっと一緒で、ベアトリス。これから2人で空白を埋めていこう」
「うん……っ。ユベールっ、私も少しも変わっていないの……っ。あの頃からずっと、貴方が大好きっ。愛してるっ!」
私の手を握ってくれている手を握り返し、キスを交わす――。
2年半ぶりの、口づけ。もう二度と感じることはできないと思っていた、愛する人の唇。
それらが、唇の嫌な思い出を全て吹き飛ばしてくれて。唇に触れて微笑みを浮かべていると、
「ふぁぁ……」
独りでにあくびが出てきて、勝手に瞼が下がり始めた。
「2年半張りつめてた緊張の糸が、解けたからだろうな。ベアトリス、ここを使ってくれ」
「……ん、ありがとう。ユベール、失礼します……」
急激にやってくれる睡魔に勝てず、私は彼の膝の上に頭を載せる。そうすると更に眠気がやって来て――
「…………おやすみ、なさい……。ゆ、べー、る…………」
「ああ、お休みベアトリス。今までよく頑張ったな」
――私は優しく頭を撫でられながら、眠りの世界に落ちていったのでした。
馬車に乗り込んでから、数分後。追手のなしなどの確認が終わると、ユベールは彼の2年半を教えてくれた。
最初の1年間は徹夜を繰り返して経営学や投資術などを学び、季節が一巡する頃にはフィス家の資産を5倍にすることに成功していていた。
次の1年間は、引き続き財を増やしつつ人脈作りに着手。前年の行動によって手に入れたお金などを使って各所に恩などを売り、太いパイプを秘密裏にいくつも作っていた。
残りの半年は、計画を練るなどの仕上げ作業。この2年で得たものを合わせてミュレーションや調整を何度も行い、ようやく成功率が100%となったため、実行した。
これが私の知らない、ユベールの2年半だった。
「ベアトリス様、ユベール様の努力は凄まじい物でしたよ。大げさではなく、人の限界を超えておりました。元々才を秘めた方だと存じ上げてはおりましたが、そこに固い意志が加わることで進化をされました」
「リオン、そういうものはよしてくれ。俺には様々なものが欠けていたから、それを慌てて手にしただけ。そんな努力などどうでもいいのさ」
私の後方――御者席から聞こえてくる声を苦笑と共に止めて、ユベールはこちらへと向き直った。
私としても、この人の努力は『どうでもよくない』もの。でも彼は、昔っからこういう人――こういった部分は誇らない、誇りたくない人だから。心の中で、感謝の言葉を告げさせてもらった。
「まあ、そういうことなんだ。俺はあの頃と同じく伯爵家の人間だが、今はあの男と渡り合える武器をいくつも持っている。だから何も心配は要らず、あんな場所に連れ戻される可能性も0なんだよ」
「……0……。じゃあ、これからは毎日一緒に居られるんだね? ユベールを大好きだって、堂々と言ってもいいんだね……っ?」
「ああ。いずれあの男が嗅ぎつけてくるだろうが、そこも問題はない。毎日言ってくれて構わないし、俺だって伝える」
向かい合う形で座っていた、ユベール。彼は早速「あの頃の今も、愛してる。好きだ。大好きだ」と、言ってくれた。
「あんな思いは、もう2度とさせない。今日からはずっと一緒で、ベアトリス。これから2人で空白を埋めていこう」
「うん……っ。ユベールっ、私も少しも変わっていないの……っ。あの頃からずっと、貴方が大好きっ。愛してるっ!」
私の手を握ってくれている手を握り返し、キスを交わす――。
2年半ぶりの、口づけ。もう二度と感じることはできないと思っていた、愛する人の唇。
それらが、唇の嫌な思い出を全て吹き飛ばしてくれて。唇に触れて微笑みを浮かべていると、
「ふぁぁ……」
独りでにあくびが出てきて、勝手に瞼が下がり始めた。
「2年半張りつめてた緊張の糸が、解けたからだろうな。ベアトリス、ここを使ってくれ」
「……ん、ありがとう。ユベール、失礼します……」
急激にやってくれる睡魔に勝てず、私は彼の膝の上に頭を載せる。そうすると更に眠気がやって来て――
「…………おやすみ、なさい……。ゆ、べー、る…………」
「ああ、お休みベアトリス。今までよく頑張ったな」
――私は優しく頭を撫でられながら、眠りの世界に落ちていったのでした。
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