4股を知った令嬢達は、手を取り合い反撃する

柚木ゆず

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第8話 潜入と、開始 アンリエット視点(1)

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「部屋の外が騒がしくなったわ。頃合いのようね」
「うん。行きましょうっ!」

 ケースから出て廊下の様子を窺っていたわたし達は、静かに扉を開けてローランの私室を目指す。

(アンリエットさんっ。これっ)
(んっ。静か、ですね)

 ナディアさんが頑張ってくれたおかげで、廊下には人っ子一人いない。なので見つかることなく移動は終わり、無事目的の部屋に入り込めました。

「比較的早く戻る時には、鍵をかけない。あちらの性質にも感謝ね」
「ええ、そうですね。……それでは手分けをして、探しましょう」

 所謂親バカの極みで、子どもたちは広い広い私室を――3つ続きの部屋を与えられている。わたし達に与えられた時間は30分前後で、一息ついている暇なんてありません。

「わたしは、今いる部屋を調べるわ。エミナさんはその次、アンリエットさんは最奥の寝室をお願い」
「分かりました。そちらは任せてください」
「わたしも、しっかり調べます。任せてください」

 ここからは三手に別れて、各自物音を立てないよう静かに、でも素早くチェックしていく。

「置かれてある、愛用のバイオリン……の中にある、はずはないですよね。それじゃあまずは、定番のベッド周りからで……。ここにある、のかな……?」

 どかんと鎮座しているキングサイズのベッドに歩み寄り、ゴソゴソゴソ。周辺およびベッド下を、入念にチェックする。

「ここは………………………残念。なにもなしで、次は棚だね」

 ローランは確か寝る前に本を読む趣味があって、寝室内に本棚を二つ置いている。観察記録も一応は読み物だから、ここにあるかもだ。

「市販されている本じゃなさそうなものは……。んーと…………………………ここには、ないですね」

 1段目から5段目まで隅々調べてみたけど、なし。そこで隣にある、二つ目を調べる。

「どっちかにはありそう、なんですが……。こっちには……………………。ここにもないですね」

 どの段にも、あるのはちゃんとした本だけ。ローラン自作のものはなかった。

「そうなると、この部屋にあるのは机が最後。お願いだからあってください」

 顔の前でパンっと両手を合わせ、お祈りをしてから近寄る。
 寝室に机を置くのは、かなり珍しいこと。だから珍しいものがあってください……!

「…………机の上とか、見えるところにはないね。あるとしたら、3つの引き出しのなか……」

 もう一度『あって!』と念じながら、まずは一番上を引いて開ける。そうしたらその中にあったのは、筆記用具。鉛筆とか定規が、雑に放り込まれていた。

「……1つ目は、ハズレ。2つ目は、どう……?」

 引き続き強く念じながら、真ん中の引き出しを開ける。そうすれば――彼が自分で書いた、紙の束が入ってた!

「こっ、これっ! マリーちゃんを観察した記録っ、ではないですね……」

《Cランク イール・ヤウナ 顔は平均値だが、振る舞いが芋臭い。
 Dランク エルザ・ナル 顔も体型も平均以下。
 Eランク リザ・アルベ 最下位。俺なら鏡を見たら死にたくなるレベルのブス》

 ここにあったのは、お屋敷にいる女性使用人をランク付けしたもの。滅茶苦茶失礼な文字が並んでいるのは同じなものの、失礼の内容が違っていた。

「……一度あることは二度あるで、今度も紙が――今度こそ、マリーさんのが入ってますように。ラストは底が深めだから、結果も違ってますように……っ!」

 みたび念じて、勢いよく引き出す。そしたらそこには……………………ん? 鍵がついた箱が入っていました。


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