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第6話 だから俺は ベンジャミン視点(2)
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「めい、れい……。なん、なんだ……?」
「公爵の関与を伏せた上で、かつてルーシーに行ったことを自らの口で社交界に言い広めろ。これが命令だ」
『僅か数か月で、新しいお相手を見つけるだなんて。わたくしには出来ませんわ』
などなど。コイツが後ろ盾を使って真実を明かせなかったことや、あの日の出逢いによって短いスパンで俺と関係を持ったこと。それらによって、ごく一部ではあるものの、そんな陰口を叩く貴族がいる。
そういう輩は俺がいくら否定をしても聞く耳を持たないので、本人によって黙らせようと考えたのだ。そしてコレが認知されたら近づく者がいなくなり、この男は孤立する――死んだも同然の人生となる。
ルーシーが死のうとする原因を作った男。ソイツに似たような思いをさせたくて、これを出したのだ。
「…………………………」
「嫌なら、大きな力に呑まれる未来が待っている。さあ、どっちを選ぶ?」
嫌だ! 絶対に嫌だ! どっちも嫌だ! そんな顔をしているピエールを見据え、敢えてゆっくりとした口調で問いかける。そうすれば――
「わ、分かった……。わかり、まし、た……!」
――ヤツはコクコクと、2度頷いた。
どんなに辛くなっても、潰されるよりはマシ。そんな理由で、負けを認めた。
「ルーシーからは手を引き、これより、ご命令に従います。…………………………」
「ピエール。今、なにか呟いただろう? なにを言ったんだ?」
「な、なにも言っておりません! で、では、僕は失礼致します。は、反省しております。申し訳ございませんでしたっ!」
問いかけるとピエールは間髪入れず大きくかぶりを振り、逃げるようにしてこの場を去ったのだった。
なので、愛する人を悩ませてきた問題は解決となったのだけれど――。
((あの、謎の呟きが気になるな。この状況で逆らい始めるとは、思えないが……))
この男なら、あまりにも自分勝手な思考回路を持った弩級の馬鹿なら、その可能性がある。そこで俺は――
「ピエール様は、去られたのですね。……ベンジャミン様、まことにありがとうございました。また、助けていただいてしまいましたね」
「俺は君の婚約者なのだから、これは当たり前のことだよ。無事解決してよかった」
――ルーシーに笑みを返して、解決を祝ってケーキや紅茶を楽しんだあと。屋敷に戻った俺は、とある場所に伝書鳩を飛ばしたのだった。
「公爵の関与を伏せた上で、かつてルーシーに行ったことを自らの口で社交界に言い広めろ。これが命令だ」
『僅か数か月で、新しいお相手を見つけるだなんて。わたくしには出来ませんわ』
などなど。コイツが後ろ盾を使って真実を明かせなかったことや、あの日の出逢いによって短いスパンで俺と関係を持ったこと。それらによって、ごく一部ではあるものの、そんな陰口を叩く貴族がいる。
そういう輩は俺がいくら否定をしても聞く耳を持たないので、本人によって黙らせようと考えたのだ。そしてコレが認知されたら近づく者がいなくなり、この男は孤立する――死んだも同然の人生となる。
ルーシーが死のうとする原因を作った男。ソイツに似たような思いをさせたくて、これを出したのだ。
「…………………………」
「嫌なら、大きな力に呑まれる未来が待っている。さあ、どっちを選ぶ?」
嫌だ! 絶対に嫌だ! どっちも嫌だ! そんな顔をしているピエールを見据え、敢えてゆっくりとした口調で問いかける。そうすれば――
「わ、分かった……。わかり、まし、た……!」
――ヤツはコクコクと、2度頷いた。
どんなに辛くなっても、潰されるよりはマシ。そんな理由で、負けを認めた。
「ルーシーからは手を引き、これより、ご命令に従います。…………………………」
「ピエール。今、なにか呟いただろう? なにを言ったんだ?」
「な、なにも言っておりません! で、では、僕は失礼致します。は、反省しております。申し訳ございませんでしたっ!」
問いかけるとピエールは間髪入れず大きくかぶりを振り、逃げるようにしてこの場を去ったのだった。
なので、愛する人を悩ませてきた問題は解決となったのだけれど――。
((あの、謎の呟きが気になるな。この状況で逆らい始めるとは、思えないが……))
この男なら、あまりにも自分勝手な思考回路を持った弩級の馬鹿なら、その可能性がある。そこで俺は――
「ピエール様は、去られたのですね。……ベンジャミン様、まことにありがとうございました。また、助けていただいてしまいましたね」
「俺は君の婚約者なのだから、これは当たり前のことだよ。無事解決してよかった」
――ルーシーに笑みを返して、解決を祝ってケーキや紅茶を楽しんだあと。屋敷に戻った俺は、とある場所に伝書鳩を飛ばしたのだった。
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