その愛は本当にわたしに向けられているのですか?

柚木ゆず

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第20話 絶望のなかで クリストフ視点(2)

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「…………………………そうだ……その手があった……! 諦めなくていいんだ!」

 太陽が再び昇って昼になっているから、恐らくはあれから12時間くらいが経った頃だった。ふと僕の中に、名案が降りてきたのだった。

「エリスと一緒に暮らせる方法が、あった……! アレの心をエリスにしてしまえばいいんだ……!!」

 ――洗脳と調教――。

 それらを使って『アニエス・ローレラル』という人格を崩壊させ、一度頭の中を真っ白にさせる。その後エリスの思考、趣味嗜好を植え付けたら、アニエス・ローレラルは完全なるエリス・レイラマイルになるんだ!!

「見た目がエリスで、中身もエリス。だったらそれは、エリス本人だ!!」

 エリスと異なる点が何一つないんだ。エリスに決まっている。
 エリスである以外、あり得ない。

「ははは、ははは。どうして最初から気付かなかったんだ」

 ウチに連れて来た時、すぐにそうしていたら傷付くことはなかったのに。きっと僕の中にある優しさが、その選択肢が浮かばないようにしていたんだろうな。
 ふん、馬鹿な女だ。
 余計な真似をしなければ、人並みの人生を送れていたのにな。

「確か方法は…………手足を縛り……目隠しと耳栓で視覚と聴覚を絶ちを……。心を徹底的に衰弱させて……。その状態で耳栓だけを外し、耳元で吹き込みたい情報を繰り返せばいいんだったな」

 とあるパーティーに出席した際、自慢げに語っていたのを聞いたことがある。
 その人間は、理想的な人形を作れたと笑っていた。成功例があるなら上手くいくはずだ。

「…………とはいえ、失敗してしまったら大変だ。悲劇を防ぐために、聞いた話を忠実に再現しよう」

 手足を拘束する際には金属製の『手錠』を使用して、目隠しは黒い布を使用し、耳栓はコルク製のものを使用していたらしい。そこですぐさま街を目指して、

「………………これにしよう。店主、そこにあるものをもらおう」

 金属製の手錠2つと、真っ黒な布と、コルク製の耳栓を購入。100パーセント同じ製品ではないだろうけど、素材が一緒なら問題ないはず。
 僕は無事計画に必要な道具を揃え、

「ローレ! 急いで戻るぞ!! 飛ばせるだけ飛ばせ!!」

 出せる限界の速さで馬車を走らせ、屋敷に帰って来た。

「っ! クリストフ! よく戻って来てくれた!」
「心配していたのよっ! よかったわぁ……! ゆっくり紅茶とケーキでも――クリストフ……? なにか良いことでもあったの……?」
「やあ父さん母さん、心配をさせてしまってごめん。そう、そうなんだよ。とっても良いことがあったんだ」

 準備は整っている。
 さあ、始めようか。

 エリスの誕生を。理想郷の創造を。
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