私は貴方を大好きなのに、前世の私が貴方を嫌っている

柚木ゆず

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7話 罠の始まり

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「エリス殿。我々夫婦に、一族のお役目を引き継がせてはもらえませんか?」

 次の日の、午前11時半過ぎ。家のお仕事で出掛けるクロードさんを、見送ったあとのことでした。食卓を使って皆さんとお喋りをしていたら、お父様からこんな提案がありました。

「昨今は、各地の開拓が盛んですからな。ローランド卿が見つけられなかったとはいえ、何者かによる発見は時間の問題だと思われます」
「『………………』」
「他者に御使命を任せる事は、夥しい量の不安があると承知です。しかしながら自分は――妻やナズリ殿も、貴方の過去を知って協力をさせていただきたいのです。貴方がたが命を賭して守り抜いたものが、他の手に渡ってしまう事が悔しく恐ろしいのです」

 お父様は卓上に出していた両手を強く握り締め、お母様やナズリさんは揃って頷きました。

「エリス殿の過去を考慮し、お役目はフォーレルの血がない者――わたし、妻、娘で担いたいと考えております。ミラは貴方の生まれ変わりですし、安心していただけるのではないでしょうか?」
「『………………そうね。安心は、できるわ』」
「よかった……っ。でしたら、エリス殿。以後は我々が――」
「『だけど、引継ぎは不要よ。あの場所は、無関係な者は絶対に立ち入れないようになっているのだからね』」

 椅子から立ち上がっていたお父様を手で制し、窓の外を――南の方角を懐かしげに眺めました。

「『一族しか知らない『鍵』がないと、そこには一歩も入れないの。どんなに発展してもそれは不変で、何があっても永久に暴かれる日は来ないわ』」
「そ、そうでしたか。でしたら、安心でしたな。愚問を失礼致しました」
「『いいえ、ありがとう。気持ちだけ受け取ってくわ』」
「はい、そうしてください。……それではこの話題はここまでにして、別の、今度は楽しいお話をしましょうか」
「そういう時には、お茶とお菓子ですわね。すぐに用意させますわ」

 ナズリさんがパンパンと手を打ち鳴らすと使用人の方がやってきて、程なくマドレーヌとハーブティーが用意されました。
 お茶はローズヒップで、マドレーヌはオレンジが混ぜられたもの。どちらも私が好きな味で、エリスも好きな味です。

「私はこれまで、何度も食べてきています。今日はエリスとして味わってください」
「『ミラ……。今のあたし、ありがと。お言葉に甘えておくわね』」

 エリスは少しだけ俯いたあとはにかんで、マドレーヌをぱくっと頬張ります。
 警戒心がある影響で固い印象がありますが、エリスは十六歳の女の子でもありますからね。年齢らしい様子でパクパクと食べて、ハーブティーもゴクゴクっと飲み干しました。

「ふふ、気に入っていただけて何よりだわ。もう一つ用意しましょうか?」
「『…………。そちらがよければ、お願いするわ』」
「勿論、喜んで。ちょっと待ってくださいね」

 ナズリさんがもう一度使用人さんを呼んでマドレーヌとお茶が用意されて、またパクパクでゴクゴク。2つと2杯でお腹いっぱいになったためここからはお喋りが始まって、楽しい時間が続く――。
 そう、思っていた時でした。

「『あ、れ……? ねむ、け、が……?』」

 突然瞼が下り始めて、駄目です……。
 どんなに抵抗しても、体が許してくれなくて……。私とエリスは、食卓に崩れ落ちたのでした……。

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