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プロローグ サンドリーヌ・コノルワーズ視点(1)
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「お嬢様……」
「…………まさかあの人達が、そんなことを企んでいただなんてね。全然気が付かなかったわ」
ついさっきまで心地よい春の夜風が窓から入り込んでいた、寮内にある自室。その中で今晩届いたばかりの手紙を読み終えたわたしは、夜風と正反対の気分を抱きながら天を仰いでしまった。
――叔父一家こと叔父ジェロームとその妻レーアと娘シャリーが、コノルワーズ子爵家を乗っ取ろうとしている――。
今から5年前……。わたしが11歳の頃にロベールお父様とロランスお母様が事故で亡くなり、わたしが独り立ちするまでお父様の実弟であるジェローム叔父様が当主代行を務めるようになった。
その一環として叔父一家3人がお屋敷で一緒に住むようになり、わたし達はとても良い関係を築けていた……と思っていた。
『サンドリーヌ。わたしは兄上達にはなれないが、お前を支えてゆくことくらいはできる。もう一人の父と思い、遠慮なく頼ってくれ』
『わたくしもよ。なんでも言って頂戴ね』
『お姉様っ。私(わたくし)もです! 私もお姉様のために一生懸命頑張りますわっ!』
そんな言葉と笑顔は……。実の家族のように過ごしてきた5年間は……。
どれも偽り。
すべては、コノルワーズ子爵家を我が物とするための策略で……。わたしを支えるフリをしてお屋敷に入り込み、ずっと水面下で仕込みを行っていて……。
――1年前にわたしはお屋敷を離れ、全寮制の学び舎であるルーンドラード学院に入学する――。
箔をつけるためにわたしがお屋敷を離れたタイミングで、動き出す。
邪魔者が居ない間に使用人達全員を買収し、同時進行で全親族には『土地などの所有権を譲る』などと約束をして味方につける。1年が経つ頃には全員が叔父達の仲間になっていて、次期当主を消す準備もしっかりと整っていた……。
何も知らないわたしは、来月5月に帰省した際に――足を滑らせ階段から落ちた時に頭を強く打って死亡、という形で亡き者にされることになっていたのだった。
「……お家の掌握や、お嬢様の殺害……。水面下故に、わたくしもまったく気が付きませんでした。ステファン様には感謝してもしきれません」
「そうね。あの人は命の恩人だわ」
つい先週のこと。家令を務めてくれていたお父様の旧友・アンリさんが急病によって現役を退くこととなり、急遽その息子であるステファン君が継いでくれることとなった。
そんなアンリさんも、平然と――お屋敷の中で真っ先にお父様を裏切っていて、アンリさんは良心の呵責に耐えられなくなる危険性がある長男ではなく、確実に自分の意思を継いでくれる次男のステファン君にバトンを渡していた。のだけど――
《ジェローム達はコノルワーズ家を我が物にしようと企んでおり、あまつさえお嬢様のお命を奪うつもりでいます》
――そのステファン君が、秘密裏に手紙を送ってくれた。
彼がそうしてくれた理由は、分からない。分からないけどアンリから聞かされた情報をそのままわたしへと流してくれて、醜悪な企みを把握することができたのでした。
「……ですが……。いえ、仕方がないことなのですが……。あの男……アンリがもう少し早く倒れていれば、と思わずにはいられません」
「そうね。人の不幸を願うのはよくないことだけれど、同感よ」
企みを把握したタイミングが遅すぎて、どうやっても罪を明るみに出来ない。
悪巧みを知っているのに、罪に問えないのは……。殺されてしまう前に行方をくらまし、侍女の実家経由で外国に逃げることしかできないのは、歯がゆい。
「……でも」
「? お嬢様……?」
「探せば、見つかるかもしれないわ。一矢報いる方法が」
帰省するまでは殺害の心配がなく、自由に動くことが出来る。
一か月。
これだけあれば、少しくらいは『お礼』が叶うかもしれない。
「…………アニェス。外を歩くわ」
わたしは昔から歩きながら考えた時が最も頭が働くし、長年隠されていた事実を知って吐き気がしている。そのため爽やかな風を感じながら散歩をすると決め、わたしはコッソリと女性用の宿舎を出て――
その、6~7分後。
ひょんなことから、反撃の一手が閃くことになるのでした。
「…………まさかあの人達が、そんなことを企んでいただなんてね。全然気が付かなかったわ」
ついさっきまで心地よい春の夜風が窓から入り込んでいた、寮内にある自室。その中で今晩届いたばかりの手紙を読み終えたわたしは、夜風と正反対の気分を抱きながら天を仰いでしまった。
――叔父一家こと叔父ジェロームとその妻レーアと娘シャリーが、コノルワーズ子爵家を乗っ取ろうとしている――。
今から5年前……。わたしが11歳の頃にロベールお父様とロランスお母様が事故で亡くなり、わたしが独り立ちするまでお父様の実弟であるジェローム叔父様が当主代行を務めるようになった。
その一環として叔父一家3人がお屋敷で一緒に住むようになり、わたし達はとても良い関係を築けていた……と思っていた。
『サンドリーヌ。わたしは兄上達にはなれないが、お前を支えてゆくことくらいはできる。もう一人の父と思い、遠慮なく頼ってくれ』
『わたくしもよ。なんでも言って頂戴ね』
『お姉様っ。私(わたくし)もです! 私もお姉様のために一生懸命頑張りますわっ!』
そんな言葉と笑顔は……。実の家族のように過ごしてきた5年間は……。
どれも偽り。
すべては、コノルワーズ子爵家を我が物とするための策略で……。わたしを支えるフリをしてお屋敷に入り込み、ずっと水面下で仕込みを行っていて……。
――1年前にわたしはお屋敷を離れ、全寮制の学び舎であるルーンドラード学院に入学する――。
箔をつけるためにわたしがお屋敷を離れたタイミングで、動き出す。
邪魔者が居ない間に使用人達全員を買収し、同時進行で全親族には『土地などの所有権を譲る』などと約束をして味方につける。1年が経つ頃には全員が叔父達の仲間になっていて、次期当主を消す準備もしっかりと整っていた……。
何も知らないわたしは、来月5月に帰省した際に――足を滑らせ階段から落ちた時に頭を強く打って死亡、という形で亡き者にされることになっていたのだった。
「……お家の掌握や、お嬢様の殺害……。水面下故に、わたくしもまったく気が付きませんでした。ステファン様には感謝してもしきれません」
「そうね。あの人は命の恩人だわ」
つい先週のこと。家令を務めてくれていたお父様の旧友・アンリさんが急病によって現役を退くこととなり、急遽その息子であるステファン君が継いでくれることとなった。
そんなアンリさんも、平然と――お屋敷の中で真っ先にお父様を裏切っていて、アンリさんは良心の呵責に耐えられなくなる危険性がある長男ではなく、確実に自分の意思を継いでくれる次男のステファン君にバトンを渡していた。のだけど――
《ジェローム達はコノルワーズ家を我が物にしようと企んでおり、あまつさえお嬢様のお命を奪うつもりでいます》
――そのステファン君が、秘密裏に手紙を送ってくれた。
彼がそうしてくれた理由は、分からない。分からないけどアンリから聞かされた情報をそのままわたしへと流してくれて、醜悪な企みを把握することができたのでした。
「……ですが……。いえ、仕方がないことなのですが……。あの男……アンリがもう少し早く倒れていれば、と思わずにはいられません」
「そうね。人の不幸を願うのはよくないことだけれど、同感よ」
企みを把握したタイミングが遅すぎて、どうやっても罪を明るみに出来ない。
悪巧みを知っているのに、罪に問えないのは……。殺されてしまう前に行方をくらまし、侍女の実家経由で外国に逃げることしかできないのは、歯がゆい。
「……でも」
「? お嬢様……?」
「探せば、見つかるかもしれないわ。一矢報いる方法が」
帰省するまでは殺害の心配がなく、自由に動くことが出来る。
一か月。
これだけあれば、少しくらいは『お礼』が叶うかもしれない。
「…………アニェス。外を歩くわ」
わたしは昔から歩きながら考えた時が最も頭が働くし、長年隠されていた事実を知って吐き気がしている。そのため爽やかな風を感じながら散歩をすると決め、わたしはコッソリと女性用の宿舎を出て――
その、6~7分後。
ひょんなことから、反撃の一手が閃くことになるのでした。
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