無実の罪で聖女を追放した、王太子と国民のその後

柚木ゆず

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番外編その1 新たな日常と、芽生えたもの 俯瞰視点(3)

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((……僕は今……。無意識で、彼女のことを考えていた……))

 それはサンエンジュ孤児院を発って、五分くらいの時が経過した頃でした。サイモンは知らず知らず前方の席を――さっきまでビアンカが座っていた場所を眺め、更にはビアンカのことを考えていたと気が付きました。
 そして――

((それに……。知らない間に、頬が緩んでもいたんだね))

 ――無意識的な表情の変化にも、気付きました。

((先ほどまで素晴らしい人と時間を過ごし、今日も素敵な場面をいくつも目にした。そうなるのは自然――なのだけれど。こうなった理由は…………それだけでは、ないみたいだね))

 今サイモンの右手が触れている、自身の胸元。その奥には、温かなものがありました。
 そのため彼は、ほどなくみたび気付くことになりました。


 ビアンカに恋をしている。


 という事実に。

((さっき僕自身が言っていたように、彼女は素晴らしい人だと知っていた。そこにいくつもの――1年と3か月分の上乗せがあったのだから……。そうなるのは、それこそ当たり前か))

 祖国にいる家族や困っている者のために、限界を超えて動き続けていた。

 自分や国民に恩返しをしたいと言ってくれて、豊穣を願いこの国の聖女となってくれた。

 わざわざ各地に出向いてくれて、働く民を見て顔を綻ばせてくれた。

 などなど。
 これまでの出来事を振り返り、彼は得心しました。

((…………ビアンカ。彼女と手を取り歩いてゆけたら、幸せだね))

 ですのでサイモンは、王太子であり一人の男として国王に想いを打ち明け、王を始めとした王族は、全員がビアンカに敬意を抱いていました。そのため非常にスムーズに『お願い』を行う許可がおり、それから3日後。この日の『確認』が終わったあと、声をかけて二人きりの状況を作ってもらい――

「ビアンカ、僕は貴女を愛しています。よろしければ、結婚を前提として交際を行ってはくれませんか?」

 胸の中にある感情を、打ち明けたのでした。
 そして――
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