運命の人と出逢ったから婚約を白紙にしたい? 構いませんがその人は、貴方が前世で憎んでいた人ですよ

柚木ゆず

文字の大きさ
12 / 27

第7話 今度は奪い取る側に アルチュール視点(2)

しおりを挟む
「やあ。ちょっといいかい?」
「っ! ドザベルド様!? おっ、お声がけっ、こっ、光栄でございます!」

 ある日の夜のこと。俺は護衛と共に街に繰り出し、そこにいたそばかすの男に声をかけた。
 コイツは、マック。ザストール家の御者を務めている、36歳の男だ。

「君に話したいことがあって、あっちに停めてある馬車に来てもらいたいんだ。オフを楽しんでいるところ申し訳ないが、いいかな?」
「もちろんでございますっ!」

 俺は、ザストール家の一人娘の将来の夫、になる男。そのつもりはまったくないが、現在はそうなっている男だ。
 マックは背筋を伸ばしながら即答し、俺達は馬車へと――第三者の目も耳もない場所へと移動した。

「ありがとう。感謝するよ」
「とんでもございません! わたくしめに御話とは、いったい……?」
「…………マックくん。君は借金があるようだね。それも、多額の」
「!? どうして、それを……」
「俺は貴族だ。そのくらいの情報取集は朝飯前さ」

 というのは、半分嘘。ヴィルジニーから奪い取った金の一部を使い、優秀な人間を雇って調べさせたのだ。

「その額を返済するのは、なかなかに大変。実際、相当苦労しているようだね?」
「……………………」
「そんな君に、嬉しいニュースがある。俺の言うことを聞いてくれたのなら、その借金をすべて払ってあげようじゃないか」

 その瞬間、だった。マックが驚きの声をあげ、こちらに身を乗り出すようになった。

「それだけじゃない。更にあるお礼として、1000万リーバルをあげようじゃないか」
「ほっ、本当でございますか!? 言うこととはっ、なんなのでしょうか……!?」
「それはね。『馬が暴走して突然走り出し、運悪く進路にいたヴィルジニーは轢かれて死んでしまう』。という計画に、協力してもらいたいんだよ」

 俺と出かけている最中のこと。馬を休ませるために馬車を降り、のんびり過ごしていたら突如暴走して死亡――。
 俺がそうなってしまったように、アイツにも死を与えなければならない。そのために行うのが、コレだ。

「お、お嬢様を……。な、なぜ、そのようなことを……」
「理由は話せないが、アレには消えてもらわないといけないんだよ。だから水面下で計画を進めていて、君は最後のピースなんだよ」

 すでにマック以外の『ヴィルジニーに同行する者』は買収していること。
 全員買収しているが故に、口裏を合わせて暴走の責任は負わされないようにできること。
 それらをすべて、伝えた。

「そ、そんな……。ほんとう、に……? 他の者も、うらぎって、いる、のですか……?」
「ああ、本当さ。実際に聞いてみるといい」

 コイツと同じように関係者の周辺を調べ、こちらの味方になるようなポイントを見つけ、そこを突いて仲間にした。
 もちろんソレにかかった費用はすべて、ヴィルジニーから奪っているのだ……!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます

天宮有
恋愛
 水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。  それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。  私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。  それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。   家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。  お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。  私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

処理中です...