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第9話 あの時もうひとつ 俯瞰視点
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「アルチュール様。わたくしがお注ぎしますわ」
「ありがとう。じゃあ君のグラスには、俺が注ぐね」
婚約が結ばれた際は、その祝いにワインで乾杯をする――。
アルチュールにブリュノの記憶が蘇ったあの時。異変が起きていた者は、もう一人いたのでした。
してもらったら、してあげるのが当たり前。3分の1ほどワインが注がれたグラスを一旦テーブルに置いて、ボトルを持ってヴィルジニーのグラスへと注ぎ――
((…………あら?))
それは、アルチュールのグラスにワインを注ぎ始めてすぐのこと。ヴィルジニーの頭の中に、女性の不思議な声が響き始めたのでした。
((誰かと話しているような声が、聞こえて来た気がしたけれど……。アルチュール様もお父様達も、おかしな反応をしていない。気のせいみたいですわね))
そう思ったため困惑を表には出さず、ワインをつぎ終えた――その瞬間でした。
《わたくし、ブリュノ様と『18歳記念』をお祝いできると思っていませんでした》
ブリュノも聞いたあの台詞がハッキリと頭の中に響き渡り、その言葉を正確に理解した瞬間、
「わたくし、ブリュノ様と『18歳記念』をお祝いできると思っていませんでした」
「俺もだよ。一年前は、まさかミレーユとこんな関係になるとは思ってもみなかった。あの日の出逢いに感謝だね」
「はい。あの日の出逢い――運命の出逢いに、感謝だね」
「ふふふ。乾杯」
「ふふっ。乾杯」
「ふぁ……? お父様……? ただいま、もどりましたわ……。わたくし、もどりましたの……」
「ふふっ。ミレーユ、俺はお義父さんじゃないよ。愛しのブリュノだよ」
「……お父様ぁ。聞いてくださぃ……」
「う~ん、参ったな。とりあえず水を飲ませて、酔いを醒まさせないと――」
「ブリュノわぁ、ますますわたくしにぃ、惚れるようになりましたぁ。けいかくは、じゅんちょう、ですよぉ……」
「くふふぅ……。いろいろぉ、わたくしのものに、なるぅ……。はぁいはぁい……。協力、のおれいは、ちゃんとしますからぁ……。これからもぉ……バックアップ……おねがい、します、わぁ…………。すぅ、すぅ、すぅ…………」
「………………そういうこと、だったのか。よくも騙しやがったな……!!」
ミレーユ・ファトートだった頃の記憶が、全て蘇ったのでした。
((…………そう、だったのね。わたくしは、かつてミレーユで……。この男が、ブリュノなんだわ))
「? アルチュール様、どうされたのですか?」
「? アルチュール……?」
「? アルチュールくん……?」
「…………………………え? あ、ああ。今、誰かの声が聞こえませんでしたか?」
などなど。その直後にアルチュールが自分と同じ反応をしていたため、『あの時の行動を再現してしまったから覚醒した』と確信。アルチュールがミレーユ=ヴィルジニーだと気付く前に、すでにヴィルジニーの中でアルチュール=ブリュノとなっていたのです。
((へぇ、ふ~ん。あの男が目の前に居るだなんてね。……それなら、前世でできなかった『お礼』をしないといけないわねぇ……!!))
酔ってしまっての自白。それによってせっかくの婚約が白紙となった上に、ミレーユに何かしらの対応をしないとミアテーズ家に睨まれ続ける羽目になってしまいます。
そこで父であり当主は『散々期待させたのに空振りとなった怒りをぶつける』&『自分は無関係だとアピール』するために、ミレーユに厳しい罰を与えた――その後追放されて路頭に迷い、疫病にかかって野垂れ死ぬという結末を迎えていたのです。
((勝手に極刑に処されて、あの時叶わなかった復讐を……!! わたくしをあんな目に遭わせた罰を、必ず与える……!!))
アルチュールもヴィルジニーも、同類。そのためそういった思考に至り、水面下で動き出して――
「ありがとう。じゃあ君のグラスには、俺が注ぐね」
婚約が結ばれた際は、その祝いにワインで乾杯をする――。
アルチュールにブリュノの記憶が蘇ったあの時。異変が起きていた者は、もう一人いたのでした。
してもらったら、してあげるのが当たり前。3分の1ほどワインが注がれたグラスを一旦テーブルに置いて、ボトルを持ってヴィルジニーのグラスへと注ぎ――
((…………あら?))
それは、アルチュールのグラスにワインを注ぎ始めてすぐのこと。ヴィルジニーの頭の中に、女性の不思議な声が響き始めたのでした。
((誰かと話しているような声が、聞こえて来た気がしたけれど……。アルチュール様もお父様達も、おかしな反応をしていない。気のせいみたいですわね))
そう思ったため困惑を表には出さず、ワインをつぎ終えた――その瞬間でした。
《わたくし、ブリュノ様と『18歳記念』をお祝いできると思っていませんでした》
ブリュノも聞いたあの台詞がハッキリと頭の中に響き渡り、その言葉を正確に理解した瞬間、
「わたくし、ブリュノ様と『18歳記念』をお祝いできると思っていませんでした」
「俺もだよ。一年前は、まさかミレーユとこんな関係になるとは思ってもみなかった。あの日の出逢いに感謝だね」
「はい。あの日の出逢い――運命の出逢いに、感謝だね」
「ふふふ。乾杯」
「ふふっ。乾杯」
「ふぁ……? お父様……? ただいま、もどりましたわ……。わたくし、もどりましたの……」
「ふふっ。ミレーユ、俺はお義父さんじゃないよ。愛しのブリュノだよ」
「……お父様ぁ。聞いてくださぃ……」
「う~ん、参ったな。とりあえず水を飲ませて、酔いを醒まさせないと――」
「ブリュノわぁ、ますますわたくしにぃ、惚れるようになりましたぁ。けいかくは、じゅんちょう、ですよぉ……」
「くふふぅ……。いろいろぉ、わたくしのものに、なるぅ……。はぁいはぁい……。協力、のおれいは、ちゃんとしますからぁ……。これからもぉ……バックアップ……おねがい、します、わぁ…………。すぅ、すぅ、すぅ…………」
「………………そういうこと、だったのか。よくも騙しやがったな……!!」
ミレーユ・ファトートだった頃の記憶が、全て蘇ったのでした。
((…………そう、だったのね。わたくしは、かつてミレーユで……。この男が、ブリュノなんだわ))
「? アルチュール様、どうされたのですか?」
「? アルチュール……?」
「? アルチュールくん……?」
「…………………………え? あ、ああ。今、誰かの声が聞こえませんでしたか?」
などなど。その直後にアルチュールが自分と同じ反応をしていたため、『あの時の行動を再現してしまったから覚醒した』と確信。アルチュールがミレーユ=ヴィルジニーだと気付く前に、すでにヴィルジニーの中でアルチュール=ブリュノとなっていたのです。
((へぇ、ふ~ん。あの男が目の前に居るだなんてね。……それなら、前世でできなかった『お礼』をしないといけないわねぇ……!!))
酔ってしまっての自白。それによってせっかくの婚約が白紙となった上に、ミレーユに何かしらの対応をしないとミアテーズ家に睨まれ続ける羽目になってしまいます。
そこで父であり当主は『散々期待させたのに空振りとなった怒りをぶつける』&『自分は無関係だとアピール』するために、ミレーユに厳しい罰を与えた――その後追放されて路頭に迷い、疫病にかかって野垂れ死ぬという結末を迎えていたのです。
((勝手に極刑に処されて、あの時叶わなかった復讐を……!! わたくしをあんな目に遭わせた罰を、必ず与える……!!))
アルチュールもヴィルジニーも、同類。そのためそういった思考に至り、水面下で動き出して――
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