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プロローグ 生まれた時から決まっていたバッドエンド ミーア・ルファポール視点
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8月18日。わたしは今日、19年歩んできた『ルファボール子爵令嬢』としての人生を終えることとなりました。
なぜ、そんなことになってしまったのかというと――
「ミーア、いいな? ロンダルール殿に、しっかりご奉仕するのだぞ」
――齢79の、所謂成金の老人のもとに売られてしまうからです。
その方の、性欲を満たすための道具として。
『いいこと、ミーア。自分でもケアを怠らないように。特に顔は入念にマッサージをしなさい』
『はい、お母様。……でも……。どうしてわたしだけ、ここまでお手入れをするのですか?』
『貴方は一番綺麗になれる素材を持っているからよ。磨けば輝くダイヤモンドの原石だから、徹底的に磨くのよ』
という幼い頃に言われた言葉は、真っ赤な嘘。
世の中には『貴族の血を引く美しく若い女』を高値で欲しがる悪趣味な生き物が多数存在しており、該当する人間を差し出せば億単位のお金が手に入るだけではなく、その相手と繋がりを持つことができるようになります。そこで長女と次女は他貴族に嫁入りさせるために育て、3人目であるわたしは売るために育てていたのです。
父親と母親、楽しく過ごせるように。
「ミーア、聞こえているの? い・い・わ・ね?」
「はいお母様、心得ております。……お父様とお母様も」
「はあ。いちいち言わなくても、分かっているわよ」
「手に入った金の一部を領民に還元しろ、だろう? 反故にするつもりは毛頭ない」
両親の狙いは10歳の頃に気付いていたものの、逃げる術はない。逃げ出そうとすればすぐに捕まってしまうため、この状況から逃れるには自死しかありませんでした。
ですがすでにこの身には、ご先祖様や領民たちが懸命に生み出したお金がたっぷり注がれています。死を選ぶとそれらを全てフイにしてしまうので、そうするわけにはいきません。
でも、唯々諾々と従うのも納得できませんでした。
そこで自死をチラつかせてお父様達と交渉を行い、少しでも領民達が楽に生きていけるようにしたのです。
「……上に立つ者には、相応の責任であり義務が生じます。お父様、お母様、お姉様達も。ゆめゆめお忘れな――」
「しつこいぞ。何度も聞いてやった話をするな」
「分かった、と言っているでしょう」
「まるで、壊れかけのレコードですわ」
「まったく。嫌になるわ」
お父様とお母様だけではなく、お姉様も自分さえよければいい人間。今回も最後まで喋らせてもらえませんでした。
「そんなことより、もう時間だ。ミーア、ロンダルール殿をお迎えする準備をしろ」
わたしを1・5億ベルールで買ったその御方は、少しでも早く自分の傍に置きたいとのこと。早々に車内でアレコレしたいと仰っていたそうで……直々にいらっしゃると連絡があり、わたし達は門の前で整列しているのです。
「常に笑顔で従順。どんなことがあっても、『ありがとうございます』『幸せでございます』を忘れないように。いいわね?」
「はい。そちらも心得ております」
幸せ? そんなもの、そんな人と過ごす中で生まれるはずがない。人を人とも思わない人と過ごす人生は、例えるならば地獄のようでしょう。
けれど。
生きていたら、きっと良いことがある。
あの頃に気付いた、そんな思いを胸に抱きながら待っていると――ほどなく馬車が現れ、わたし達の前で停車しました。
ウチのものよりも、遥かに豪華な馬車。
大きく綺麗な車の扉が静かに開き、そこから……。以前お会いした際に心の底から嫌悪感を覚えた、下卑た笑みを浮かべた肥満体型の老人が――
「え……?」
「「「「え……?」」」」
――降りて、きませんでした。
…………どう、なっているのでしょう? 馬車から降りてきて、わたし達の前に現れたのは――
「予定より少々早い到着をお許しください。姫をお迎えにあがりました」
――白のスーツに身を包んだ、王子様然とした美男さんだったのです。
なぜ、そんなことになってしまったのかというと――
「ミーア、いいな? ロンダルール殿に、しっかりご奉仕するのだぞ」
――齢79の、所謂成金の老人のもとに売られてしまうからです。
その方の、性欲を満たすための道具として。
『いいこと、ミーア。自分でもケアを怠らないように。特に顔は入念にマッサージをしなさい』
『はい、お母様。……でも……。どうしてわたしだけ、ここまでお手入れをするのですか?』
『貴方は一番綺麗になれる素材を持っているからよ。磨けば輝くダイヤモンドの原石だから、徹底的に磨くのよ』
という幼い頃に言われた言葉は、真っ赤な嘘。
世の中には『貴族の血を引く美しく若い女』を高値で欲しがる悪趣味な生き物が多数存在しており、該当する人間を差し出せば億単位のお金が手に入るだけではなく、その相手と繋がりを持つことができるようになります。そこで長女と次女は他貴族に嫁入りさせるために育て、3人目であるわたしは売るために育てていたのです。
父親と母親、楽しく過ごせるように。
「ミーア、聞こえているの? い・い・わ・ね?」
「はいお母様、心得ております。……お父様とお母様も」
「はあ。いちいち言わなくても、分かっているわよ」
「手に入った金の一部を領民に還元しろ、だろう? 反故にするつもりは毛頭ない」
両親の狙いは10歳の頃に気付いていたものの、逃げる術はない。逃げ出そうとすればすぐに捕まってしまうため、この状況から逃れるには自死しかありませんでした。
ですがすでにこの身には、ご先祖様や領民たちが懸命に生み出したお金がたっぷり注がれています。死を選ぶとそれらを全てフイにしてしまうので、そうするわけにはいきません。
でも、唯々諾々と従うのも納得できませんでした。
そこで自死をチラつかせてお父様達と交渉を行い、少しでも領民達が楽に生きていけるようにしたのです。
「……上に立つ者には、相応の責任であり義務が生じます。お父様、お母様、お姉様達も。ゆめゆめお忘れな――」
「しつこいぞ。何度も聞いてやった話をするな」
「分かった、と言っているでしょう」
「まるで、壊れかけのレコードですわ」
「まったく。嫌になるわ」
お父様とお母様だけではなく、お姉様も自分さえよければいい人間。今回も最後まで喋らせてもらえませんでした。
「そんなことより、もう時間だ。ミーア、ロンダルール殿をお迎えする準備をしろ」
わたしを1・5億ベルールで買ったその御方は、少しでも早く自分の傍に置きたいとのこと。早々に車内でアレコレしたいと仰っていたそうで……直々にいらっしゃると連絡があり、わたし達は門の前で整列しているのです。
「常に笑顔で従順。どんなことがあっても、『ありがとうございます』『幸せでございます』を忘れないように。いいわね?」
「はい。そちらも心得ております」
幸せ? そんなもの、そんな人と過ごす中で生まれるはずがない。人を人とも思わない人と過ごす人生は、例えるならば地獄のようでしょう。
けれど。
生きていたら、きっと良いことがある。
あの頃に気付いた、そんな思いを胸に抱きながら待っていると――ほどなく馬車が現れ、わたし達の前で停車しました。
ウチのものよりも、遥かに豪華な馬車。
大きく綺麗な車の扉が静かに開き、そこから……。以前お会いした際に心の底から嫌悪感を覚えた、下卑た笑みを浮かべた肥満体型の老人が――
「え……?」
「「「「え……?」」」」
――降りて、きませんでした。
…………どう、なっているのでしょう? 馬車から降りてきて、わたし達の前に現れたのは――
「予定より少々早い到着をお許しください。姫をお迎えにあがりました」
――白のスーツに身を包んだ、王子様然とした美男さんだったのです。
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