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第3話 7年前の出会いと、気持ちの変化 マティアス視点(4)
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「男の子くん、お待たせ……。ご飯、持ってきたよ」
「お、おい。お前、大丈夫か? どこか悪いんじゃないのか?」
食事の提供が始まって、1か月後。その日俺は、料理より先に彼女の顔を覗き込んだ。
段々とやつれていっていて、いずれ治ると思っていたが治らない。それどころか、今日はふらふらしている。そのため、まだ荒んでいた――他より自を優先するようになっていた俺でも、心配せざるを得ない程だったのだ。
「ううん、だいじょうぶ、だよ……。ほらね。元気元気……っ」
「いや、どう見ても元気じゃないだろ……。熱はないのか?」
「頭は熱くなくて、お熱は全然ないよ。平気だから、今日もお話、しよ」
「…………あ、ああ。分かった。じゃあ、あっちのベンチで話そうぜ」
きっと食料の確保によって、心に余裕ができていたのだと思う。この関係が始まって1週間後に『もっとゆっくり、おつかいをできるようになったの。帰る前に、お話ししてもいい?』と言われてOKを出し、毎回ベンチで40~50分ほど他愛もない話をするようになっていた。
――そうする時の彼女は、本当に楽しそう――。
――目をキラキラさせて、無邪気に微笑んで――。
そんな表情と空気感が、影響していたのだろう。自然と俺としても、悪くはないと感じる時間となっていた。
『今朝お部屋の窓から空を見たら、ドーナツみたいな雲があったの。男の子くんは、見た事ある?』
『ドーナツは、ないな。俺が見る時は、動物の形が多い』
『そうなんだ。どんな形があった?』
『ライオン、キリン、ゾウ、アヒル、チーター、鳥だな。鳥は知識がないから名前は言えないけど、9種類は見てる』
『……ね。男のくんって、さ……』
『? 急にモジモジしてどうしたんだ? 答えられない質問なんてないから、何でも言えって』
『う、うん。…………男の子くんが好きなね、女の子のタイプってなあに?』
『はぁ? 好きなタイプ? 今までずっと、異性に興味を持つ余裕なんてなかったからな。考えたことがなかった』
『そ、そっか、そうだよね。……あ、あのね、男の子くん』
『ん?』
『…………ここで私とお喋りする時間は、どうかな? 楽しい、かな?』
『普通だよ、普通。ただまあ、楽しくないこともない。こうやって話していると暇潰しになるし、なんつーか。お前を見てると、そこそこ気分が良くなるからな』
『っっ! そ、なんだ……っ。そなんだね……っっ』
『??? 顔を赤くして、どした? やっぱり熱でもあるんじゃねーの?』
『ううん違うのっ。なんでもないよっ。ぇへへへぇ……っ』
とまあ。今日もこんな風に言葉を交わし、いつものようにさよならをする。
けれど今回は、ここからは『いつも』とは違う。手を振り返して見送った後、俺は彼女をつけ始めた。
((……はぁ。まったく、世話の焼けるヤツだぜ……))
いつにも増して調子が悪そうで、不安になった。それが半分。
もう半分は、コイツに何かあったら食料が途絶えかねない。
言い訳をするとまだまだ打算な面があった俺は荷物をまとめ、培ったテクを駆使して尾行を行う。
そして、その後――。尾行の終着点で、俺は2つの真実を知ることになるのだった。
「お、おい。お前、大丈夫か? どこか悪いんじゃないのか?」
食事の提供が始まって、1か月後。その日俺は、料理より先に彼女の顔を覗き込んだ。
段々とやつれていっていて、いずれ治ると思っていたが治らない。それどころか、今日はふらふらしている。そのため、まだ荒んでいた――他より自を優先するようになっていた俺でも、心配せざるを得ない程だったのだ。
「ううん、だいじょうぶ、だよ……。ほらね。元気元気……っ」
「いや、どう見ても元気じゃないだろ……。熱はないのか?」
「頭は熱くなくて、お熱は全然ないよ。平気だから、今日もお話、しよ」
「…………あ、ああ。分かった。じゃあ、あっちのベンチで話そうぜ」
きっと食料の確保によって、心に余裕ができていたのだと思う。この関係が始まって1週間後に『もっとゆっくり、おつかいをできるようになったの。帰る前に、お話ししてもいい?』と言われてOKを出し、毎回ベンチで40~50分ほど他愛もない話をするようになっていた。
――そうする時の彼女は、本当に楽しそう――。
――目をキラキラさせて、無邪気に微笑んで――。
そんな表情と空気感が、影響していたのだろう。自然と俺としても、悪くはないと感じる時間となっていた。
『今朝お部屋の窓から空を見たら、ドーナツみたいな雲があったの。男の子くんは、見た事ある?』
『ドーナツは、ないな。俺が見る時は、動物の形が多い』
『そうなんだ。どんな形があった?』
『ライオン、キリン、ゾウ、アヒル、チーター、鳥だな。鳥は知識がないから名前は言えないけど、9種類は見てる』
『……ね。男のくんって、さ……』
『? 急にモジモジしてどうしたんだ? 答えられない質問なんてないから、何でも言えって』
『う、うん。…………男の子くんが好きなね、女の子のタイプってなあに?』
『はぁ? 好きなタイプ? 今までずっと、異性に興味を持つ余裕なんてなかったからな。考えたことがなかった』
『そ、そっか、そうだよね。……あ、あのね、男の子くん』
『ん?』
『…………ここで私とお喋りする時間は、どうかな? 楽しい、かな?』
『普通だよ、普通。ただまあ、楽しくないこともない。こうやって話していると暇潰しになるし、なんつーか。お前を見てると、そこそこ気分が良くなるからな』
『っっ! そ、なんだ……っ。そなんだね……っっ』
『??? 顔を赤くして、どした? やっぱり熱でもあるんじゃねーの?』
『ううん違うのっ。なんでもないよっ。ぇへへへぇ……っ』
とまあ。今日もこんな風に言葉を交わし、いつものようにさよならをする。
けれど今回は、ここからは『いつも』とは違う。手を振り返して見送った後、俺は彼女をつけ始めた。
((……はぁ。まったく、世話の焼けるヤツだぜ……))
いつにも増して調子が悪そうで、不安になった。それが半分。
もう半分は、コイツに何かあったら食料が途絶えかねない。
言い訳をするとまだまだ打算な面があった俺は荷物をまとめ、培ったテクを駆使して尾行を行う。
そして、その後――。尾行の終着点で、俺は2つの真実を知ることになるのだった。
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